第16話 アイドルの危機
ネットの口コミから大人気となった三人組のアイドル。
ユニット名は【ユーアートリコ】。
三つの意味があるのだが、うららのアドバイス通りサッと考え付いたユニット名である。
怪人である彼女達は圧倒的な歌唱力と身体能力を巧みに使い、ネット上で瞬く間に有名になり、配信では三人共弾丸トークを披露するので、その配信スタイルも注目されていた。
今日は全国ツアーが終わり、【ユーアートリコ】の新曲が流れる会場で握手会を開いている。
「いつも応援に来てくれてありがと! 赤井闘真君いつも一番大きな声してるから茶菓一番に覚えたよ! ってこの前の握手会の時も話したか! ライブの時も見つけたら闘真君って声掛けてるの気付いてる?」
「勿論です! 俺は一生茶菓ちゃんのファンなので! これからも頑張って下さい!」
久留麻茶菓は驚異的な記憶力で握手会に来ているほぼ全てのファンの名前を覚えている。
そして、よく配信で海外からのファンも来るので、英語を初めとした7カ国語をマスターしているマルチリンガルでもある。
「はい! 握手してくださいーい! いつも応援ありがとうございます! 握手会は今日が初めてですか?」
「いえ、二回目です!」
「凄い嬉しい! 嬉しいって思ってくれると胸いっぱいになってもっと嬉しいってなるので、これからも応援よろしくお願いしますね! 茶菓ちゃんと音呼ちゃんの事も私と同じくらい応援してくれるともっともっと嬉しいです!」
「はい! 僕も沢山嬉しいって思い、伝えていくんで応援してます! 頑張って!」
瑠璃目白は他の二人の一番のファンであると宣言する程仲間想いのアイドルである。
二人の幸せが自分の幸せであると本気で思っている為、沢山のファンを見るだけで幸せいっぱいになる。
配信では二人の事を話し過ぎる為、厄介ファンのレッテルを張られている。
その為、三人の中では最も人気は低いのだが、見た目とは裏腹に柔らかな雰囲気のある彼女の魅力の虜となっているファンの数は少なくはない。
「次はどいつだ! 握手して欲しいなら私様のここにグッとくる言葉をぶつけてミロ!」
「「「愛してる!」」」「「「愛してる!」」」「「「愛してまーす!」」」「俺っちが一番愛してるっす!」
「クソ野郎共ぉ! お前等全員に、私様のロックンロールを届けてやるから! 覚悟しとけよおおお!」
背黄青音呼は、毎回握手会ではファンの群れに突っ込んでいき暴走する。
最初の握手会では誰彼構わず抱き着いたり、キスしようとしたので、亜里に止められてしまい、両腕を亜里に掴まれながらの握手会となってしまった過去がある。
なので、現在は亜里に怒られない程度のノリでファンの列に突っ込んでいき、ファンサービスをしている。
突拍子の無い行動と、独特の言い回しから根強いファン達がいる。
三人の中では一番小さく、子供っぽい一面も良く見せるのでロリコンにも人気がある。
配信ではギターをお披露目する事もあるが、亜里に制限されて30分までとなっている。
握手会が終わり、次のスケジュールについての会議をすると言う事で、【ユーアートリコ】の三人は秘密基地にあるマネージャールームの席に着いた。
「次のライブなんだけど…… 日本武道館で行う事になったわ。 あなた達の人気なら問題なく満員になるでしょうね」
「やったー! 日本武道館で一度はやってみたいって思ってたの!」
「ええ…… それでね。 そのライブがあなた達にとってアイドル最後のお仕事になるわ」
「何それ……? マネージャー! どういう事!?」
「総督閣下の命令なの。 そのライブを最後に、あなた達には怪人としての務めに励んでもらうって命令が下ったのよ」
「そんな…… 茶菓はアイドルを続けたい! 怪人のお仕事をしながらアイドルのお仕事もするじゃ駄目なの!?」
「総督命令なの。 理解して」
「理解出来ない! 総督に会って直接お願いしてみる!」
「止めておきなさい。 でも、あなた一人で行くなら…… いいわ、私も一緒に行ってあげる」
