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『真上の部屋からの騒音と、強引且つ粗暴な押し掛けに困っていらっしゃるという事でお間違いございませんね?」
「ぁ、はい…」
『お答えいただき、ありがとうございます。
解決に向けて動きますが、御希望をお伺いしますね。
問題を遠ざけたい。
綺麗さっぱり消し去りたい。
どちらを希望なさいますか? 問題を遠ざけるというのは、あくまで一時的な物に留まる可能性が高いです。綺麗さっぱり…と言うのは、今後一切、その相手からは悩まされずに済む…と言う感じでございますね』
つい切り損ねてしまったが、解決そのものが難しいと言わない事に、弥生の意識はグッと引き寄せられた。
これは期待出来るかも…と思ってしまったのだ。
弥生はスマホを握る手に、つい力が入ってしまう。
「綺麗さっぱり…そんな事が出来るんですか?」
一時的に問題を遠ざけても、再燃の可能性があるというのは困る。
再びあの音と血走った目に襲われるなんて、静寂が取り戻せた後なら、もう絶対に耐えられないだろう。
今日、真柴が泊めてくれて、ほんのひととき離れられただけで、涙が零れ落ちそうになったのだ。
『勿論です。
御依頼主様の希望を最大限叶える。
これが当社のポリシーでございますので。
それで如何でしょう? 御契約を検討いただけますでしょうか?』
検討どころか契約したい。
それはもう一足飛びで!
……だが……
と、弥生は躊躇する。
弥生に都合が良すぎるのだ。こんな都合の良い契約なんて、疑って然るべきだろう。
ふいに良くない想像が頭を過る。
もしかして暴力沙汰になったりするのでは……何より契約金等はどうなるのだろう?
暴力沙汰になるとかなら、法外な金額を吹っ掛けられそうだ。
と言うか、その場合契約なんてとんでもない話になる。
「……その、考えたいと思うのですが…」
弥生はそこで一度、言葉を切って大きく深呼吸する。
「その…ですね……もしかして相手に痛みとかで言う事を聞かせる…とかなんでしょうか……私としては出来るだけ穏便に解決できるのが一番なので…。
それと!
あの…まだ契約の話になっていないのに済みません…お金の話なんですが……」
契約すると決めた訳でもないのに、お金の話は流石に嫌がられるのではないだろうか…と、声が尻すぼみになる。
『相手に痛み…ですか?
それはないと思われますので御安心下さい。
そして金額ですね。
えぇえぇ、これは気になって当然の事でございます。
そちらについても、御安心頂ける値段設定でございます。
先ず手付金として1万円。
成功報酬として1万円。
併せまして2万円にてお引き受けできるのですが、如何でしょう?』
『痛みはないと思われる』と言う曖昧な表現に引っ掛かりかけたが、金額の話でそんな引っ掛かりは吹き飛んだ。
(嘘でしょう?
何でそんなに安いの…?
ありえない…ありえないって……。
だって相手はあの…)
弥生の脳裏に赤ん坊の激しい夜泣きと、ドア越しの不気味な子供の声。
そして、ドアの隙間に差し入れられた真っ赤な爪と目玉が、瞬時に蘇った。
スマホが手から滑り落ちる。
落ちているのに……
『嘘ではございません。
かかる金額はそれのみ。
ただ、騒音の源の最終確認だけ、お願いしたいのですが、それは大丈夫でしょうか?』
「最終確認…ですか?」
『はい。
佐々木様にとって不快な音源の特定ですね。
まぁ今回の場合、突撃もされていますし、騒音のみで留まっていない訳ですが、対処に違いはございません』
スマホは弥生の足元に転がっている。
その画面は真っ暗で、起動していない。
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