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第32話 深淵への招待状。

 亜里(あり)は振り返り、二人と対峙する。

音呼(いんこ)ちゃん、私は諦めない。 かならずあなたを連れ戻してあげる!」


 その声にジャーンとギターを鳴らした音呼(いんこ)は、変身を解く。


「なあ、スイーツ! 私様(あたくしさま)たちは覚悟を決めなきゃならねーんだろ?」

「そうっすよ、うららちゃんの切り開く未来の為に……」


「っち! なら、こうするしかねーって事かよ」


 音呼(いんこ)の長い髪が亜里(あり)を拘束する。

 そして、そのまま拘束を解かず、グリーンと共に、基地の内部にある倉庫の扉を開いた。


「さて、宴の時間っすね……」

「これは……」


 そこで、亜里(あり)の見たものは、組織に捕らえられた近隣住民。

 その数は数千人はいるのだが、誰もが浮かれた顔をしている。


「みんな楽しそうな顔してるっすねー」

「どういう事?」


「ああ、外にいた時に聞こえなかったすか?」

「外にいた時……? もしかして、あの鳥の様な声の事かしら?」


「そうっすよ。 あれ全部、怪人ヒキガエルの鳴き声っす」

「怪人ヒキガエル……?」


「ヒキガエルは毒を持ってるらしいっすよ。 幻覚作用のあるけっこうキツイ毒っす」

「それを抽出して、この人達がこんな事に……

 なぜ、そんな事を……」


「簡単な話しっすよ。 ここで地獄への宴を始めるっす。

 もうすぐ飛んで来るっすよね? ミサイル」

「なぜそれを!」


「それは、うららちゃんに聞けばいいっす。

 俺っちたちは、今から地下にある船に乗って脱出するっすよ」

「待って、ここにいる人達は……」


「残った怪人達諸共…… 全部死ぬっす。 ヒーロー側の攻撃によって」

「あなた…… それでもヒーローなの?」


「俺っちはもう怪人側っすからねー。

 それに、俺っちだけはなんとしても生き残らなきゃなんねーっすから」

「へぇ、自分の命が大事なのね…… 見損なったわグリーン。

 あの子たちを助けたあなたはどこへ行ったというの?」


「ああ、ミニーちゃん達のことっすか?

 まあ、嫌われ者ってやっぱ辛いっすねー。

 そう言う訳で、必殺技をだすっすね」


 グリーンが変身を時、ありとあらゆる苦痛を与えられた姿を晒す。

 それを見た音呼(いんこ)は一瞬「ぴゃっ!」と悲鳴を上げるが、すぐに両手で口を押えた。

 亜里(あり)の方はと言うと、絶句して言葉を失っている。


「まあ、黙ってついて来るっすよ」


 三人は基地の地下深くにある地底湖から、巨大な潜水艦へと乗り込む。

 中は広く、いくつかある部屋の中へと入ると、潜水艦が動き出した。

 簡素な作りの部屋で、音呼(いんこ)亜里(あり)の拘束を解く。


「何処へ向かっているの?」

私様(あたくしさま)も初めていく場所っす」

「海底基地っすよ! 防衛にシャチ男の群れが回遊してるから、物理的に攻める事はまず不可能っすね!

 深海の底にあるから水中爆撃も、現代の科学では到達不可能。

 着弾するまでに水圧につぶされるっすから」


「……まるで、それを知っているかのようね」

「二つ目の必殺をだすっす。 お口ちゃーっく!」

私様(あたくしさま)もお口ちゃーっく!」


「なんなのよ、あなたたち……。

 まあ、複雑な気分だけど、音呼(いんこ)ちゃんが楽しそうでなによりだわ」


 亜里が力なく笑い、潜水艦の厚い窓に寄りかかる。

 艦内の気圧が変わり、重苦しい沈黙が降りてくる中、誠はただじっとモニターを見つめていた。


 モニターの端には、地上の基地で「宴」に興じているはずの数万人の熱源反応が、まるで消えゆく蝋燭の火のように点滅している。

 誠は心の中で、自分にしか聞こえない弔辞を述べた。


 遠く深海の底から聞こえてくるのは、静かな水圧の軋みか、それとも地上で放たれた「正義」の咆哮か。

 巨大な影を連れた潜水艦は、太陽の光が二度と届かない、うららの理想郷へと深く、深く沈んでいった。

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