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第18話 アイドルから怪人のお仕事へ

 ライブ開演マジかとなり、熱のこもった会場の照明が落とされる。

 小さな歓声は直ぐに静まり、咳払いをする音が聞こえる程の静けさと暗闇が場内を包み込む。


 ライトアップされたステージに、華やかな衣装に身を包んだ三人のアイドルの姿が現れ、盛大な歓声が彼女達を包み込む。

 BGMが鳴り始めると、それまでポーズを決めて制止していた彼女達が、命を吹き込まれた人形の如くダンスを披露し始める。


 リズムに乗った歓声に向けられるのは【ユーアートリコ】の笑顔。

 しかし、この日はなぜか久留麻(くるま)茶菓(さか)瑠璃目(るりめ)(はく)の表情は硬かった。

 笑顔ではあるものの、どことなく陰りが見える。


 初めての武道館でのライブで緊張しているのだろうか?

 会場に来ているファンの大半はそう思っていた。


 そして、歌い始めるとセンターを務める久留麻(くるま)茶菓(さか)に、いつもの笑顔が戻る。

 いつも通りのライブであるのなら、この時点で久留麻(くるま)茶菓(さか)はファンの名前を呼んだり、声を掛けたりするのだが、今日はいつもより真剣な表情を見せる事が多く、珍しく一度だけ振り付けを間違えた。


 彼女をよく知るファンの中にはその様子を見て、いつもとは違う雰囲気を感じ取り、心配する空気が流れた。


 久留麻(くるま)茶菓(さか)は突然、両腕を上にあげ交差し、ライブの流れをバッサリと絶つ。

 そして、止まったBGMの中、ステージの中央に三人のアイドルが集まる。


 久留麻(くるま)茶菓(さか)は一歩前にでて観客に向けて語り始めた。


 「ごっめーん! ちょっと緊張してた! 赤井(あかい)闘真(とうま)くーん。 相変わらず声大きいねー! かぎしっぽ星人さんも見―つけた!」


 久留麻(くるま)茶菓(さか)は続けて、新たに見つけた20名程のファンの名前を呼び「今日は最高のライブにするって約束するから!」と言って、後ろで待っていた二人を抱きしめながら「楽しむぞー!」と叫んだ!


 歓声も大きくなり、再び曲がスタートする。

 今度はいつもの久留麻(くるま)茶菓(さか)らしい笑顔を浮かべ、圧倒的な歌唱力とキレのあるダンスで観客を魅了していく。


 瑠璃目(るりめ)(はく)久留麻(くるま)茶菓(さか)のアドリブなどにもしっかりと対応し、高い身長を生かしたエレガントでダイナミックなダンスは、最も人気のある久留麻(くるま)茶菓(さか)から一時的にファンの目を奪う程見事なものであった。


 二人を横目に背黄青(せきせい)音呼(いんこ)もパフォーマンスを始めだす。

 ステージをファンを(あお)りながら行ったり来たりして、両手をあげて三本指のメロイックサインを見せる。


 そのままくるくる回ったりしながらステージの奥へ下がっていくと、突然観客のいる方へと走り出す!

 直感的に何かを察した瑠璃目(るりめ)(はく)は、勢いよくステージから飛び出そうとした背黄青(せきせい)音呼(いんこ)を横からキャッチして抱き上げ、ポンポンと頭を叩きステージに戻した。


 夢の様なキラキラした時間は過ぎて行き、最後の曲を歌い終えた三人は再びステージの中央へと集まる。

 大きな歓声は徐々に静まり、アンコールを求める拍手と掛け声が溢れて来る。


 久留麻(くるま)茶菓(さか)はステージから見えるファンを見つめ、喉の奥に溜めた言葉を口に出そうとする…… しかし、その言葉は出ず、両目から涙が溢れ出て来るばかりだった。


 アイドルに思い入れの強い久留麻(くるま)茶菓(さか)は最後の挨拶を口にしようとする度に、その身を大きく震わせた。

 言葉が出て来ない久留麻(くるま)茶菓(さか)の代わりに、背黄青(せきせい)音呼(いんこ)前に出る。

 そして、メロイックサインでアピールした後、静まり返ったファンに向けて語り始める。


 「今日、この時間。 今を持って私様(あたくしさま)達【ユーアートリコ】は、結末を迎える」


 この言葉を聞いた観客から、どよめく声とざわざわとした不穏な空気がステージの上に立つ三人に向けられる。

 中には「やめないでー!」と叫んだり、いつの間に用意したのか【解散反対!】の旗を掲げるファンの姿もあった。


 「ファンの皆さん! 今まで私達を応援してくださり、ありがとうございました! 茶菓(さか)ちゃんが皆の事大好きすぎて、お別れしたくなくて言葉に出来ないみたいですけど、私達は再びこのステージに戻ってくるつもりです! 今は事情があって活動休止と言う形になってしまいますが、きっと戻ってきます!」

 「その時が来る事を待ちわびてろよ糞野郎共(最高のファン達)!」

 「ごめんなさい。 笑顔のまま挨拶したかったのに…… 上手く言葉にできなくて…… でも、きっと戻ってくる! 戻って来るから、みんな、待っててね」


 ファンの声援は暖かく、彼女達がステージから消えてからも鳴りやむことは無かった。


 そのままの空気の中、観客達はゆっくりと退場していく。

 そして、楽屋へと戻った三人をこれまで支えてきたマネージャーの黒井亜里(あり)が優しく出迎える。


 「ご苦労様。 本当に頑張ったわねあなた達。 ファンと約束したんだから、またここに戻って来て、また楽しいライブをやりましょう」

 

 久留麻(くるま)茶菓(さか)大粒の涙を零しながら亜里(あり)に抱き着き、瑠璃目(るりめ)(はく)はそんな彼女の頭を優しく撫でた。

 

 亜里(あり)が「そろそろ気持ちを切り替えるわよ」と言って久留麻(くるま)茶菓(さか)の肩を強く抱くと、赤く目をはらした久留麻(くるま)茶菓(さか)は俯きながらも深く頷いて見せる。


 楽屋から出た亜里(あり)達は裏口から駐車場へと行き、真っ黒な黒いワンボックスカーに乗り込んだ。


 秘密基地へ帰り、亜里(あり)は三人を連れてラボへと向かう。

 ラボではチンパンジー博士から【人型怪人】用の変身アイテムの腕時計を三人は受け取る。

 使ってみると、三人共全く違うタイプの姿をしていて、共通するのは目隠しをして露出が多いと言う部分のみ。


 久留麻(くるま)茶菓(さか)は殆ど防御力の無さそうな鎧と兜姿で、足には網タイツ装着している。

 腰にはおもちゃなどでしか見られない様な奇抜でカラフルなデザインの細剣が装備されてある。

 軽く振ってみると、武器としてはちゃんと使えるようだった。


 瑠璃目(るりめ)(はく)は忍者衣装を着ており、頭巾を頭に被り、額当てで目元まで覆われている。

 武器はなぜか禍々しい見た目をした大鎌である。


 背黄青(せきせい)音呼(いんこ)はゴスロリで、頭飾りと目隠しをしている。

 美しい音色の鳴るベルを持っているが武器として使えるかは不明。

 地面につく程長い髪は解かれており、髪の先には刃のある髪飾りが計7本つけられている。

 こっちは武器として使える様で、手足の様に髪の毛を操作する事が出来た。


 亜里(あり)は早速三人に、うららから引き受けた仕事の内容を説明した。

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