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第2話 安全な土地を手に入れる!

 【怪人アプリ】を手に入れた次の日。

 うららは山の中にある雑木林(ぞうきばやし)へとやって来ていた。

 天気も悪く、薄暗い雰囲気のある木々の間をすり抜けながら、うららは亜里(あり)に向けて思念を送る。


 “昨日言い忘れていたから今から伝えるね! 庵途(あんと)と別行動しているんだったら、心配だからちょくちょく様子を見てあげて。 それと、連絡手段は必要だし、稼いだお金で好きな携帯電話を手に入れといて!”


 思念によるメッセージは一方通行なので返事はない。

 しかし命令は絶対なので、うららはその事を気にする事はなかった。


 「よし、これで大丈夫! さぁて、うららのお目当ての昆虫さんはいるかな~? あっ! いたいたー」


 うららが見つけたのは白い斑点模様が特徴のハナムグリ。

 コガネムシやカナブンと似ているがコガネムシだけが害虫である。


 早速アプリを使ってハナムグリを【人型怪人】として生み出した。

 怪人となったハナムグリは巨漢のスーツ姿の男で、身長は丁度2メートル程である。


 「わー大きい! すっごく強そう!」

 「ありがとうでごわす首領殿」


 ハナムグリの人型怪人は堂々とした(たたず)まいでうららを見下ろす。

 場合によっては失礼にあたるのだが、うららは気にせずハナムグリの怪人を見上げながら話を続けた。


 「ごわす? アハハ、おんもしろーい! お相撲さんみたい! とりあえずあなたに名前を付けてあげるね! 金文(かなぶん)殴琉(なぐる)ってどうかな?」

 「なるほど! 良い名ですな! だけどちょっとだけ聞いて欲しい事があるでごわす」


 ハナムグリの人型怪人は怒る様子などは無く、うららと目線を合わせる為にその場でしゃがみ込んだ。

 うららはあざとらしくニッコリと笑みを浮かべ、可愛らしい素振りをして返事をする。


 「聞いて欲しいことー? もしかして名前にちょっとだけ不満があったりするって事ぉ? それじゃあ、他にも候補があるからそっちにしよっか? 黄金武蔵(こがねむさし)って言うんだけど」

 「どちらかと言えばその名前の方が良いでごわす。 だけどやっぱり聞いて欲しい事があるでごわす」


 ハナムグリの怪人は無表情なのだが、うららに向ける視線は優しい眼差(まなざ)しをしていた。

 体格以上に大らかな雰囲気をうららは感じ取る。

 うららは話を続ける。


 「いいよぉ! 聞いてあげる! 言ってみて、ハナムグリの化身さん!」

 「それでごわす! 自分はハナムグリの【人型怪人】だと伝えたかったでごわす」


 ハナムグリの人型怪人はパチンと手を叩き、ニカッと口角をあげ、同時に眉毛もグイっと額にしわをよせて上げて見せた。

 どうやらこの男は表情を作るのが苦手なようだった。

 うららは彼の意を()んで答えてみせる。


 「つまり、ハナムグリっぽい名前が欲しいって事ね! それじゃあ花牟(はなむ)愚理央(ぐりお)で決まり! はい、これ身分証ね!」

 「感謝感激雨霰かんしゃかんげきあめあられ! この花牟(はなむ)愚理央(ぐりお)、首領殿に従い尽くすしだいにごわす」


 深々と頭を下げた愚理央(ぐりお)からは、忠誠心の様な物は感じない。

 ごっこ遊びでお姫様になった小さな子供に忠誠を誓うナイト役のお父さんの様なしらじらしさが垣間見(かいまみ)える。


 実際には絶対服従なので、忠誠心が無いわけではないのだと言う事をうららは理解しているので、そのまま話を続ける。


 「うん、それじゃあ、早速行動に移って欲しいんだけどぉ。 うららの予定ではこの山に秘密基地を作ろうと思ってるの! でもね、調べてみたらすっごい値段が高いの! それでね、愚理央(ぐりお)にやって欲しい事が二つあるの!」

