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第19話 ファンとアイドル

 毎月第三水曜日に行われていた秘密結社ルイナスの破壊活動は、メンバーが変わった事により、第一月曜日と第三水曜日の月二回に変更された。

 第一月曜日は元アイドル【ユーアートリコ】の三人に加えて黒井亜里(あり)も参加している。


 第三水曜日は駝鳥野(だちょうの)鳳五郎(ほうごろう)院堂(いんどう)孔雀(くじゃく)|、黒井庵途(あんと)と数合わせの花牟はなむ愚理央(ぐりお)も参加していた。


 変身できるのは元アイドルの3人と黒井姉妹。

 花牟はなむ愚理央(ぐりお)はスーツ姿に仮面を被っているだけである。


 二つのチームの破壊活動は1年にも及び、ヒーロー達との戦いは拮抗して決着のつかない日々が続いていた。

 そんなある日、唐突にうららから命令が下される。


 なんと、二つのチームで同じ日に、違う場所で破壊活動を行うと言う。

 それを聞き、ついにヒーロー達に引導を渡す日がやってきたのかと二つのチームは考える。


 久留麻(くるま)茶菓(さか)はもうすぐ、アイドル活動を再開できるのだと思い、熱が入った。


 「亜里(あり)さん! いいえ、マネージャー! ヒーロー達を倒したら…… きっと私達元に戻れるんだよね?」

 「気が早い! そう言う事はヒーロー達を倒してから言うのよ……」


 「うん、わかった! ヒーロー達を倒そう!」

 「あなた達、武器の点検は怠っていないわよね?」


 「大丈夫! ちゃんとメンテナンスして貰ってるから」

 「そう、でも素振りだけでもいいからちゃんと変身して、自分で武器が使えるのかどうかを確認しておきなさい」


 「心配症だなぁ」

 「そんな事ないわ。 今まで黙っていたんだけど、丁度良い機会だしあなた達の前任者がどうなったのかを話しておいてあげる」


 亜里(あり)は前任者であるミニロップ女達の事を話した。

 当日に渡された武器が使えなかった事、そして諜報員として完璧な役割を果たした泯府(めんふ)鉤爪(くろう)に処分の命令が下った事なども話した。


 「処分…… 茶菓(さか)はもうアイドルに戻れないの?」

 「総督閣下の考えは私には分からない。 でも、役目を終えたと判断された怪人は躊躇なく処分命令が下される。 それだけは事実かしら?」


 「茶菓(さか)は…… 信じるよ。 だって総督は茶菓(さか)と約束してくれたんだもん! 信じるしかないじゃない」

 「そうね、今はヒーロー達を倒す事。 それ以外に道はない。 でも、覚悟だけはしておいた方がいい。 もしそうなったら…… その時は私に任せて」


 亜里(あり)は彼女達を車に乗せ、目的地へと車を走らせる。

 そして、程よい時間に到着した彼女達は準備を整えた後、車から降りる。

 変身した元アイドル達は亜里(あり)に言われた通り、武器がちゃんと使える事を確認した。


 そして、何処からともなく「現れたな悪党共め!」と言って、いつもの如くヒーロー達が現れる。


 「情熱レッド!」

 「真心グリーン!」


 「お前達の好きにはさせないぞ! 俺達!」

 「「国防戦隊ファイブガーディアン!!」」


 「今日はあなた達に引導を渡す為に来た! 覚悟して、レッドとグリーン!」

 「覚悟するのは貴様等の方だ! いくぞグリーン!」

 「二手に分かれたのは失敗だと思うっすけど…… ま、やるしかないっすね!」


 【ユーアートリコ】の三人と二人のヒーローとの戦闘が始まる。


 普段はヒーロー達が五人揃っている状態でようやく戦闘が拮抗するのだが、今回は二人しかいない為、当然ながら戦いは怪人側が圧倒的に優勢である。

 

 後方から攻撃を主体とするグリーンと違い、真面にダメージを受け続けるレッドは、ついに膝をついてしまい、ヒーローの変身も解けてしまい、絶体絶命のピンチが訪れた。


 「くそっ! これまでか……」


 久留麻(くるま)茶菓(さか)は攻撃の手を止める様に指示を出した後、変身の解けたレッドの前へ出る。

 そして、レッドの顔をよく見た後、彼女は微笑む。


 「やっぱり…… レッドは赤井(あかい)闘真(とうま)君だったんだね。 みんなごめん、私…… ファンの人を殺せない。 きっと、もっと楽な道があったんだと思う。 でも、こんな形になったのはきっと茶菓(さか)のせい。 だから茶菓(さか)は、茶菓(さか)の手で終わらせるよ。 今まで、ありがと!」


 久留麻(くるま)茶菓(さか)は自らの体を細剣で貫き、地面に横たわる。

 変身が解除され、細剣が消えると同時に赤い血だまりが勢いを増して広がった。


 「久留麻(くるま)…… 茶菓(さか)ちゃん? 嘘だ、茶菓(さか)ちゃんは俺達と約束して…… 駄目だ! 死んじゃ駄目だ! 茶菓(さか)ちゃんは俺が必ず助ける! 絶対死なせない!」


