第5話 黒井姉妹とアイドル達。
2週間の訓練を終えていよいよ配信が始まった!
亜里は三人分の配信を同時視聴を行い、彼女達を見守る。
「あら? どうしたのかしら?」
久留麻茶菓と瑠璃目白の配信は何事もなくスタートしたのだが、 背黄青音呼 だけ配信がスタートしてからまだ一言も声を出さずに固まっている。
どうやらガチガチに緊張している様子で、コメントを目で追いながら「お水飲む」と言って息を切らしながら水を飲んでいた。
ようやく自己紹介に移ったかと思えば息が絶え絶えで、緊張から過呼吸に陥ってしまっているのがはっきりとわかる。
コメント欄が応援と批判メッセージが流れていき、それを目で追いながら何かしゃべろうとして、言葉に詰まっては水を飲んでいた。
元々陽気なオウムであった二人はおしゃべり上手で配信に問題はない。
亜里は「仕方ないわね」と呟いた後、マネージャールームから出て行き、音呼の配信ルームのドアをノックした。
しばらくしても返事のなかったので、部屋のドアを開き椅子に座っている音呼の後ろに立ったのだが、音呼は背後に亜里がいる事に気付いていない様子。
亜里は驚かせない様に優しくそっと両肩に手を置くと、音呼の肩が強張り「ピャーピャー」と甲高い奇声を上げて椅子から飛び跳ねた。
どうやら驚かせてしまったようで、亜里を見つめてじっと固まってしまっている。
亜里は優しい声色で「音呼ちゃん、大丈夫よー」と声を掛けながら音呼を座らせ、頭を撫でながら「音呼ちゃん、配信頑張ろうね」と声を掛けた。
亜里が囁きながら「音呼ちゃん、もう一回自己紹介してみようか」と言うと音呼は再び自己紹介を始める。
「あた、私様は背黄青音呼。 生粋のロックンローラーである私様が糞野郎共の為に配信してやる。 しっかりと刮目しやがれっす」
「よくできたねー、偉いねー」
亜里がそう言ってしっかりヨシヨシして褒めると、無表情だった音呼の表情が柔らかくなり、笑みを零し始める。
設定に無理があると言ったコメントが多く流れるが、気にせず亜里は音呼に配信を続けるよう促す。
少し調子が戻って来たのか、音呼の重々しかった口調が軽くなり、軽快に話を始める。
他の二人同様、音呼も元々おしゃべりするのが大好きだったので、まだ緊張は抜け切れていなかったが、亜里が後ろで見守る中、配信は順調に進んでいく。
途中、コメントで下着の色を聞かれて、音呼がそれを確認しようとするなどのハプニングもあったが、無事に初配信を終えるにまで至る事が出来た。
三人共メンタルさえ沈んでいなければ問題なく配信が出来ると判断して、亜里は反省会などはせず、軽いミーティングを三人としてマネージャールームへと帰還する。
亜里は休憩をせず、三人分のアーカイブをチェックする。
久留麻茶菓はリスナーが大好きで、ほぼ全てのコメントに即答で返事をしていて、アカペラで歌っている際にも歌いながらメロディーを崩す事なく返事をするなどの芸当も披露していた。
「登録者数も増え続けているし、明日には収益化出来そうね。 素晴らしい才能だわ。 まるで、インターネットアイドルになる為に生まれてきた存在のよう」
いや、本当に凄いのは彼女を見つけだし、その役割を与えた総督閣下だろう。
それに私は今、充実感に満たされている……。
きっと、総督閣下の中では私もパズルのピースの一部に過ぎないのだろう。
「久留麻茶菓は何の問題もないとして、瑠璃目白も問題なさそうね」
瑠璃目白は丁寧な言葉使いで、他二人の話しをよく話題にだしている。
二人の自慢やエピソードを語る彼女は、自分が主役じゃなくてもよく、大好きな二人の事を支えとなる事を望んでいる様子であった。
「献身的で謙虚な性格。 久留麻茶菓程は配信者に向いている性格とは言えないけど、本人のポテンシャルは高い。 爆発力は劣るけど、滲み出る性格の良さが彼女の強みね。 登録者数も増え続けているし明日には瑠璃目白も収益化できるわね」
背黄青音呼に関しては、一緒に配信していたので特に問題は無い事は把握している。
明日からは一人で配信をする事になるので、その点は少し心配ではあると亜里は考える。
他二人と違い、妙な言い回しや専門用語のような言葉も使ってるので、リスナーのノリも妙な事になってきている。
「罵る様な発言をしたり愛していると言ったり…… 私ももう少し学ぶ必要がありそうね。 なぜか登録者数も瑠璃目白よりも伸びてるし……」
配信の完成度と人気は比例しないのだと亜里は学ぶ。
そして、音呼のリスナーの間では、亜里がママやお母さんで定着しているのが少し気がかりであった。
「そっちも大変そー。 亜里もママになっちゃったのねー」
「私もって事は庵途もそう呼ばれてるのかしら?」
「ええ、そうよー。 今のところ、亜里は音呼ちゃん一人のママだけど私は…… 二人のママなのよー」
「二人の? ええっと…… 相談には乗るわよ?」
「あの二人ルックスはいいんだけどー、そっちと違って二人共馬鹿なのよ。 駝鳥野鳳五郎は筋肉が見たいって言われて下まで脱ぎそうになるしー、院堂孔雀の方はナルシストだから自分から脱ぎ出すしー」
「そっちはそっちで大変そうね。 配信自体は上手くいったの?」
「一応大成功。 でも、あの二人に任せてたらいつチャンネルを停止させられるかわからないしー、ちゃんと見てあげる必要があるわー」
「そうなのね。 あら? メールフォームから沢山メッセージが届いてるけど……」
「ああ、殺害予告ね。 私も見たんだけどー、マネージャーをしている私に嫉妬してるリスナーが多いみたいなのよねー。 相手にするつもりもないし、放っておいていいわよー」
「そう…… 私とあなたのアイドルでコラボとかはしない方が良さそうね」
「間違いないわー。 ねえ、亜里。 総督閣下はそれなりに稼げる様になればいいって言ってたけどー、私達ならもう少し上を目指せそうじゃない?」
「ええ、出来ると思うわ。 愚痴を言う割に庵途もやりがいを感じてるみたいね」
「そうなのよー。 次はこうしよう、ああしようって、今でも頭の中でグルグルと考えてる所よー。 このままの勢いで成長するのなら、総督閣下に頼んでもう少しアイドル達を増やして貰えるように進言するつもりー」
「総督閣下であれば、次のアイドルも有望な人材を連れて来てくれるでしょうね。 でも、私達の目的はあくまで世界征服。 総督閣下がこの事業を拡張していくとは思えないわ」
「そこは私達の頑張りしだいでしょー。 私達が成果をだせばきっと総督閣下はこの事業を応援してくれるって私は思ってる」
「そうだと良いわね」
黒井亜里は心の底から、この仕事だけに没頭したい。
そう思っていた。
何故ならこの仕事にやりがいを感じる以上に、美津姫うららから感じ取れる闇を恐れていたからであった。




