第21話 交換
「よーし! それじゃあへーんしん!」
ヒーロー達の拠点へと向かっている途中、いきなりうららはポーズを決めながらそう言うと、なんと全身黒ずくめでマスクを被った姿へと変貌する。
うらら曰く、この姿は元々怪人アプリに入っていたもので、レベルが上がった時に使える様になっていた。
そして、そのレベルに応じた強さを得られると言うものなのだが、少し手を加えており、生み出した怪人のデータからその性質なども取り入れていると言う事だった。
「ねえ、カッコイイでしょ!」
変身したうららの姿は組織のボスとして相応しい姿であったのだが、年齢よりも子供っぽい性格の為、相応しくない様にも思えてしまい、亜里はその問いに対して少し悩んだ。
「はい、まさに組織を束ねるに相応しいお姿でございます」
「そうでしょ! じゃああいつ等の拠点に乗り込むよー! 怪我しないようにね!」
うららは躊躇う事なくヒーロー達の拠点の入り口にある門を通って行く。
当然ながら守衛に見つかるのだが、明らかに怪人の一味であると一目見て分かるので、守衛は隠れて中にいる誰かに連絡を入れている様子であった。
正面から堂々と侵入するうららは、施設の扉もこじ開けて無理やり中へと入って行く。
しかし施設の中は広く、道が分からないので、キョロキョロと動くものを探しながら手あたりしだいに部屋の中を覗いていく。
すると、部屋の中に隠れていた白衣を着た人間を見つけたので、その人物を捕まえた。
捕まった人間の顔には恐怖が現れ、身体をガクガクと振るわせていた。
「あなたは研究者?」
「ヒイ! 違います! 私はここで開発の一部を任されているだけの従業員ですぅ!」
「そうなんだ。 それなら雑に扱っても構わないよね? 私の質問に答えて。 あなた達が奪った私の同胞を何処へ連れていったの?」
「奥の通路を抜けた先にある通路を左に曲がり、更にその奥にある通路を奥へ…… 突き当りに二つ部屋があるので右側の部屋にいます!」
「教えてくれてありがとー! 必要ないけど、教えてくれたからあなたの事は見逃してあげるわ!」
そう言ってうららは掴んでいた手を離し、教えて貰った通路を言われた通りに進んでいく。
いくつかの通路にあるセキュリティーを破壊しながら、言われた部屋へ辿り着き、その部屋のドアも破壊して中へ入って行く。
部屋の中には変身をしていない姿のレッド(赤井闘真)と医者らしき人物、そして変身をしていない顔色の悪いグリーン。
他にも研究者らしき白衣を着た老人とベッドの上に寝かされている久留麻茶菓の姿があった。
久留麻茶菓の意識はあり、少し体を起こして亜里達の方を覗いていた。
「あれあれー? ピンクの子、生きているじゃない。 亜里、これはどう言う事?」
「申し訳ございません総督閣下。 奇跡的に一命を取り留めた様です」
「まあいいや。 国防戦隊だったっけ? それを持って帰るから、返してもらえる?」
ヒーロー側の人間は誰一人として微動だにしない。
そして、口を開こうともせずに時間が止まったかのように一点を集中して見つめていた。
彼等が見ているのは扇子鷲。
その鋭い眼光は見つめられただけで死を連想させるほどのプレッシャーがある。
しばらく一緒にいたお陰で、亜里と庵途は少し慣れたのだが、それでもほんの僅かな挙動を見ただけで身震いしてしまう。
そんな扇子鷲を前に、明確に敵対している彼等が動けるはずもない。
そして、この沈黙を破ったのは赤井闘真だった。
「今…… 茶菓ちゃんの事をそれと呼んだな! 彼女を連れて行ってどうするつもりだ?」
「勿論!責任をもって処分しまーす! ああ、面白そうな事があるんだった。 よし、この子も改造しちゃおっと。 きっと面白い結果になると思うわ! ヒーローのみんなもぉ、楽しみにして待っててね!」
