第25話 蒼穹の覇者、荒野の王者。
「くそっ! いい加減に離せ! どこまで行くつもりだ?」
「ええっ! あんた……誰だっけ?」
「何ィ!?」
「えっ? なに?」
冠熊鷹は渾身の力を込めて、地面に足を喰い込ませる。
そして、そのまま喰い込ませた右足を軸に、自らを抱きかかえる鳳五郎を回転運動のままに放り投げた。
姿勢を崩した鳳五郎が、勢い余って壁に激突し、ようやく二人は足を止めた。
「痛てて、なんで壁がこんな所にあるんだー?」
「理解…… できないな。 なんなのだ貴様は?」
「……俺? 俺、だけど?」
会話にならない様子に、熊鷹は頭を抱えた。
「会話にならないのであれば、仕方がない。 それと、不本意だが……。
誠に不本意だが。 攻撃されたのであれば、反撃は致し方あるまい。
フハハハ、安心するがいい、我は貴様の命までは奪わない」
熊鷹は背中から翼を出し、上空へと羽ばたく。
そして、急降下。
ライフル弾よりも速く突進し、一瞬にして鳳五郎の肩を打ち抜いた!
その衝撃は凄まじく、体の大きな鳳五郎が弾き飛ばされ、壁に激突。
その壁はガラガラと崩れて、瓦礫となった。
鳳五郎は何事も無かったかのように、体を起こし、服に着いた塵を払った後、熊鷹の方を見つめる。
「ああ、ごめん。 俺、なんか怒られる事しちゃったー?
庵途にいつも怒られるんだ。 馬鹿って……。
ん? 馬鹿? そうか俺…… 思い出したぞ! お前、俺の悪口言ってただろ!」
「ふんっ! また我を捕まえようと言うのだな。 だが、そうはいかんぞ?」
鳳五郎が熊鷹に掴みかかろうとしたその時、熊鷹は上空へと回避した。
「恐ろしく打たれ強い奴だ。 加減をしていては埒が明かない。
であれば…… 殺したとしても言い訳は立つか……。
フハハハ、いいだろう。 殺すつもりで痛め着けてやろう」
熊鷹の急降下の速度に、鳳五郎は反応が出来ない。
更に、先程とは違い、熊鷹の両足には刃の如き鋭い爪が飛び出し、鳳五郎の命を刈り取らんとしていた。
攻撃をギリギリの所で躱した鳳五郎だが、その額からは血が流れでていた。
「ほう、良い目を持っている様だな。 しかし、傷は浅くない様だぞ?」
「うーん…… そうか、なんかわからねえけど、お前、敵か?
大丈夫、俺は敵を忘れねえ」
「なに? 敵意を向けられた途端に…… これ程のプレッシャーを感じるとは……」
「なんだ? ビビッてんのか? 来いよ、俺は飛べないから、お前から来いよ!」
「なめるなよ、小僧!」
弾丸の如く飛行する熊鷹は幾度も鋭い爪で鳳五郎にダメージを与えていく。
普通なら致命傷のはずだが、鳳五郎に倒れる気配はない。
それどころか、すれ違いざま、確実に鳳五郎は彼を目で捕らえだしている。
ただ目で追っているだけなのだが、それだけで熊鷹は攻めあぐねていた。
本来であれば必殺の掴み攻撃も、その尋常ではない撃たれ強さと、一度掴まれて感じ取った力強さの前に易々とは使えない。
「よし、慣れてきた。 次で捕まえてみせる」
「いいだろう。 ならば我も決めにかかるとしよう」
熊鷹は両足を前に突き出し、鳳五郎の両肩を掴んだ。
更に自らの足を折り曲げ、カチリと完全に足をロックする。
これで、熊鷹の意思で足を延ばさない限り、鳳五郎がこの拘束から逃れる事は出来ない。
遥か上空へと舞い、超高高度から放り投げれば流石に命までは奪えずとも、この男にとっての致命傷を与えられるはずだ。
しかし、現実は違った。
鳳五郎はとんでもない力で、身体を八の字にくねらせ、両肩を貫いているにも関わらず、そのままの腕で熊鷹を掴み上げた。
羽ばたく姿勢を失い、尋常ではない握力で掴まれている熊鷹は即座に足を延ばし、彼の拘束を解除した後、顔を踏みつけて振りほどこうとする。
しかし、鳳五郎は掴んでいる手を離さないどころか、倒れる事すらない。
「き、貴様! 我を掴んでいる手を離せ!」
「凄い力だな。 腕が引きちぎられそうだ」
「フ…… フハハハ、腕の力だけでこれ程とはな。
我は足で踏ん張っている。 離せば楽になるぞ?」
「楽になってどうする? 俺はお前を捕まえているんだぞ!」
「ならどうすると言うのだ? 我の足の爪が貴様の体を八つ裂きにするぞ?」
「爪が痛え、でも離さねえ! 何故なら俺はお前を捕まえているからだ!」
「では、これでどうかな?」
熊鷹が一瞬、踏ん張るのを止め、浮いた隙間だけで足をずらし、鳳五郎の体を爪が切り裂いた。
更に鳳五郎が強く引けばひくほど、その爪はその身体に深く食い込んでいく。
「がはっ!」
ついに鳳五郎は吐血し、その場に膝を付く。
しかし、それでも掴んでいる腕を離そうとはしなかった。
「くっいい加減にしろ! もう勝負はついていると言うのに」
「はっ? なんだよ、ビビッてんのか? 俺はまだやれるぞ」
「致命傷を受けてなお、そのような口を叩くか!」
その時、二人の上空から一つの影が映った。
その影は何度か二人を通過した後、落下する様にして二人の元へと降り立った。




