第11話 捨て駒。
時は流れ、月が変わり、また襲撃の日が訪れる。
力不足を痛感したミニロップ女はこの日まで、復活したカラス女、スカンク男と共に戦闘訓練を行っていた。
大河尤鼠は戦闘訓練には参加せず、猪と戦ったり山の裏にある海で素潜りなどして、溜まっていたストレスを発散させ、昂る自分の本能を抑え込んでいた。
泯府鉤爪は毎日ヒーロー達の拠点へと赴き、諜報活動をする日々であった。
「みんな揃ったうさ! 量産型戦闘員しゃんを呼ぶと少し狭いでしゅ?」
「それなら僕が運転する。 それとも僕は飛んで行った方がいい?」
「みんないた方が楽しいうさ! 一緒に行くうさ!」
「了解」
「みんな新しい武器わぁ、ちゃんと持ってるわよね?」
「ミニーは大丈夫うさ」
「スカンクもちゃんと持ってるスカー」
「俺も…… 持ってる。 ちょっと、いいか?」
「大河尤鼠しゃん!? どうしたんでしゅか珍しい!」
「せっかくの獲物だ…… 試し斬りがしたい。 何処でもいいから人間の居るところで寄り道してくれ」
「駄目でしゅよ! 出発直前までミニー達の為に、半藤入鹿博士とチンパンジー博士が調整してくれてたんでしゅから! それに、今日は時間ギリギリだからぶっつけ本番で使うしかないでしゅ!」
「わかったよ。 キンキンうるせぇなぁ……」
「大河尤鼠しゃん! ミニーは大河尤鼠しゃんと、もっと仲良しになりたいでしゅ!」
「あぁ……? なんでだよ……?」
「理由なんていらないうさ! ミニー達は同じチームの仲間でしゅ!」
「チームの仲間ぁ? 言っとくが、ここにいる全員を俺は捕食対象として見ている。 特にミニロップ女は旨そうだぁ…… チームを組んでなきゃぁ…… 我慢できずに5秒で胃袋だぁ……」
「捕食者と被食者は友達になれないうさ?」
「そんなもん考えた事もねぇ…… 旨そうな獲物が近づいて来たら、喜んで食っちまうからなぁ……」
「大河尤鼠ちゃぁん。 今、こうしてお話できてるのはどうしてかしらぁ?」
「一応味方だと認識してるからだぁ。 それに、今は腹も膨れてる。 それでも…… 齧りついたり、肉を抉ったりして遊びたいのを我慢してるんだぁ……」
「ミニロップ女ちゃぁん。 大河尤鼠ちゃんとお友達になるのは難しいかもしれないわぁ」
「ええー? どうしてでしゅか?」
「猫と鼠とかぁ、仔馬とライオンとかぁ、そのくらいの距離感なら仲良くなれたかもしれないけどぉ、猫で例えるならぁ、猫と餌用の缶詰くらいの距離があるみたいよぉ」
「加工肉うさ!? せめてピンクマウスくらいにはならないうさ?」
「それでもいいわよぉ」
「むぅん…… 絶望的うさ……」
「安心しろぉ…… 今はまだ、我慢できるぅ」
「ミニロップ女さん、こいつの事、信用しちゃ駄目スカー」
「むぅん…… 仲良くなりたいのになぁ! あーあー、一番! ミニロップ女! 歌いましゅ!」
そう宣言して、ミニロップ女は突然歌い始めた。
とても上手とは言えない歌だったが、仲良くなりたいと言う思いは伝わり、それに合わせてカラス女が手を叩き、スカンク男も一緒になって歌い始める。
運転をしていた泯府鉤爪リズムに合わせて肩を揺らし、大河尤鼠も空気を読んで口笛をピーピーと吹いていた。
そして、目的地に付近に着いたので車を停め、泯府鉤爪は空へと飛び去って行く。
「海が近くて良い所うさ」
「今は私達が襲撃予告をして人がいないけどぉ、普段は観光客でいっぱいらしいわよぉ」
「人間が沢山いるのは落ち着けないスカー」
「早くやりてぇ…… もういい時間なんだろぉ? 早く始めようやぁ」
「ちょっと待ってくだしゃいね。 今日の襲撃目標は特にありましぇん! しいて言うならこの辺り一帯が襲撃目標うさ! 逃走ルートは確保しておきたいし、車からは離れておくうさ!」
「わかった。 なら、あっちへ行こう。 あの辺りなら戦いやすそうだぁ」
特に反対する理由もなかったので、大河尤鼠の言った場所へと移動すると、どこからともなく声が聞こえて来る。
そして「待っていたぞ悪党共!」と言いながらヒーロー達が怪人達の目の前へと駆け足で集まってくる。
「情熱レッド!」
「真心グリーン!」
「希望イエロー!」
「高級ブラック!」
「愛情ピンク!」
「今日こそお前達の最後だ! 俺達!」
「「「「「国防戦隊ファイブ―― !!!!?」」」」」
ヒーロー達が決めポーズをしようとバランスを崩した瞬間、大河尤鼠が突っ込んでいき、まだ武器すら構えていないレッドの肩に喰らい付いた!
