第26話 はぐれ者たちの挽歌
「来たか、花牟愚理央」
「遅くなって申し訳ないでごわす。 まさか、戦闘をしているのに、こんなに場所が離れてるとは思ってなかったでごわす」
優勢な体制で鳳五郎を押しとどめているはずの熊鷹だが、圧倒的な力で押し返されており、その口からは荒い息が漏れていた。
「それで……。 総督閣下から離反者に対し、処分命令は下ったのかな?」
「処分命令は…… 下ってないでごわす。
でも、今ならチャンスでごわすね」
「チャンス? 一体どういう――」
愚理央が大きく振りかぶり、渾身の一撃が熊鷹を襲う。
しかし、猛禽類である彼の目には、愚理央のスピードは遅く、仮に当たったとしてもなんら脅威ではない。
軽く状態を反らし、愚理央の攻撃を躱した熊鷹が軽く口角を上げた。
次の瞬間、熊鷹の頭が鳥の様に変化し、愚理央の腕が通過する前に、その腕を啄んだ。
力自慢で身体も丈夫な愚理央だが、たったそれだけの攻撃を受けただけで、腕の骨は折れ、裂かれた腕からは流血が流れる。
「まさか、離反者がここにもいるとは愉快愉快!」
「これは困ったでごわすね。 思ってたよりも差があるでごわす。
でも、鳳五郎を抑え続けている限りはそっちも動けないでごわす」
「フハハハ、確かに。 だが、時間の問題だぞう?
見ての通りこの男は致命傷を負っている。
こうして足を引いて、ロックしていれば、いずれ力尽きるだろう」
「なら、背後に回るまででごわす」
愚理央が熊鷹の刺客へと移動し、まだ使える方の腕を振りかぶって攻撃をする。
しかし、それが熊鷹の羽毛に触れた瞬間に、首を振り、あっさりとその腕を啄んで見せた。
「デタラメな反射神経でごわすね……。 ちょっと打つ手がない」
「フハハハ、この男を取り押さえてさえいなければ、3秒もあればその身体を八つ裂きにしている所だ」
「グ……グリグリ……」
「鳳五郎!」
「俺……。 なんか、ちょっと眠たくなってきた」
「駄目でごわす! 自分がなんとかして見せるから、諦めちゃ駄目でごわす!」
愚理央は勇猛果敢に接近戦を仕掛ける。
獣化しているとは言え、同じ人型怪人である以上、力自慢の愚理央の攻撃は通用するはず。
しかし、無情にも愚理央の腕は熊鷹を捉えられず、近づきすぎた代償に、ライフル弾で打ち抜かれた様なクチバシの弾痕が全身に貫いた。
愚理央が後退り、そして尻餅をつく様にして崩れ落ちる。
「情けないでごわす。 まさか、身動きの取れない相手に手も足も出ないとは……」
「フハハハ、少し引く力が弱まって来たぞ? もうすぐだ。
そうだな、一人ずつ攫い、総督閣下への手土産にしてくれる。
ありとあらゆる苦痛を味合わせて欲しいともなー! フハハハハ!」
価値を確信した熊鷹だが、その時、愚理央の背後から一人の少女と、人型怪人の大河尤鼠が姿を現した。
少女は一言「泣かないで」と呟いた。
「少女型の量産型戦闘員……。 それに、敗走した大河尤鼠が、どうしてこんな所にいるでごわす?」
「あぁん? 散歩してんだよ、文句あんのか?」
「えーとぉ、えーとぉ、どうして、戦っているんですか?」
「ほう……。 処分命令が下されていた大河尤鼠と言う人型怪人だな?
フハハハ、数が増えた所でどうする事もできまい?」
「ステラ、そこのデカブツは動けそうにねえから、その後ろに隠れとけ。
俺はちょっと生意気な奴の相手をしてやる」
「ほう、我に挑むつもりか?
フハハハハ、そこのデカブツと同じ運命をたどる事になるぞ?」
「肉ばっか食っててまずそうだな。 まあいい。
すぐに笑えねえようにしてやるよ」
「フハハハ! 滑稽、まさに滑稽なり!
敗残兵に、出来損ないの量産型、そして動くこともままならぬ木っ端どもが……。
良いだろう、まとめてかかってくるがいい! 我は一歩も動かず、貴様ら全員を絶望の淵へ叩き落としてやろう!」
熊鷹の背後の翼が、これまで以上に大きく、禍々しく広がった。
拘束されたままの最強――その理不尽なまでの「静の暴力」が、再び牙を剥く。