「マネージャー! ありがと!」
亜里は茶菓をうららの元へ連れて行く。
そして二人は、うららの前に膝をついた。
「うららにお願いしたい事があるのー? いいよ、言ってみて!」
久留麻茶菓はうららの方を見つめる。
うららの両脇にいる怪人のプレッシャーにも気圧される事なく、はっきりとした口調でアイドルを続けたいのだと進言する。
「アイドルを続けたい? どういう意味?」
「茶菓はアイドルをしていてとても楽しいんです! きっと、茶菓はアイドルをする為に生まれてきた。 だから、アイドルを止めるなんて出来ません!」
「ああ! そう言うことー? 三人共同じ意見なのかな?」
「それは…… 分かりません。 でも、二人共アイドルをやってて楽しいって思ってくれてます! 私達からアイドルを取り上げないで欲しいです!」
「そっかー。 じゃあ、三人共必要ないし、処分にしーちゃおっと!」
「お待ちください!」
「どうしたの亜里?」
「怪人のお仕事は私が必ず彼女達に全うさせます! ですので、その暁にはもう一度アイドル活動を再開する…… では駄目ですか? それならきっと彼女達も素晴らしい働きを見せてくれると思いますが……」
「ええ? 別に変わりなんていくらでもいるじゃない?」
「それでしたら……」
亜里はアイドル活動を止める必要もないと言おうとしたその時、扇子鷲が片腕を腰に当てた。
たったそれだけで死への恐怖から亜里は何も言えなくなってしまった。
しかし、隣にいた少女は違う。
なんと、このプレッシャーの中、立ち上がって自らの言葉を伝え始めた!
「さ…… 茶菓、アイドル辞めたくありません! 変わりなんていくらでもいるのなら、茶菓達がアイドル辞めなくったっていいじゃないですか! 処分するって茶菓達を殺すつもりなんですよね? それならどうしてですか? アイドルをしていて何か困るんですか? 組織にとって茶菓達は決してマイナスにはなりません! 茶菓は、茶菓は…… アイドル出来るならなんだってします! お願いです総督閣下! 一生で一度だけでいいから、茶菓のお願いを聞いて下さい!」
「ウフフ、よくしゃべるね! いいよ! それじゃあ、今からあなた達のアイドル活動を認めてあげる!」
「ありがとうございます!」
「はい! それじゃあ今から禁止ね!」
「え……? どういう事ですか?」
「一生に一度きりのお願いを今聞いて、その後に禁止にしたの! これでお互いウィンウィンの関係でしょ!」
「そんな…… あんまりじゃないですか!」
「うららは全然そんな風には思わないけど……? まあいいや。 そこまでやる気があるんだったら当初の予定通り変身怪人の実験にしてあげるね」
「変身怪人の実験?」
「うん! ヒーロー達みたいに【人型怪人】達に変身して貰って、破壊活動を行ってもらうの!」
「それって何の意味があるんですか?」
「実験だからね。 意味はやってみてからのお楽しみー。 面白そうでしょ? 変身ヒーローと変身怪人が争うの」
「茶菓にはわかりません。 でも、それで総督閣下が喜んでくれるならやります!」
「おっけー! それじゃあラボにいる博士達から変身道具を貰って、早速活動を始めて欲しいんだけど…… あなた達には最後のライブがあるんだったよね? じゃあ、その後からでいいや」
「わかりました! 実験が上手くいけばアイドル活動をしていいんですよね?」
「うん、その時はうららから許可を出してあげるね! 楽しみに待っててー!」
「はい!」
久留麻茶菓はうららに礼を言った後、再び亜里と共にマネージャールームへと帰還する。
「殺されるかと思ったわ。 あなた、よく総督にあそこまではっきり言えたわね」
「茶菓にとってアイドルは…… アイドルは茶菓の全てだから」
「尊敬するわ。 とりあえず、今は何も考えなくていいから、最後のライブを最高のものにする事だけ考えて。 その後の事は私が考えといてあげるから」
久留麻茶菓と亜里は事の経緯を二人にも伝えた。




