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朝からダッシュは堪えたが、何とかいつもの電車に間に合い、今日の仕事も恙無く終えた。
お昼もいつも通り真柴と一緒にとったのだが、例の雑誌の話が出る。最初はあの事件と言うか、都市伝説企画とも言える例の記事の事。
どうやら他の雑誌でも似たような夏企画があるのだそうで、面白そうな雑誌を幾つか教えて貰った。
その後はおススメコスメや新作のコンビニスイーツの話に移って行き、気付けばそう言った話題ばかりに花が咲いた。
意図して避けた訳ではないが、弥生の顔色の悪さを気にした真柴が、あえて別の話題を振ってくれたようだ。気遣いに泣けてきそうになる。
他人事として読む分には面白いと思えるが、弥生は現在音被害の当事者で、楽しむというより身につまされるというか…何とも言えない心地になるのだ。
そう言った空気を、真柴は敏感に感じ取ってくれたのだろう。
今日は残業もなく、いつもより早めに帰宅の途に付けた。
駅舎に着き、違う路線のホームへ向かう真柴を改札前で見送って、弥生も改札を抜けて電車を待つ。
一人になった事で気が抜けたのか、重い溜息が漏れた。
間もなく電車がホームに入って来るとアナウンスがあり、弥生は顔を上げる。
「…っ?」
向かい合う別のホームに、一人の女性が立っていた。
この暑いのに茶色の長袖の上着、同色のタイトスカート。足元はやはり茶色のハイヒールで、横の方が少し跳ねてはいるが黒髪の美しい、とんでもない美人だった。
その美人がじっと弥生を見つめている。
咄嗟に場所を移動していた。
あんな美人な知り合いは居ないし、自分が見られているなんて、自意識過剰過ぎるとも思った。なにより他の人を見ていただけかもしれないので、邪魔になっては悪いと、何となく思ったからだ。
少し後ろの車両の入り口側へと歩き、そろそろ電車が入ってくる頃に、その女性の方を見た。
確認と言うか、本当に特に何か考えた訳ではないのだが、つい見てしまったのだ。
ホームへ入ってきた電車によって視界を遮られる直前、その女性と……視線が交叉する。
弥生は自分を見下ろした。
何か変な所でもあっただろうか…と。
結局何も見つけられず、弥生は入ってきた電車に乗ったが、電車内からその女性が居た場所を見る。
だが、彼女の姿を見つける事は出来なかった。
最寄り駅で降り、まだ日が沈みきらないうちに帰宅できたのだからと、近くのスーパーに買い物に寄る。
お酒にお摘まみ、値引きされた総菜までゲットできて、ホクホクと階段を4階まで上ると、廊下に人影があった。
しかも弥生の部屋の扉の前…。
少し緊張しながら近付くと、自治会長が弥生の部屋のドアについているドアポストに、何か紙片を入れている所だった。
「あの…?」
自治会長がパッと顔をあげ、弥生を認識する。
「あ~あ~、会えると思わへんで、メモ入れてしもた。
おかえり」
柔和の微笑む老人だが、なかなか矍鑠とした男性で、結構声が大きい。
響いた自分の声に、少しバツが悪そうに笑うと、ここにいる理由を話してくれた。
どうやら上の階の子供の事含め、騒音が酷い事を雀淑女達が報告していったらしい。
弥生は知らなかったが、どうやら上の子供は昨晩以外にも色々とやらかしていた様だ。
大きな音を立てて駆けまわる…なんて序の口で……。
突然奇声を上げる。
他人の家に入り込む。
入り込んだ挙句、冷蔵庫や棚を漁る。
そして昨夜の深夜にドアを叩く…も加わったそうだ。
まだ越してきて一週間も経っていないのに、あちこちで苦情がでており、まだ直接抗議には誰も行っていないが、自治会長の所には苦情が集まりつつあるのだそうだ。
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