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第20話 思惑

 音が鳴りやみ、車に避難していた 亜里(あり)瑠璃目るりめ(はく)が倒れた背黄青(せきせい)音呼(いんこ)の元へとやってくる。

 

 瑠璃目(るりめ)(はく)背黄青(せきせい)音呼(いんこ)が深刻な状態である事を確認する。

 そして、両腕で優しく彼女を抱き上げ、撤退する。

 去り際、瑠璃目(るりめ)(はく)は棒立ちのグリーンに感謝の言葉を伝える。


 何故なら、満足そうな表情をして眠る背黄青(せきせい)音呼(いんこ)を見て、瑠璃目(るりめ)(はく)自身も胸がいっぱいになったからである。


 かといって、敵であるグリーンを助ける義理も無いので、瑠璃目(るりめ)(はく)亜里(あり)と共に背黄青(せきせい)音呼(いんこ)を車に乗せて撤退する。


 置き去りにされたグリーンは、怪人達が撤退するのを確認した後、救難信号を発信して、助けが来るのを待った。

 その後、立ったまま意識のないグリーンを発見した救助隊によってグリーンはヒーロー達の拠点となる施設へと送り届けられた。

 

 秘密基地に到着した亜里(あり)達は、背黄青(せきせい)音呼(いんこ)をメディカルルームへと連れて行き、深刻な状態の彼女はすぐに集中治療室へと運ばれる。


 治療は日をまたいで行われ、亜里(あり)瑠璃目(るりめ)(はく)は治療室の椅子に座ったまま彼女の無事を祈った。

 時計の針が午前10時を回った時、ようやく集中治療室の扉が開き、中から手術着を着たサル男が出てくる。


 サル男は亜里(あり)瑠璃目(るりめ)(はく)に着いて来る様にと伝え、喫煙ルームに入って煙草に火をつけ、気持ちよさそうに煙を吐き出す。


 「とりあえず、命に別状はない。 ただ、内臓も骨も酷い状態だったからね、今はただ死なないだけの状態に過ぎない」

 「先生…… それじゃあ音呼(いんこ)ちゃんはどうなるんでしょうか? ずっと動けない状態のまま生き続けるって事ですか?」


 「何もしなければそう言う事になるね。 ただ、もう本人から了承は得ているから大丈夫だと思うよ。 後は総督閣下に許可を頂くだけだから」

 「了承…… ですか? 音呼(いんこ)ちゃんに何をするつもりなんですか?」


 「端的に言えば改造だね」

 「改造? それって人じゃなくなるって事ですか?」


 「嫌かい? 私は患者自身がそれを望むのならその意思を尊重してあげようと思ってるよ」

 「音呼(いんこ)ちゃんの意思…… 大丈夫です! 私は音呼(いんこ)ちゃんの意思を尊重します!」


 「うんうん。 それじゃあ、私は患者を見ているから総督閣下に許可を頂いて来て貰えるかい?」

 「わかりました」


 亜里(あり)瑠璃目(るりめ)(はく)は、サル男に礼を言ってからメディカルルームを後にする。

 そして、うららの待つ指令室へと向かった。


 指令室の前ではなぜか畜産をする為に生み出されたニワトリ男とミツバチ女が壁に持たれて項垂(うなだ)れていたのだが、声を掛けずに指令室へと入る。

 二人の怪人が項垂れていた理由を、指令室の扉が開いた瞬間に亜里(あり)は理解した。


 指令室の中では香ばしい匂いが鼻をつく。

 ツンとしたマスタードの香りと食欲をそそるにんにくの匂い。

 そして、スモークしたチキンの油が焦げたような香りが部屋の中いっぱいに充満していた。


 亜里(あり)は、指令室の椅子に腰かけるうららがハニーマスタードソースチキンを食べている事に気が付く。


 「総督閣下! お食事中失礼致します。 時間を改めてお伺いした方がよろしいでしょうか?」

 「大丈夫! それで、ヒーロー達を倒す事は出来た?」


 この質問に対して亜里(あり)は返答に困る。

 しかし、口籠(くちごも)っては怪しまれる為、言葉を選びながら報告をする。