 「なるほど! それでは一つ目のお仕事から引き受けさせて頂くでごわす」


 「うん、それじゃあまずは――」


 ◇


 愚理央(ぐりお)は、うららの指示に従って近くにある駐在所へと向かった。

 駐在所には定年まじかの警察官が住み込みで二人いる。

 その二人が居るのを確認してから愚理央(ぐりお)は駐在所を尋ねた。


 「ごめん下さいでごわす」

 「ハイハイ、どうなすったー? うおおお!? あんたでかいなー!」


 愚理央(ぐりお)を見上げ、白髪だらけの警察官が大きな声を出す。

 それに対して愚理央(ぐりお)は、少し腰を落としてから袖をめくって腕の筋肉を見せながら「力も強いでごわすよー!」とアピールしてみせた。


 「そら、そうだろーなー。 それで、今日は道にでも迷いましたかな?」

 「ちょっと近くで犬を虐めてた中学生くらいの男の子達を見かけたでごわす。 そして雑木林に入って行くのを見かけたでごわす。 でも、この体格なので、怖がって怪我でもさせたら大変でごわす。 なので、お(まわ)りさんに手伝ってもらおうと思ったでごわす」


 愚理央(ぐりお)の話しを聞いて心当たりがあるのか、警察官は腕を組んで少し考えた後「犬を虐めてた? ああ、きっとあの小僧だなぁ……」と呟き、「一応姿を確認したいから、その場所まで案内して貰えるかな?」 と聞いて来た。


 目論見通りの返答をしてくれたので、余計な事は言わずに「わかったでごわす」と愚理央(ぐりお)は返事をする。

 警察官は駐在所の奥に視線をやって、「それじゃ、奥で寝てる相方も起こしてくるかねー」と言って奥のドアの向こうへと行き、同僚の警察官を連れて出て来る。


 警察官が二人揃い、案内をする愚理央(ぐりお)の後に続く。

 そして、薄暗い雑木林の奥へとやってきた二人の前で、突然愚理央(ぐりお)は振り返った。


 そして、先程まで穏やかな表情であった愚理央(ぐりお)の表情が少し険しくなった事を二人の警察官は感じ取り、少し後退りながらも視線を外さない様にしていた。


 「まあ、犬を虐めた子供の話しは嘘でごわす」

 「嘘? 君、どういうつもりかな?」


 警察官の一人は堂々とそう返事をしたのだが、僅かに緊張して強張った手が震えた。


 「簡単な話しでごわす。 これから自分達(・・・)は、この近くでとっても悪い事をするでごわす。 だから二人には自分達の行動を見てみぬふり、時には協力して欲しいでごわす。 一応迷惑をかけるつもりもなければ、損もさせないつもりでごわすよ」

 「いやーあんた。 悪い事をするって、そんなのいけないよぉ」


 警察官二人を前に、あまりに淡々と犯罪を犯すと述べる愚理央(ぐりお)に対して、ただ事ではない雰囲気を二人は感じ取った。

 ()くなる上は…… そう思い、一人の警察官は腰に()えた拳銃にそっと手を掛ける。


 その様子を見ても愚理央(ぐりお)は動ずる事なく、淡々とした物言いで二人に語り掛ける。


 「〇〇県××郡△△町◇◇。 5人家族。 父、母、そして娘が三人。 そして、〇〇県××郡△△町◇◇。 5人家族。 祖母、父、母、姉、弟。 下調べは済んである。 言う通りにすればハッピーになれるでごわす。 こちらの言う事を聞けないのであればお(まわ)りさんの親戚が一世帯なくなるでごわす。 ああ、他の親戚の住所も知ってるので、一度なら見せしめを晒してもいいでごわすよ」


 二人の警察官は息を飲んだ。

 これが脅しなのかどうなのかは分からない。

 だが、慎重に答えなければならないと言う事だけははっきりしている。

 目の前の男の逆鱗に触れればただでは済まないであろうことも。


 そして、しばらくの沈黙の後、(さいな)まれる良心を抑え込み、一人の警察官が返事をする。


 「わかった。 言う通りにしよう…… 一つ聞きたい。 あんた、自分達(・・・)って言っていたね? ひょっとして何処かの組の人なのかい?」


 どこかの組の人。

 愚理央(ぐりお)にはそれが何を指す言葉なのかは分かっている。

 しかし、首領はいるものの、まだどういった組織かまでは確定していなかったので、少し返答に困ったのだが、組織ぐるみで悪い事をするのであれば、そう違いはないだろうと思い「まあ、そんな感じでごわす」と答えた。


