17
シャワーを終えて出ると、テレビの前に置かれたテーブルの上には、いろんな料理が所狭しと並べられていた。
弥生が作った肉じゃがや御浸しに加え、スーパーで買って来たお惣菜も並んでいる。明太子のポテサラは真柴が作ったものだろう。店で買うより明太子の量が多い。とても美味しそうだ。
パジャマを借りて、二人ともテーブルにつく。
「「いただきまーーす」」
晩御飯とも言えない、なんちゃって居酒屋な品々に舌鼓を打ちながら、仕事の話や、同僚の恋バナに花が咲く。
違う部署の同僚が、今度寿退職するのだ。
その送別会の話が一段落した頃合いで、真柴は少し言葉を止める。
そしてちょっぴり困ったような、苦しいような…表現に悩む表情を向けてきた。
「それで……どう?
相変わらず?」
「え?」
「だから…騒音…」
「………」
お泊りする事になった原因の話だ。
弥生はへらりと眉尻を下げて、苦く笑う。
「あ~……アハハ…まぁ、そう…ですね。
変わらずと言うか……」
言葉が途切れる。
昨晩の女性の真っ赤な爪と、血走った目玉を思い出し、弥生は小さく震えた。
でも…と、考える。
と言うか、ご近所も心配してくれているし、こうして真柴だって気にかけてくれている。だが、もう昨夜の事で自分の限界が見えてしまった。
目頭が熱いと思った瞬間、涙が溢れ、この数日の事、昨晩の事を話し出した。
途中、何度もつっかえたり、時系列がおかしな事になりながらも、何とか話を進めていくうちに真柴の眉間に皺が寄って行く。
「なんなの…それ…」
「いや、そも慰謝料って何? 払うとしたらあっちでしょう!?
そいつ馬鹿なの? あ~馬と鹿に失礼か。
自治会長さんに注意を受けたからって……それ逆恨みって奴よね。うっわぁぁ……いや、最近おかしな人多いわよ?
電車でも疲れ切って船漕いでる会社員に、席を譲れとか…どうみてもテーマパーク帰りの親子が絡んでたりとかさぁ。
もう常識ないの? 羞恥心とか何処に置き忘れた? って、色々と突っ込みどころ満載な輩多いわよ。
でもって、自分の常識のなさを棚上げにSNSで中傷とか、もうほんと訳わかんない輩、増えすぎ。でも謝罪とか慰謝料って……もう訴えよう?
警察とか行政とか。
引っ越しできればいいけど、それは難しいんでしょう? まぁ家に泊まりに来てくれるのは問題ないけど、弥生はそれは嫌なんでしょ?」
申し出は本当にありがたい。
真柴は純粋に心配してくれているのがわかるし、嫌な顔をせずに泊まらせてくれるだろう。
だが、そんな善意や好意に、胡坐をかくような真似はしたくない。
気遣いが嬉しいからこそ、心苦しく感じてしまう。
「嫌じゃないんですけど、やっぱり迷惑かけちゃうのは心苦しくて」
「そんなの気にしてないけどなぁ。なんならシェアしちゃっても構わないよ? 部屋の一つには段ボールとか置いてるだけで、問題なく空けられるし
もうここに引っ越しておいでよ」
あっけらかんと言う真柴に、涙が出そうなほど心が震えた。
なんだろう…もう少し頑張れそうな気がしてきた。考えれば、引っ越しで逃げても、もやもやが晴れない気がしたのだ。
今日ゆっくり眠らせて貰えば、気力は少しでも回復する。身体も少しは楽になる筈だ。
警察や行政に訴える前に、あのチラシに電話してみようと考えた。
法外な金額を取られるとか、そういうのだったらさっさと電話を切ってしまえば良い。最初の電話は公衆電話を探して、そこからかけて、名前も住所も、こっちの個人情報は明かさずに質問だけすれば良い。
かかる費用とか、どんな方法で解決するのか…そんな事を尋ねてみて、納得出来れば依頼すれば良いのだ。
それでどうしようもなければ、その時に行政や警察に訴えて、真柴の提案は最後の砦と思わせて貰えたら十分だ。
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