 「申しわけありません。 私達はレッドとグリーンと戦闘をして、止めを刺すには至らず、痛み分けとなりました」

 「痛み分け? そう言われると頑張ったんだなーって思っちゃうけど違うよね? 戦力としては圧倒的にあなた達が有利だったはずだけど? 他の怪人はどうしたのかな?」


 ずばりその通りである。

 返す言葉がない亜里(あり)は、痛み分けとなった理由を話すのを諦め、結果と今後の対応を報告する事で難を逃れる事を思いついた。


 「はい。 まずは報告と共に許可を頂きたいのですが、背黄青(せきせい)音呼(いんこ)が重傷を負いました。 現在は集中治療室で意識を取り戻した所です。 今は、ただ死なないだけの状態に過ぎないとサル先生はおっしゃってました」

 「うーん? そんなの廃棄して新しいのにすればいいじゃない?」


 「はい……。 それで、許可を頂きたいのですが…… 改造所術を(ほどこ)せば動ける様になるようなのでその許可を……」

 「改造手術!? いいわね! それって最高! うんうん、それなら許可を出す事もやぶさかではないよ!」


 うららのテンションが上がった事に、亜里(あり)は動揺し、冷や汗が滲み出る。

 改造手術に興味がある? 何をするつもりなのか?

 考えるだけで(おぞ)ましい。

 なんとかしてうららが接触しない様に仕向けられないか? 亜里(あり)はそう考える。


 「ありがとうございます。 それではサル先生には私から(・・・)その様にお伝えさせて頂きます」

 「ああ、大丈夫! サル男には|直接うららから伝えるから《・・・・・・・・》! それで、ピンクのオウムの子はどうしたの?」


 どうやらうららの接触は回避できそうにない。

 そして、久留麻(くるま)茶菓(さか)の事を聞かれたので、予め用意していた答えを報告する。


 「久留麻(くるま)茶菓(さか)は…… 残念ながら……」

 「命を落とした? 死体はちゃんと回収した?」


 「いえ、死体は回収できない状態でしたので……」

 「ふぅーん。 崖下にでも落ちちゃった? それくらいなら回収できるか…… 爆発して木っ端微塵? でもぉ……GPSがまだ生きてるしなぁ?」


 携帯のGPS。

 まさかうららがいちいちそんな物を確認しているとは思えない。

 しかし、下手な事を言えば自分だけでなく、となりにいる瑠璃目(るりめ)(はく)の命も危うい為、亜里(あり)は慎重に言葉を選びながら言い訳を試みる。


 「申し訳ございません。 海に落ちてしまい私達では回収できなかったんです」

 「なるほどねー。 それで、死体はヒーロー達が回収したと?」


 ヒーロー達が回収したと告げた事で、GPSの場所を確認している可能性が高い。

 亜里(あり)はこれ以上の言い訳は難しいと判断する。


 「私達も満身創痍でしたので、そこまでは確認できませんでした」

 「そーなんだー。 まあ、いいや。 GPSはヒーロー達の拠点のあった場所を指示してる。 あいつ等がうららの所有物を奪っていったのは気に入らないなぁ! よし、 オウムの子の死体を回収しに行こう!」


 「お待ちください。 怪人の死体から得られる情報なら以前ミニロップ女達が捕まり、速やかに処分された事で得られる情報も些細なものではないでしょうか? わざわざ回収しにいく必要はないかと」

 「別に情報なんてどうでもいいの! あの子ってアイドルだったじゃない? 死体とは言え、万が一があるからね。 ちゃんと回収してあげないと」


 万が一? 死体に対して万が一とは何の事か? 亜里(あり)にはいまいちそれが分からなかった。


 「万が一とは…… 総督閣下は何を心配されているのでしょうか?」

 「そんなの……うららの口からは言えなーい!」


 そんなまさか? 心配しているのは彼女の貞操? そんな事をこの女は本当に心配しているのか?

