第14話 怪人達はそれぞれの夜を明かす
治療を受けた泯府鉤爪が眠っている部屋の中には必ず一人の気配があった。
深夜になってからも必ず一人はいる為、仕方なく目を覚ます事にする。
体を起こすと目の前には一人の女性が椅子に座っており、本を読んでいた。
泯府鉤爪が身体を起こした事に気が付き、その女性は読んでいた本を閉じる。
「やっと起きたのね。 どう? 目覚めは?」
「よく、わからないです…… ここは何処ですか? 私、恐ろしい人達に追われてたはずなんですけど……」
「ここはその恐ろしい人達と戦う為の施設よ。 私達があなたの事を助けたの」
「そうだったんですね。 あの、遅れてすみません! 助けてくれてありがとうございます」
「お礼何ていいわ。 傷はまだ痛む? お腹は空いてない?」
「傷…… 痛たた。 触ったり動かしたりすると腕と足がまだ痛いですね。 お腹は少し空いてます」
「わかった。 それじゃあ食事を置いて帰るから、誰か来るまでここで休んでて。 痛みが引いたら知ってる場所まで送って行ってあげるから」
「ありがとうございます」
食事を用意してくれた彼女は、泯府鉤爪に部屋の電気とトイレの場所を教えた後、部屋から出て行き帰宅する。
「さて、邪魔者も去ったし、軽く見て回ろうかな」
泯府鉤爪は病室らしき場所の扉を開け、廊下にでる。
耳をすまして周囲の状況を確認しながら進むと、カードキーによって廊下の先へは進めなくなっている。
一度引き返し、他にいける部屋を覗いてみると、食堂や仮眠室などがあり、綺麗に整理整頓されていて、有用な情報の類は見つからない。
「ま、当然のセキュリティーだよね。 でも、僕にはそんなもの関係ない」
泯府鉤爪は博士達に作ってもらった七つ道具の一つを使い、一時的に自らの体を元の獣の姿に戻した。
これで小さなダクト内を通って移動する事が出来るのだが、足音を消す事が出来ないので、気配を探りながら慎重に歩いて行く。
そして、廊下を渡った先にある部屋への入り口を見つけたので、そこから部屋の中へと入り、また七つ道具の一つを使って【人型怪人】の姿に戻した。
部屋は散らかっており、ベッドの上には沢山の資料が置いてある。
手に取ってみると、これらの資料は全て手書きで、ヒーローの武器や変身道具などの事も掛かれてあった。
「記入した研究者は左利きか、どの資料も左利きだし、おそらくこの部屋はその人物専用の個室。 散らかってるのもそのせいか…… 他の研究者がいる様な資料はないけど、開発者はチームで行っている? もしかして研究は一人でやってる?」
引き続き散らかった部屋の中を物色していると、足音が近づいて来る。
どんどん近づいて来るのでこの部屋の研究者かもしれないと思い、ベッドの下に身を隠した。
案の定、部屋の扉が開き、中へ人が入って来る。
そして、その人物が最初に取った行動に泯府鉤爪驚愕する。
なんと、いきなりベッドの下を覗いてその人物と目が合ってしまった!
更にその人物は平然と腕を伸ばし、泯府鉤爪の足を掴んで、ベッドの外へと引きずり出してしまった。
「やっぱりいたっすねーメンフクロウちゃん」
「へぇ…… 僕の事知ってるんだ?」
「知ってると言うか、誰かに聞いたとかってわけじゃないっすけどねー。 たまたまスカンク男ちゃんが言ってたんすよー。 メンフクロウは大丈夫かなって。 それをカラス女ちゃんが誤魔化そうとフォローしてたっすねー」
「ふーん。 その言い方だと確信してたわけじゃないんだ。 勘が鋭い人?」
「別に勘が鋭いとかじゃないっす。 大河尤鼠って言う人間にしか見えない怪人がいたから最初から警戒はしてたんすよ」
「そうなんだ。 それにしても、よく僕が泯府鉤爪だってわかったね」
「それはベッドの上で寝てた時に、君の耳を見させて貰ったから確信あったっすね。 他にも理由はあるっすよー。 獣の特徴を残した怪人は〇〇男とか○○女で、人型はそのまんまの名前を使ってるっぽかったっす。 それで、メンフクロウちゃんは人型じゃないかって思ってたんすよ」
「なるほどね。 それで、グリーンは僕の事、どうするつもり?」
「俺っちは驚かないっすよ、口調ですぐわかるっすからね。 メンフクロウちゃんの事はどうもしないっすよ。 危ないから俺っちが一緒に必要な情報を探してあげるっす」
「ふーん。 メンフクロウってさ、猛禽類なの知ってる?」