 口約束ではあるものの、一応交渉は成立したので愚理央(ぐりお)は二人を解放する。

 ついでに一本、雑木林の木を平手で叩き折るのを見せ、裏切った際の報復を再現して見せた。


 生きている心地がしなかったであろう二人の警察官は、愚理央(ぐりお)が去った後もしばらく腰が抜けて、その場から動けないでいた。


 ◇


 愚理央(ぐりお)はうららの言葉を思い出し、二つ目の仕事に取り掛かる。

 仕事の内容は単純。

 山の所有者である年老いた老人からお金を巻き上げる事。

 うららの調べでは、老人の所有しているお金は約2500万円であり、土地や金目の物を売ればもう少しある。


 あまり時間を掛けるつもりは無いので、一週間で2000万円巻き上げろと愚理央(ぐりお)は命じられていた。

 そして、その老人の家の近くまで愚理央(ぐりお)は歩いて来ていた。


 「住所はこの辺り。 赤茶色の屋根。 そして盆栽(ぼんさい)が趣味で鉢植えだらけ…… あったでごわす。 ここで間違いないでごわす」


 愚理央(ぐりお)は目的の家を発見したので、インターホンを鳴らした。

 すると、返事はなかったのだが、しばらくして家の中から足音がして、玄関の扉が開いた。


 出てきたのは黒ぶち眼鏡をつけた頭の薄い老人。

 目の堀が深く、眉間にしわを寄せ、頑固そうな印象が目につく。

 その老人は巨体である愚理央(ぐりお)をみても平然としていて、何食わぬ顔をして話しかける。


 「あれ? あんた誰さね?」

 「花牟(はなむ)愚理央(ぐりお)でごわす。 お金が欲しくてやってきた次第でごわす」


 愚理央(ぐりお)の正気を疑いたく様な発言に、老人は呆れた様に片腕を振りながら「金ェ? 帰っとくれよ。 うちにはそんな金なんてありゃせんわ」と、追い返そうとする。


 しかし、そんな事で愚理央(ぐりお)が引き下がるわけもなく、愚理央(ぐりお)は続けて物を言う。


 「そんな嘘ついても無駄でごわす。 嘘つかれて腹が立ったので、軒下(のきした)にある鉢植えを全部壊すでごわす」


 そう言って愚理央(ぐりお)は遠慮なしに鉢植えを壊し始める。

 その姿を見た老人は「ああーああー」と大きな声を出した後「むちゃくちゃしよってからに!」と言って家の中へと姿を消した。


 そして、しばらくすると二人の警察がやってきてインターホンを鳴らし、再び老人が玄関の前に現れる。


 「加根さん、通報があって来たけど、どうしたの?」


 愚理央(ぐりお)の姿を見かけていた警察官は、腹をくくっているのか、その態度には太々(ふてぶて)しさが滲みだしていた。

 しかし、加根と呼ばれた老人はその態度を気にも止めずに、警察官を(まく)し立てるように大声をあげた。


 「見りゃわかんだろ? このデカ男がめちゃくちゃしよる! 早う連れてってくれ!」


 怒りを露にしながら指をさしてくる加根を、警察は宥める様に肩をポンポンと叩きながら答える。


 「デカ男ってこの花牟(はなむ)さんの事か? 花牟(はなむ)さんは良い人だからそんな事できねえって」

 「はあ? どう見ても儂が大切に世話しとった鉢植えをぶっ壊しとるじゃろ?」


 壊れた鉢植えを指さし、しきりに怒りを訴える加根。

 しかし、警察官の返事は「そうかのー? 我々の目には映らんけどなー」であった。


 「何を馬鹿な! ほりゃ! さっさとこの男捕まえてくれ! ホレ! ホレ!」


 加根は二人の警察の腕を軽く叩いて愚理央(ぐりお)を逮捕しろと催促(さいそく)するが、二人の警察が一向に逮捕しようとしない事、そして愚理央(ぐりお)に対して好意的に接する姿を見て違和感を覚えた。


 警察二人は愚理央(ぐりお)に向けて会釈(えしゃく)をしてから、引き留める老人の声に見向きもせずに帰ってしまう。


 「なんてこった……」


 老人は自分が置かれている状況に危機感を覚え、家の中へと避難しようとした所を愚理央(ぐりお)に阻まれた。

 そして愚理央(ぐりお)は、コンクリートの壁を握りつぶしてから「明日取りに来るでごわす。 まずは1000万。 わかったでごわすか?」と言って、あっさりとその場から立ち去っていく。