 半信半疑ではあるものの、そう言う口ぶりをしている様に思えてならない。

 亜里(あり)はうららが何を考えて行動しているのか? それを理解する事を拒んだ。


 「とにかく。 うららはあの子の回収しに行くよー」

 「待って下さい! 総督閣下自ら行く気ですか? 敵の本陣ですよ?」


 「うららが行くの! 出来ないと思ってるの? それじゃあ見せてあげるから着いてきて。 それと、庵途(あんと)も基地に戻ってきてるはずだから呼んで来て」

 「畏まりました」


 もうどうする事も出来ない。

 言い訳を考えておいた方がいいだろうか?

 いっその事、ヒーロー達の拠点でうららがいなくなれば…… 亜里(あり)はそんな事を考えてしまっていた。


 庵途(あんと)を呼び秘密基地の外へ行くとうららが車の前で待っている。

 そして、運転席には見知らぬ【人型怪人】が乗っていた。


 「初めまして、私は黒井亜里(あり)

 「私は黒井庵途(あんと)と申します」


 「いちいちめんどくせえ! 俺は総督閣下専用の運転手をやってる喇叭(とらんぺっと)天琉(てーる)だ! さっさと乗れ! 出発待ちしてる時が一番イライラする! さっさと乗らんかい!」


 なんと言う癇癪(かんしゃく)持ちだろうか。

 亜里(あり)庵途(あんと)喇叭(とらんぺっと)天琉(てーる)の態度に絶句しながらも、急かされているのでさっさと後部座席に乗り込む。


 後部座席ではうららともう一人。

 扇子(おうぎ)(わし)が乗り込んでいた。

 対面に座る扇子(おうぎ)(わし)の威圧感で黒井姉妹の二人は思わず身震いしてしまう。


 車が発進してヒーロー達の拠点へと向かうとうららが話しかけて来る。


 「実はね、失敗したのは亜里(あり)だけじゃないんだ。 庵途(あんと)もね、失敗したんだよ?」

 「つまり、ヒーロー達を倒せなかった?」


 「うん! ねえ、庵途(あんと)! もう一度聞かせてくれる?」

 「はい…… まず、院堂(いんどう)孔雀(くじゃく)の方は、今まで一度も戦闘に加わってません。 何をしているかと言えば、いつもピンクの前で踊ってます。 ピンクは院堂(いんどう)孔雀(くじゃく)の熱狂的なファンで、変身したその正体にもすぐに気が付き、基本的に二人共戦いを放棄して遊んでいます」


 「面白いでしょお? 使命とか命令とかそっちのけで二人は遊んでいるんだ。 まあ、向こうは人数的に有利なんだけど、それでもいつも拮抗するから一人を確実に止められるって考えると作戦的には向こうの勝ち。 でも、院堂(いんどう)孔雀(くじゃく)って戦闘能力はヒーロー達より多分弱いから実質こっちの勝ちなんだけどねー!」

 「はい。 私もその様に考えているので、院堂(いんどう)孔雀(くじゃく)の行動に制限はかけておりません。 そして、駝鳥野(だちょうの)鳳五郎(ほうごろう)ですが…… 戦力的にはヒーロー5人と戦闘しても問題ないどころか実際には強いと思われます」


 「うんうん。 それで、どうして勝てないのか教えて!」

 「途中でなんで戦っているのか忘れてしまい…… イエローの光の輪の様な攻撃が気に入っているのか毎回追いかけてどこかしらに転落してしまいます。 転落した後は、どうしてそこにいるのか分からずに立ち尽くしているので、毎回愚理央(ぐりお)が彼を回収して撤退する事に……」


 「アハハ! 面白いよね! 毎回面白いネタを話してくれるから庵途(あんと)が報告に来るのが楽しみなんだー!」

 「庵途(あんと)…… あなたも大変なのね」

 「大変よ。 でも、あなた程ではないと思う」

 

 扇子(おうぎ)(わし)は一切会話には参加せず、三人で会話をしているうちにヒーロー達の拠点近くへとやってきた。

 少し離れた場所で車を停め、運転手の喇叭(とらんぺっと)天琉(てーる)を残して4人はヒーロー達の拠点へと向かうのであった。

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