「勿論知ってるっす。 変身してない俺っちなんて、音もなく首ちょんぱ! なんてね。 だから命乞いになんでも教えるっすよー」
「そう…… じゃあ、研究者の数と毎日どれくらい研究しているのか、それと捕らえた怪人達をどうするつもりなのか教えてもらえる?」
「研究者は一人っすよ。 研究時間はその日の体力しだいっすかね? ずっと研究室に引きこもってるから最低でも一日の半分はやってるはずっす。 捕らえた怪人は傷の手当てをしてから帰してあげるっす」
「研究者が一人って言うのは本当?」
「本当っすよ。 開発者は10人くらいいるっすけどね」
「なるほどね。 怪人達を逃がすのはどうして? それと、怪人達の研究はしないの?」
「怪人の研究はちゃんとやってるっすよ。 血液とかも採取させて貰ったっすからね。 怪人達を逃がすのは怪人によるっすね。 今回捕らえた怪人はみんないい子だったっすから」
「逃がしたらまた戦う羽目になると思うけど? それに、破壊活動を容認できるわけじゃないでしょ?」
「あの子達相手ならいくらでも戦うっすよ。 それに、破壊活動ってあの子達で考えてやってるわけじゃないっすからね。 その役目を新しい怪人にやられる方が大変っす」
「甘く考えてるわけじゃないんだ。 一応、グリーンが嘘を言ってないんだったら僕の欲しい情報は集まった」
「俺っち嘘つかないっすよ。 それで、これからどうするつもりっすか?」
「帰してくれるんでしょ? それならあいつ等と一緒に出て行くよ」
「それじゃあ、あの子達の部屋に案内するっす」
グリーンは泯府鉤爪をミニロップ女達のいる病室へと連れて行く。
そして、部屋の中へ入るとカラス女がクチバシの前に人差し指を立てたので、グリーンは泯府鉤爪に「おやすみ」とだけ伝えて去っていく。
泯府鉤爪も二人はまだ目覚める気配がないのを悟り、自らもベッドの上で寝る事にした。
◇
一方その頃。
大河尤鼠は匂いが取れるまで海の中を泳ぎ、岩場となっている海岸の方へ来ていた。
そして、そこで大河尤鼠はあるものを見つける。
それは、必死に岩にしがみついてる一人の少女の姿だった。
小腹が減ってるので丁度良いと思い、大河尤鼠は彼女に横へ行き、少女の顔をペロリと舐めた。
すると、少女は「泣かないで」と声を上げた。
「こいつ、量産型かぁ…… じゃあ食えねえな。 食ったら爆発しちまう……」
大河尤鼠は少女に興味を失ったのだが、少女は「泣かないで」と言って大河尤鼠の体にしがみ付いた。
少女の力は非常に弱く、今にも力尽きてしまいそうだった。
「仕方ねぇなぁ…… 陸に上げてやるから爆発すんじゃねぇぞ」
「泣かないで」
大河尤鼠は少女を抱えて岩場を上がっていく。
そして、少女の歩けそうな陸地にまで辿り着くと、少女を地面に置いて行こうとしたのだが、少女は大河尤鼠にしがみ付いたまま離れないでいた。
「おい、もういいだろ。 離れてくれ」
「泣かないで」
「離れたくねぇのかぁ?」
少女は首を縦に振る。
「なんで離れたくねえ? 腹でも減ってんのか?」
再び少女は首を縦に振る。
「じゃあ、ここでしばらく待っとけ。 新鮮な寝坊助共を拾ってきてやる」
少女は大河尤鼠の顔を見つめながら頷き、手を離してその場で肩を震わせながらしゃがみこんだ。
大河尤鼠は岩場から海に飛び込み、匂いを嗅ぎながら真っ暗な海の中で魚を見つける。
三匹捕まえると片腕がいっぱいになったので少女の元へと戻っていった。
「同じ種類の魚だな」と言って大河尤鼠は噛り付き「まぁまぁだな」と言ってボリボリと骨まで砕きながら魚を一匹食べ切って見せる。
そして、少女にも魚を二匹手渡した。
魚を渡された少女は大河尤鼠を見上げながら「泣かないで」と言って困った表情を浮かべる。
「なんだよ? もしかして魚食えねえのか?」
「泣かないで」
少女が首を横に振ったので大河尤鼠は少女の意図が分からず首を傾げる。
そんな二人の元へ、神父姿の男が懐中電灯を片手に駆け寄ってくる。
「あの、大丈夫ですか?」
「あぁん? 大丈夫? なんで心配してるんだ?」
「この女の子、両手に魚を持って震えてるじゃないですか!? それに全身濡れてる! 早く温めてあげないと!」
駆け寄って来た男は少女の服を脱がせ、自分の身に着けていた上着を着せる。
そして、そのまま抱きかかえて歩き始めた。
「あなたもびしょ濡れで酷い姿だ。 一緒に着いて来て下さい!」
特にする事も無かったので、大河尤鼠はその男に着いて行く事にした。




