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ベテランズレストの黒煙

 人生の黄昏時の安らぎを象徴するその町、ベテランズレスト。

 かつて戦場を駆けた猛者や、国を支えた賢者たちが余生を過ごす「隠居の地」として知られる平和な町だ。しかし、上空を駆けるナイトホークの背から見下ろした光景は、その静謐とは程遠い地獄絵図だった。


 町の中心にある広場。そこには、空間を無理やり抉じ開けたような、どす黒く禍々しい「穴」が口を開けていた。


「……ひどい有り様ね。平和な隠居生活を邪魔するなんて、無粋にもほどがあるわ」


 エリは、ナイトホークの背を叩きながら眼下の惨状を睨みつけた。穴からは、魔界の尖兵たちが次から次へと溢れ出し、広場を埋め尽くそうとしている。


「まずは魔人の足を止めましょう。穴の真ん中にナパーム弾を落とすわよ」


 エリの冷徹な判断に、ナイトホークが翼を震わせて応える。


「承知した。穴の真上の、できるだけ低空を低速で飛ぶ。狙いを外すなよ、エリ」

「ありがとう、ナイトホーク。頼りにしてるわ」

「ふん、投下したらすぐに離脱するからな。儂とて、自分の火炎ブレスならいざ知らず、お主の持ち込む妙な兵器で腹を炙られるのは御免だからな!」


 ナイトホークは巧みな翼捌きで高度を下げ、魔人たちが咆哮を上げる穴の直上へと滑り込んだ。

 風を切り、魔人たちの醜悪な顔が視認できるほどの低空。エリはタイミングを見計らい、円筒形の兵器――ナパーム弾を召喚し解き放った。


 刹那、穴の底で紅蓮の火柱が爆ぜた。


 ドォォォォォォン! という重低音が町に響き渡り、赤黒い炎のドームが魔人たちとその悲鳴を飲み込んでいく。粘着性の炎が穴の入り口を焼き尽くし、真っ黒な煙が天を突く。


「よし、直撃! 逃げ出した個体は町の守備隊に任せましょう。……あそこに騎士団長がいるわ。あの人の前に降りて」

「心得た!」


 ナイトホークは大きく旋回し、混乱の渦中にある騎士団の陣前へと、巨体に似合わぬ軽やかな着地を見せた。


 突然現れた巨竜と、その背から飛び降りた少女に、騎士団長は呆然と立ち尽くす。


「エリ殿ではないか……、どうしてここに」

「団長、挨拶は抜きよ。対魔人用の制圧用兵器をあなたに授けます。存分に活用して!」


 エリは手際よく、背負っていた武骨な筒状の武器を団長へと差し出した。


「これは『グレネードランチャー』。ガス弾の発射機よ。そしてこちらが予備のガス弾」

「こ、これは一体……?」

「中に魔人の行動を抑制する、ある種の毒ガスが詰まっているわ。これを使えば、残った魔人たちを無力化できる。……ただし、人間にも効果があるから、味方が吸い込まないように風向きには十分注意して」


 団長はその未知の兵器を、まるで神から授かった聖遺物であるかのように恭しく受け取った。


「有りがたき幸せ……! この御恩、必ずや!」

「感謝は後でいいわ。私たちはこのままでは埒が明かないから、根本的な原因――魔界との回廊を破壊しにいくわよ」


 エリは再びナイトホークの背に飛び乗った。

 煙の上がる広場の穴。そのさらに奥、空間の歪みが最も激しい場所へと視線を据える。


「行くわよ、ナイトホーク! 宴の邪魔者は、根こそぎお掃除しなきゃね!」


 翼が強く羽ばたき、エリを乗せた黒竜は再び戦火の空へと舞い上がった。


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