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―――『ご相談、承ります』―――
じっと見る。
『ご相談、お見積もりは無料』とあるので、電話してみる程度なら気軽に出来そうだ。
とは言え、騒音問題なんて拗れる事が多く難易度は非常に高い。そんな難しい案件を、どうやって解決するというのだろう。
穏便に……と望むのであれば、引っ越しするくらいしか思いつかない。と言うか、お金の余裕があるのなら、既に引っ越しに向けて動いていたと思う。先立つモノがない為に、動けないだけで……。
チラシを手に取って眺めていると、昨夜の女性の狂声が脳裏に再現される。
弥生は自分を宥めるよう二の腕を擦ると、無意識にチラシを鞄に放り込んだ。
今日の仕事も何とか無事終わった。
改善の兆しが見えない顔色に、真柴から酷く心配されてしまい、泊って行けと誘われる。確かにこのままでは倒れるのも時間の問題だろう。
何より昨夜の恐怖を思い出し、半分泣きそうになる。上司も流石に心配してくれて、本日は真柴共々残業は免除された。
まぁ残業と言っても、取引先からの電話待ちが発生していただけで、弥生や真柴でなければならない仕事ではない。
残ってくれる上司に見送られながら、弥生は真柴の家へ向かう事になった。
本当に仕事仲間に恵まれている。お近所にも恵まれていたのだが、何故こんな事に…と嘆きたくなる。
いつもなら別れる改札前を通り過ぎ、真柴と同じ電車に乗った。
車窓から見える風景がいつもと違うせいか、少し気持ちが浮上してきたようだ。真柴との何気ない会話も楽しめている。
電車から降りて直ぐのスーパーに立ち寄った。
いつものスーパーでは見かけないお酒などもあり、買い物するだけで本当に楽しい。こんな事なら、この前泊りを誘って貰った時に甘えていれば良かった…と、弥生は笑顔の脇でそっと息を吐く。
真柴の家に着くと、スーパーで購入してきたあれこれを、冷蔵庫や棚に収納しながら、交代でシャワーを済ませようと決まった。
先に真柴がシャワーとなったので、弥生は作れそうなメニューを組み立てた。晩御飯のおかずと言うより、お摘まみになりそうだが、勘弁して貰おう。
明日は仕事が休みなので、だらだらできるのだ。
食べたいものを食べたいときに食べ、寝たいときに寝る。そんな予定で居酒屋メニューっぽいおかずを作っていると、先にシャワーを済ませた真柴がキッチンに入って来た。
「おお!
肉じゃが!! 嬉しい!!
好物覚えててくれたんだ」
真柴はスッピンになっても、目鼻立ちのはっきりした、どちらかと言うと少しばかり派手めな美人だが、その容姿から受ける印象と違って、素朴な家庭料理が好物だ。特に煮物が好きらしい。
以前そんな話になったのを覚えていただけなのだが、こんなに喜んでくれるのなら、作り甲斐があるというものだ。
「えぇ!?
御浸しまである……ねね、鰹節ぶっかけちゃってもいい??」
ワクワクと言う真柴に笑顔で頷くと、シャワーを済まして来いと送り出された。
ありがたく、料理の続きは真柴にお願いして、シャワールームに向かった。
お酒もお喋りも楽しみたいと思える余裕が出来たので、弥生はシャワーの温度を熱めにする。
だってすぐに眠くなっては勿体ない。
いや、睡眠不足から少しでも脱却するために、今日は真柴のお誘いに甘えたというのに、本末転倒もいい所なのはわかっている。しかし、勿体ないと思ってしまうのも事実なのだ。
相変わらず鏡の中の顔は、酷い状態だ。それでも熱いシャワーのおかげで、少しはシャッキリした。
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