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最終章:遠ざかる境界、語り継がれる名

 神殿の最奥、観測の儀を終えた神官たちが静かに口を開いた。その報告は、長きにわたる戦いの終焉を告げる、何よりも福音であった。


「――魔界とこちらの世界の距離が、確実に離れ始めています。このままいけば、魔界回廊を維持することさえ不可能な距離になるでしょう」


 その言葉を聞き、エリはふっと肩の力を抜いた。


「そう……。じゃあ、あと一、二回ほど神力で回廊をブチ壊してやれば、魔界からの侵略はとりあえず無くなるってことね」

「次の接近は数百年の先だという。もはや、エリ殿が責任を感じる必要はないだろう」


 隣に立つナイトホークが、労うように視線を向ける。エリは苦笑いして、遠い空を見上げた。


「さすがに、その頃までは生きていられないかな。あとのことは未来の勇者に任せるとしましょうか」


 その時、頭の中に直接、聞き慣れたいたずらっぽい声が響いた。


『あらエリ、私がその時まで連れて行ってあげようか?』

「ミリエル!」


 思わず叫んだエリに、空から降ってくる声はどこか晴れやかで、けれど少しだけバツが悪そうだった。


『ははっ、冗談よ。……今回の件、神界では「不手際」ってことになっちゃってね。私は罰として、地上のどこかの神殿に落とされることになったわ。……まあ、縁があったらまた会いましょう。気が向いたら、たまには願いを叶えてあげなくもないわよ?』


(そういえば、目標達成できなければ地上勤務だとか言っていたわね、あの女神……。本当に神界から左遷されちゃったんだ)


 呆れるエリの元へ、古文書を抱えたオーエンが息を切らせてやって来た。


「エリ、ナイトホーク殿! 女神ミリエルについて興味深い資料を見つけました。地上の戦いが絶えなかった古代、彼女は――『女神ミリシア』と呼ばれていたようなのです」

「ミリシア?」


 エリは眉をひそめた。その響きには、聞き覚えがあった。


「ミリシアって……たしか、民兵っていう意味よ」

「その通りです。ミリシアとは軍隊、軍事、あるいは軍務そのものを表す言葉。おそらく女神ミリシアは、かつて戦争や軍を司る苛烈な神だったのでしょう。それが平和な時代を経ていつの間にか、善良を意味する『ミリエル』という名に置き換えられていったようです」


 オーエンの解説を聞き、エリはふと思いついたことを口にした。


「……あいつのことだから、ミリタリーの『ミリ』と、神を表す接尾語の『エル』を勝手にくっつけて改名したのかもね」


 その突拍子もない、けれどいかにもあの女神らしい推測に、ナイトホークがふっと口角を上げた。


「……なるほど。あ奴が、あれほどまでに戦いというものに執着していた訳が、ようやく分かった気がするな」


 軍神から、善良なる女神へ。

 名を隠し、性格を変え、それでも戦いの場に現れ続けた女神は、今度は地上でどんな騒ぎを起こすのだろうか。


 遠ざかる魔界の気配と、新しく始まる平穏な日々。

 エリたちは、青く澄み渡った空をいつまでも眺めていた。


ここまで読んでいただいて本当にありがとうございました。続編は4月27日から投稿開始予定です。さらにパワーアップしたエリを見に来てください

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