 老人は返事をしなかった。

 しかし、この男が必ず明日来るのだと言う事は分かる。

 そして、1000万用意しなければ何をされるか分かったものではない事も……。


 ◇


 一週間後。

 老人は愚理央(ぐりお)から同じような手口で2000万円もの大金を巻き上げられていた。


 「もう…… 勘弁してくれ。 これ以上年寄りを…… 虐めんでくれ……」

 「分かったでごわす。 それじゃあ次で最後にしてやるでごわす」


 次で最後。

 持っていた現金の大半を奪われてからのその言葉は絶望的でもあり、次で最後ならと希望の兆しも僅かに芽生えた。

 しかし、今後の生活の事も考えると本当にお金がない。

 加根は少し考えて、駄目もとで断る事を選択する。


 「つ…… 次? もう、本当に金なんてないんじゃ。 許してくれ」

 「明日取りに来るでごわす。 500…… いや、800万用意しておくでごわすよ」


 そう言って愚理央(ぐりお)は老人の前から姿を消した。

 その場で立ち尽くす老人は何もする事が出来ず、自宅の中へと入って行く。

 老人は「800万かぁー……」と呟き、そのお金をすぐには用意出来ない事を悟る。

 支払えなかったら何をされるのかと怯えながら、居間で熱いお茶を啜っていると、電話の音が鳴り響いた。


 老人は力なくその電話に出る。


 『あっ。 何度かご連絡をさせて頂いてる黒井です。 山の売買の件でご連絡させて頂きました』


 黒井と名乗っているが、電話を掛けたのは美津姫(みつひめ)うららである。

 精一杯大人の女性の声を作って加根に話しかけている。


 「ああ…… 山を買いたいって言うとった人か」


 『はいそうです。 実は、他にいい取引が出来たので、お断りのご連絡をさせて頂きたいと思って連絡させて頂きました』

 「ああーそうなのか……」


 『はい、お話は長くないのですが、今、お時間は大丈夫でしょうか?』


 加根は返事をせず、深く考え込む。

 そして『もしもし? ……もしもーし?』と言っているうららに対して「ちょっと相談があるんじゃが」と話を切り出した。


 『ご相談? どうしました?』

 「安く山を売るから今日中に支払ってもらえんじゃろうか?」


 『ええっと、山を売りたいと? 確か3000万円以下では売るつもりはないとおっしゃっていたと思うんですが、いくらで売るおつもりなんでしょうか?』

 「2000万でどうじゃ?」


 『2000万ですか。 わかりました! 今の取引を断れば違約金なども掛かってしまいますが…… 勉強しましょう! では、今から使いの者をお伺いさせますので、詳しい話しはそちらで。 支払いについては流石に2000万円をすぐには用意できないので後日になりますが宜しいですか?』

 「それは困る! 現金、すぐに用意して欲しい」


 『……あのねぇ加根さん。 この前から思ってたんだけど、ちょっと態度悪いですよ? こっちは他で契約も取れたし、あなたのとこの山じゃなくてもいいんです。 お互いの為にも、この話は無かった事にしましょう! それでは!』

 「待ってくれ! 気を悪くせんで欲しい。 実は明日どうしても金が必要になったんじゃ。 そっちで用意できる金額でいいから山を買ってくれんか?」


 『いいですよ、わかりました。 でも、今日すぐに用意できるお金なんて…… 600万円くらいですかねー?』

 「600万…… わかった! その金額でいい!」


 『ええ!? 本当にいいんですか? それでは使いの者お伺いさせて頂きますが、本当に宜しいんですか?』

 「構わん。 それで…… 頼む」


 取引が成立し、うららは600万円を持たせて亜里(あり)を加根の家へと向かわせ、無事に山を購入する事が出来た。


 その後、約束通り愚理央(ぐりお)が次の日に取り立てに出向き、加根から800万円を受け取る。

 愚理央(ぐりお)は、今後取り立てに来る事はないと約束し、加根の前から姿を消した。


 そして、待たせていた警察官に400万を渡し、加根はうららと待ち合わせをしている洋館へと向かったのだった。

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