第22話 19回目のプロポーズ
表に止めていた車の前にうららが立つと、運転手の喇叭天琉が出て来て、華麗な仕草で一礼をした後、うららの乗る後部座席のドアを開けた。
うららが一番に乗り込み、それに続いてグリーン、扇子鷲が乗り込む。
助手席には自分でドアを開けた亜里が乗り込み、ゆっくりと車は発進した。
「うふふ、人質みたいだねー?」
うららはグリーンに悪戯っぽい笑みを浮かべ、続いて「どんな気持ち? 基地へ着いたら改造されちゃうんだよー?」とケラケラと笑いながら話しかけた。
「うーん……総督ちゃん、超かわいいじゃねーっすか!」
「うん? 命乞いのつもりなら虫唾が走るからやめてねー?」
「そんなんじゃないっすよ!
ああ、なんて言うか、恋の予感がするっす!」
「う……うーん? 恋の予感……? うらら心の準備した方がいい?」
「駄目っす! いま告るっす! 俺っち恋多き21歳っすからね!
これが、17回目……そして、ちゃんと言えなかった分も合わせたら丁度19回目のプロポーズっす! 総督ちゃん! 俺っちと付き合って欲しいっす! 100万年かけて愛し続けるって誓うっすよ!」
「ええー? 19回目のプロポーズゥ? 20回もプロポーズしてるのぉー?」
うららは照れた振りをして、両手に手を当ててフリフリと体を揺すっている。
しかし、その瞳からは一滴の涙が零れ落ちていた。
「あはは、やっぱ振らちゃったっすねー。 でも、必ず20回目のプロポーズは成功してみせるっす!
そのための準備は必ず……用意してみせるっすから」
「う……うふふっ。 うふふふふ……アーハッハッハー!
素敵ね! 本当に素敵! キザ男、改造してから百万回刻んでも同じセリフが言えるのかなぁー?」
「ああ、ごめんごめん。 揶揄うつもりじゃなかったっす。
お口チャックしとくっすね! 総督ちゃん」
「うららでいいよ」
「じゃあ、よろしくっす! うららちゃん!
ちなみに俺っちは、緑川誠っすよ!」
「ふぅーん……」
うららは不貞腐れた様に、顔を膨らませて窓の外を眺めた。
誠はそっぽを向いてしまったうららの反対側にいる扇子鷲の顔を覗き込んだ。
すると、扇子鷲は彼を見下ろし、軽く首を傾げる。
誠はお口チャック中なので、無言で手を差し出すと、扇子鷲もその意図を読み取り、スッと手を差し出した。
誠は遠慮なくその手をギュッと握り握手を交わす。
しかし、誠はさらに両腕を使い、その手をギューッと渾身の力で握りしめた。
扇子鷲は、更に首を傾けた後、握られた手に軽く力を込めた。
「痛ててて! ギブっす! ギブギブギブ! 流石っすねー。
伊達に猛禽類最強の人型怪人じゃないって事っすね……」
「……。」
扇子鷲の表情はピクリとも動かない。
しかし、自分の腕をパンパンと叩き、もう一度手を掴んで見ろと合図する。
誠は誘われたからには、引くわけにもいかず、もう一度扇子鷲の手を握り力を込めた。
その瞬間、力を込められた時とは別の痛みが誠を襲った。
「痛ててて! ギブギブギブ! その力があって合気も使えるんすか!」
扇子鷲は何も語らず、腕を組んだ。
しかし、その表情は先程よりも誇っている感じがして、むふーっと自身に満ち溢れたように、少しだけ口角を上げた。
「あの……緑川さん、あまりその人を刺激しないで下さい。 流石に肝が冷えます……」
助手席から亜里注意を促すと、誠は亜里にも興味を示した。
「あれ? 落ち着いてよく見ればママじゃないっすか!」
「ママと呼ばないで下さい。 音呼ちゃんの面倒を見る度にママってコメントしてたのあなたですか?」
「うーん、どうっすかねー? まあ、その中の一人ではあったっすけど」
「お口チャックしてて下さい。 もうすぐ……基地へ到着しますよ」
無情にも車は基地への門をくぐった。
重々しい電子音と共に、地下深くへと続く隔壁が開く。
車を降りた誠の前に立ちはだかるのは、白衣を纏った「サル男」。そしてその背後には、無機質な手術台と、無数のコードがのたうつ最新鋭の改造装置が鎮座していた。
「……さて、それじゃあ『お口チャック』はおしまいっす。地獄のチューニング、お手柔らかに頼むっすよ」
誠はいつもの軽い調子で笑ってみせたが、その瞳は一度も逸らされることなく、うららを見つめていた。
欲望と絶望が渦巻くルイナスの深淵で、誠の「改造」が幕を開ける。




