第33話 正義の焦土、博士の春。
夜明けと共に放たれたミサイル群は、一つの山を破壊し尽くした。
予め備えていた生き残り怪人への対策も、必要のない程の破壊。
防衛ラインでは、やせ細ったウシガエルの怪人が、稀に出て来るくらいであった。
ヒーローの基地にある会議室。
ここでは、寝返った怪人の代表として泯府鉤爪が会議に参加していた。
「避難勧告は出されていたはずだ…… なぜ、あの山に民間人がいる!」
「小原大尉。 報告では怪人の遺体はほんの数十体程度、それに対して、被害にあった民間人の数は数千人との事です」
「――怪人達は何処へ行った?」
「現在調査中との事ですが、地下に巨大な湖があり、巨大な潜水艦ドックの様だと会議直前に報告がありました!」
「そうか…… 泯府鉤爪君。
結果的に、我々の大義名分は多くの民家人を犠牲にしてしまった。
君の考えを聞かせて貰おう」
「ああ、分かるよ? 僕たちの誰かが、秘密結社ルイナス側に情報を流したって言いたいんだよね?」
「君達の境遇については理解している。
だが、あちら側へ戻りたいと思っている怪人もいるのではないか?」
「それはないね。 でも、怪しい人なら一人いるよ? すっごい怪しいのが」
「ほう、それは誰かね?」
「興梠博士。 僕見ちゃったんだよね……。
ハトが博士に手紙を渡している所を、あれって普通のハトに見えたけど、実は怪人だったんじゃないかなって、僕は疑ってるんだけど?」
「博士、手紙について話して頂けますかな?」
「ふむ…… では、簡潔に答えよう。 少し遅咲きの青春じゃ」
「青春……? その手紙、拝見させて頂けますか?」
「えぇー? 見るのぉ?」
「ええ、人類の存亡が掛かっているので、強制的にでも拝見させて貰いますよ?」
興梠博士は渋々と言った表情で、鞄から手紙を取り出した。
手紙の数は三通で、内容は全て読み上げるのも恥ずかしい恋心を綴った手紙であった。
「差出人は書いていない…… 誰なんです? 博士」
「うららじゃよ?」
「うらら? それは、怪人の首領である美津姫うららの事ですか?」
「その通り。 あの子が一度ここへ来て以来、その手紙が届く様になった。
研究ばかりしていた儂にも、ようやく春が訪れたんじゃ」
「まさか…… 返事を出してるんですか?」
「そんな情熱的な手紙を貰っておいて、返事を出さんわけにもいかんじゃろう」
小原大尉は頭を抱えた。
泯府鉤爪もこれには苦笑いをしている。
「えっと、まさかとは思うけど、博士、情報を流した?」
「恋文じゃぞ? それに、裏切るメリットもないじゃろう。
それとも、何かエビデンスとかってあるのかのう?」
「博士、今後は我々の監視下でのみ手紙のやり取りをお願いします」
「えっ? まさか内容を確認するのか?」
「敵のトップと手紙のやり取りをしているのです、当然でしょう」
「恋文じゃぞ? 交換日記を見られるのはプライバシーの侵害にあたるじゃろう」
「駄目です。 場合によっては、こちらから誤情報を掴ませる事も可能ですしね」
「えぇ…… 儂のピュアな気持ちを真っ直ぐ伝えたいのに?」
「美津姫うららは確か、中学一年生です。 諦めて下さい。
それに何より、悪の組織のボスです! 我々にとって敵なんですよ?」
「わかった…… 手紙のやり取りは全て見せる。 だから、交換日記は禁止にしないでもらおう」
訝しい表情で小原大尉は溜息を吐いた。
現状、情報を売っている人物の手掛かりがないと言う事で、この話は一旦流し、話は生き延びているであろう、秘密結社ルイナスに対しての対策を練る事にした。
まずは新たに作るであろう、秘密基地の特定が優先され、会議では近隣の島や、海底を探るようにと、小原大尉は部下たちに命令を出した。
誇り高き天才科学者の、あまりに切実な懇願。
小原大尉は深く椅子に背を預け、これから始まるであろう「恋文の検閲」という名の不毛な業務に頭を抱えた。
ヒーローたちが地上の惨状に立ち尽くし、内通者探しに明け暮れているその時。
遥か深海、現代科学の監視が届かない漆黒の底では、うららが海底基地の玉座に深く腰掛け、次の「返信」を心待ちにしていた。
海底から地上へ。地上の闇から海底へ。
狂った情愛の糸が、世界をさらなる混沌へと引きずり込んでいく。