 そう言ってレッドもとい、赤井(あかい)闘真(とうま)久留麻(くるま)茶菓(さか)を抱き上げ、何処かへと走り去って行ってしまった。


 残されたグリーンもその後を追いかけようとしたのだが、突然鳴り響いたエレキギターの音を聞き、変身怪人達の方へ振り向く。

 そこにはエレキギターを持った少女の姿をした怪人が立っていた。


 「ムカつくぜあの女! 勝手に締めくくりやがって! なあグリーン。 てめえは災難だ。 世界一災難な奴になる。 今から私様(あたくしさま)が腹いせに、てめえをレクイエム(墓標となる曲)でぐちゃぐちゃにしてやるよ!」

 「あー…… ハハ、俺っちの推しが目の前に…… いいっすよ。 俺っちに全部ぶつけてきてくださいっす! ギター勝負なら負けねえっすよー!」


 「ほざくな虫ケラァ! 私様(あたくしさま)サウンド(想い)で! お前をディストーション! 全部(ひず)ませてやる!」

 「いいっすねー! まずはゴリゴリのメタルサウンドでセッションといくっすか!」


 二人のギターの音で周囲の空気全てが震えはじめる。

 体が揺れ動く程の爆音が無差別に周囲を攻撃し、やむを得ず黒井亜里(あり)瑠璃目るりめ(はく)は乗って来た車へと避難し、音波による攻撃を防ぐシールドを張る。

 ギターを鳴らす二人は互いにそれを防ぐ手段も無いのだが、演奏が鳴りやむ事はなかった。


 「うるせぇ、うるせぇ、うるせぇ! てめえのサウンド(想い)じゃ私様(あたくしさま)ここ(ハート)は響かねえ! さっさとくたばって、成仏しろぉ! てめえの音はノイズ(不快)なんだよぉ!」

 「俺っちの音、そんなに不快っすか? そんじゃあ効いてるって事っすねー! 本当は分かってるんじゃないすか? 俺っちの音に聞きほれてるって事」


 「黙れ小僧! 私様(あたくしさま)サウンド(想い)はてめえの100倍増しだ! 口から何吐いたって何も変わらねえよ! てめえの耳が理解しちまってんだろうが!」

 「愛の告白っすかー? 俺っちの音聞いて惚れちまったんすねー!」


 「誰がてめえなんかに! ノイズ(不快)だ。 てめえはノイズ(不快)だ! 良いぜ決めてやる! 私様(あたくしさま)ロックンロール(恋愛感情)で、てめえのリズム(心音)を全部私様(あたくしさま)で染めてやる!」

 「その必要なないと思うっすけどね。 だって俺っち、とっくの昔に惚れちまってるっすから! 俺っちもやるっすよ! ロックンルォォオールル!」


 二人が同時に全く同じ曲を奏で始める。

 それは、ジャンルとしてはロックでもメタルでも無く、とあるテーマパークの有名な曲だった。

 陽気で爽快な行進曲が二人を結び付けていく。


 背黄青(せきせい)音呼(いんこ)

 インコだった時の記憶は殆ど無い。

 しかし、彼女にはどうしても忘れられない音があった。

 エレキギターの音色である。

 

 彼女は音が鳴る度クチバシを机に叩きつけ、リズムに乗っていた。

 演奏する少年に合わせて、唄う事もあった。

 ただ楽しかった。

 そんなある日、少年はいつもよりも楽しそうに話しかけて来る。


 「ピーちゃん! やっと初めて弾けるようになったっす」


 そう言って引いたのがこの陽気で爽快な行進曲。

 もの言えぬセキセイインコはこの時、初めて恋をした。


 「そうか、てめえは私様(あたくしさま)の……」


 演奏が止まり、静けさが訪れる。

 背黄青(せきせい)音呼(いんこ)はグリーンを見つめながら、物思いに(ふけ)る。


 ギターの音を鳴らしても、どんなに技術を磨いても、彼女の心が完全に満たされる事はなかった。

 どうしてもやりたい事がある。

 だが、それが分からず毎日曲の難易度をあげて行き、ひたすらギターを弾き続けた。

 そして今、背黄青(せきせい)音呼(いんこ)は何がやりたかったのかを思い出し満たされ始めた。


 「グリーン。 一緒に来て。 私様(あたくしさま)世界(音楽)に」

 「やっと一緒に弾けるっすね、ピーちゃん」


 背黄青(せきせい)音呼(いんこ)は記憶に眠る聞かせて貰った曲を演奏し、グリーンは聞かせてあげた曲を演奏する。

 同じ曲を弾き、同じフレーズを奏でる。

 たまにアレンジを加えると、更にアレンジを加えてやり返す。

 いつまでも続きそうなメロディーは二人だけのシンフォニーとなり、やがてそれは唐突に終わりを迎えた。


 「満足だ。 もう、満足だ。 ああ、私様(あたくしさま)はこれがしたかった。 てめえとのユニゾン(確かめ合い)…… 悪くなかったっす。 いや、最高だった」


 背黄青(せきせい)音呼(いんこ)はそう言い残して倒れる。

 強烈な音波によってボロボロになった内蔵が潰れ、口内からは真っ黒な血が流れ出て来ていた。


 グリーンも同じような症状の為、立ってはいるものの身動きを取る事は出来なかった。

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