「処分? 改造? ふざけるな! お前達に彼女は渡さない!」
「どういう事? それ私の所有物だよぉ?」
「何が所有物だ! 彼女はアイドル! 【ユーアートリコ】のセンター久留麻茶菓だ!」
「知ってるよー? そうしろと命じたのはうららだもん。 寝てないでこっち来てよ、あなたがそこから動かないとみんな、迷惑するんだよ?」
うららがそう言った後、レッドとグリーンが変身して、彼女を守る様にうららの前に立ちはだかる。
その様子を見ていた扇子鷲が一歩前に出ると、ヒーロー達は後退り、恐怖を断ち切るかの如く武器を構えた。
うららは手で合図を送り、扇子鷲を制止する。
「今日は争いに来たわけじゃないんだけどなー? どうしてもそれが欲しいと言うのなら交換しなーい?」
「こ…… 交換だと!?」
「そう、交換! 確か、イエローとピンクは女の子だったよね? そのどっちか一人と交換しよ! 公平な条件だと思うんだよね!」
「貴様、人間をなんだと思ってるんだ!」
「別に何とも? ただ、不公平だから公平にしようって提案しているだけなんだけど?」
うららの言葉に怒りを募らせるレッドであったが、ここで戦闘になれば全てが絶たれてしまう。
その条件であれば…… そう思いレッドはうららとの交渉を受け入れた。
「あいにくだが、今はイエローもピンクもいない。 だが、リーダーである俺がいる! 交換すると言うのであれば俺を持って行くがいい!」
「駄目よ!」
今まで黙っていた久留麻茶菓が突然大きな声をだし、レッドを引き留める。
そして、身体をよろめかせながら、うららの前へとやって来て跪いた。
「総督。 茶菓を連れて行ってください」
「私はそれでもいいよー? そっちはどうなのかな?」
うららの質問に対してレッドが否定しようとする。
しかし、白衣を着た老人が口を開き「彼女を渡す」と言った。
その言葉にレッドは激昂する。
「興梠博士!」
「彼女を助ける為に全滅するつもりか? それとも悪の首領である美津姫うららに屈するつもりか?」
「そうだよ。 赤井闘真君。 茶菓が帰ればみんな助かる。 守ろうとしてくれてありがと!」
レッドは膝をつき、思い切り床を殴りつけた。
「床殴ったら怪我するよー? うふふ、でも悔しいんだー? なんだか可哀想」
「黙れ! 俺はお前達を許さない! 必ず後悔させてやる!」
「おんもしろーい!うららの事後悔させてくれるんだー? 今どうする事も出来ないのに、いつ何が出来ると言うのかなー? 負け犬の遠吠えありがとー! まあ、うららはあなたに興味ないけどねー。 それじゃあ亜里、この子を連れて帰ろう」
うららが部屋から久留麻茶菓を連れて出ようとしたその時、グリーンが「ちょっと待った!」と声を掛ける。
「茶菓ちゃん置いて、俺っちじゃ駄目っすか?」
「んー? ちょっと駄目かなー? だって、あなたボロボロじゃない。 変身したけど、そこに立っているだけで限界って感じ?」
「そんな事言わずに、頼むっす! 変身ヒーローと変身する怪人! ね! 割の合わない話じゃないっすよきっと!」
「ちょっとそそられるなー。 あなたを改造してみても面白そうね! 面白みがなければ人体実験に回してもいいしー…… よし、それでいこ!」
「駄目よ! 総督! 私を連れて行って!」
「無理でーす! 交渉は成立したんだから。 あなたの出る幕はありません!」
「そんな……」
「グリーン! それなら俺が!」
「駄目っすよ。 レッドはリーダーなんすから。 それに…… 俺っちの推しはあっち側にいるっす。 総督さん、お手柔らかに頼むっすよー」
「それはうららの気分次第! それにしてもヨロヨロだね? 亜里、庵途。 この人の事、支えてあげてー」
交渉は成立し、うららはグリーンを連れて部屋を出て行く。
レッドは自分の無力さに憤怒していたが、久留麻茶菓がそれを慰めた。