「くそっ! なんて卑劣な! だが、お前の牙では―― ッグ!」
「レッド! 私がなんとかするわ!」
イエローが光り輝く輪っかを装備し、レッドに噛みついている大河尤鼠に攻撃すると、ダメージを喰らった大河尤鼠がレッドを離し、ヒーロー達から距離を取る。
「その輪っかぁ…… 攻撃力が増してやがるなぁ…… クククク……」
大河尤鼠とヒーロー達がにらみ合っている隙に、カラス女が転送装置を作動させる。
「さあ、量産型戦闘員ちゃん達ぃ! でておーいで!」
カラス女が召喚ボタンを押すと、その場に異様な光景が広がる。
今まで現れていた量産型戦闘員は全身タイツ姿の覆面男であったが、今回召喚されたのはワンピース姿の幼い少女達。
小学1年生くらいに見える少女の姿をした量産型戦闘員達が一斉に声を上げる。
「「「泣かないで」」」「「「泣かないで」」」「「「泣かないで」」」「「「泣かないで」」」
「泣かないで」「泣かないで」「泣かないで」「泣かないで」「泣かないで」「泣かないで」「泣かないで」「泣かないで」「泣かないで」「泣かないで」「泣かないで」……
「なんでしゅかこの子達…… カラス女しゃん! 召喚を止めるでしゅ!」
「止まらないの! 仕方ない…… 破壊するわ!」
カラス女が転送装置を破壊すると、量産型戦闘員達はこれ以上召喚されなくなった。
召喚された少女達は蜘蛛の子を散らす様に走り出し、様々な場所で自ら爆発していく。
率先して自爆している様に見えるのだが、爆発寸前の彼女達の表情は、グッと目を瞑り、胸の前で手を結んでから下唇を噛んで爆発している。
「止めなさいあなた達! こっちへ集まりなさい!」
カラス女が彼女達を食い止めようと指示を出すが、量産型戦闘員の少女達にとまる気配はなく、ただ「泣かないで」と言って破壊目標を定めて自爆していく。
中にはヒーローに突撃する個体もいて、戸惑ってしまったヒーロー達は成す術もなく大きなダメージを負った。
そして、その隙を狙った大河尤鼠の攻撃をブラックが受け止め、少女達は全て自爆していなくなる。
イエローは大きなショックを受け、身体を振るわせて泣いていた。
ピンクはそのそばで武器を手に、イエローを守っている。
「見損なったぞマスカラス!」
「レッド、落ち着くっす。 あっちもなかなかショックを受けてるみたいっすよ。 それに…… いつものサイレンス…… そう言う意味だったんすかね?」
「スカンク、悲しいスカー。 あの子達は自爆する為に生まれてきたスカー?」
「今は考えちゃ駄目よぉ。 私達は戦いに来たの。 武器を構えなさい! あなた達!」
カラス女が檄を飛ばし、ミニロップ女とスカンク男が新たな武器を手にする。
ミニロップ女の武器はアサルトライフル。
何で出来ているのかは不明だが驚く程軽い。
スカンク男はジャマダハルと言う腕に装着する刺突武器で、この武器も同様に非常に軽い。
カラス女も同じような刺突武器だが、こちらは足に装着する作りになっている為、高く飛び上がって、上空を旋回してチャンスを窺っている。
大河尤鼠はダガーナイフだったのだが、すでにブラックとの戦闘で使用した後、使えないと判断してその場に投げ捨てていた。
戦々恐々とした空気の中、スカンク男はレッドに刃を突き立てる!
レッドはそれを上手く躱したが、空中にいたカラス女がその隙を突きヒットする!
そして、全員が違和感に気が付いた。
ミニロップ女が「なんでぇー」と情けない声を発しながらアサルトマシンガンのトリガーを引く。
勢いよく射出されるのは匂いのない液体であり、少し舐めてそれがただの水だと言う事がわかった。
ヒーロー側で動けるのは4人。
そして、怪人達も4人であったが、ヒーロー側の攻撃力は増しており、それぞれの怪人に対しての対策もしているので、大河尤鼠以外の怪人はあっけなく無力化されてしまう。
そして、このタイミングで乗って来た車がなぜか大きな音を立て、爆発を起こした。
周囲は見通しのいい平地で、もはや逃走ルートなどどこにもない。
狂暴な大河尤鼠も、深手を負ってしまい、仲間の元へと下がってくる。
「こりゃぁ…… 駄目だな。 完全に対策されちまってる。 向こうも一人動けないってのによぉ……」
「大河尤鼠しゃん…… 後ろは海でしゅ。 泳ぎの得意な大河尤鼠しゃんならきっと逃げ切れるうさ! カラス女しゃんも飛んで逃げるうさ」
「馬鹿ねぇ。 私、仲間を置いて逃げるのは趣味じゃないのぉ」
「ミニロップ女さん! 早くそいつから離れろスカー!」
スカンク男が大声をあげると同時に、大河尤鼠はミニロップ女の首筋に噛みついた。




