回廊の破壊と騎士団の末路
眼前に広がるのは、不気味に脈動する黒紫色の巨大な渦。
かつてナイトホークのブレスで崩壊させたはずの回廊は、何事もなかったかのように修復され、禍々しい威容を取り戻していた。
「ナイトホーク、もう一度ブレスで焼き払うことはできて?」
「もちろんだとも。我が火焔に焼き尽くせぬものなどない」
ナイトホークが大きく顎を開き、全身の魔力を込めた極大のブレスを放つ。しかし、紅蓮の炎が回廊に届く直前、立ち込める漆黒の霧がそれを霧散させた。
「……耐ブレスの防護結界か。エリ、物理的な破壊では埒が明かぬようだ」
「やっぱり……あいつの力を使うしかないのね」
エリはナイトホークの背の上にすくっと立ち上がった。激しい風に髪をなびかせながら、空に向かって両手を広げる。
「焼き払え!」
短く、鋭い命。
その瞬間、エリの体からまばゆい光の弾が次々と撃ち出された。光弾が渦巻く回廊に触れた刹那、黒い炎が爆発的に燃え上がり、回廊そのものを内側から食い破るように焼け落ちていく。
「さすが神力ね。効果が段違いだわ……」
「エリ、あまり使いすぎるな。神力はミリエルを引き寄せる灯火となる。最低限に留めておくのだ」
ナイトホークの忠告に、エリは小さく頷いた。
「わかってる。これで回廊はしばらく再建できないはず。……それより、私が気になるのはミリエルの言葉よ。守備隊や騎士団が本当に全滅したのか、この目で確かめたいの」
「では、ベテランズレストへ向かおう」
ナイトホークは大きく翼を返し、空を切り裂いて飛翔した。
やがて見えてきたベテランズレスト。遠方から黒い煙が立ち上っているのが見え、エリの胸に鋭い焦燥感が突き刺さる。
「……嘘、町が燃えてる……!?」
だが、近づくにつれて光景は違って見えた。煙は町そのものではなく、公園に開けられた巨大な穴の中から上がっていたのだ。穴の周囲には、無傷の騎士団と守備隊の兵士たちが整然と取り囲んでいる。
「エリ殿! ご無事で!」
駆け寄ってきた団長が、煤に汚れた顔をほころばせた。
「魔人の死骸を奴らが自ら開けた穴の中に放り込み、焼却しているところです。終わり次第、埋め戻す手筈となっております。いやはや、いただいたガス弾は実に効果的でした!」
「……全滅したわけじゃ、なかったのね」
呆然と呟くエリに、団長は不思議そうに首を傾げた。
「全滅? いえ、被害ゼロとはいきませんが、魔人相手の戦いとしては奇跡的なほど軽微です。すべてはエリ殿のおかげですよ」
(あの女……神様のくせに、真っ赤な嘘をついたわけね!)
内心で怒りの炎を燃やすエリの脳裏に、あの涼やかな声が割り込んできた。
『あら、嘘も方便というのよ。あんたをやる気にさせるためのスパイスかしら?』
「仏の言葉で神様が誤魔化すんじゃないわよ!!」
思わず叫んだエリのツッコミは、晴れ渡った空へと虚しく響き渡った。




