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女神ミリエル=エオニアの眷属として

 神殿の奥まった静寂の中で、エリは天を仰ぎ、心の中に直接語りかけた。


「……ミリエル、聞いてる?」


 不意に、鈴を転がすような澄んだ声が脳裏に響く。

『珍しいわね。あなたの方から私に話しかけてくるなんて』

「王宮に呼び出されたわ。今回の魔人討伐の件で、私に直接会いたいんですって」

『ふーん、行ってくればいいじゃない。もし無理難題を押し付けてくるようなら、魔法で王宮ごとぶっ飛ばしちゃえばいいのよ』

「……そんな乱暴なことできないわよ。私はもっとスマートに、あの王様たちを黙らせたいの」

 物騒な提案をさらりと口にする本物の女神に対し、エリはため息混じりに苦笑した。彼女にはこの国を守りたいという意思はあるが、不必要な争いは避けたいのが本音だ。


「そこで相談なんだけど。私のことを、あなたの『眷属けんぞく』だと名乗らせて欲しいの。いいかしら?」


『眷属? 私の部下ってこと? 別に構わないけれど……』


「ありがとう。女神の眷属に手を出すなんて、普通の人間ならあり得ないでしょう? もし無礼な真似をされたら、あなたの名前を出して『神罰が下るわよ』って脅せるし」


『ああ、なるほどね。私の名前を盾にするわけか。いいわ、存分に使いなさいな。もし本当に何かあったら、その時は遠慮なく私の力で裁きを与えてあげるから』


 本物の女神のお墨付きをもらい、エリは少しだけ肩の荷が下りるのを感じた。


 数日後、神殿の前に一台の豪奢な馬車が停まった。王家の紋章が刻まれたその馬車は、エリを迎えに来たものだ。


 今日の彼女は、いつもの動きやすい服装ではなく、白を基調とした厳かな神官の装束に身を包んでいる。鏡に映る自分の姿に気恥ずかしさを覚えながら、エリは緊張した面持ちで馬車に乗り込んだ。


「緊張されていますか、エリ」


 隣に腰を下ろしたのは、従者として付き添うオーエンだ。彼が側にいてくれることが、今のエリにとって何よりの支えだった。


「ええ……。粗相をしないか、そればかり心配で」


「大丈夫です。あなたは女神の眷属なのですから、堂々としていればいい。不測の事態には、私が命に代えてもお守りします」


 その時、馬車の外から低く響くような声が割り込んできた。

「……わしも同行しようか? 礼儀を忘れた人間どもに、真の恐怖を教えてやってもよいぞ」


 黒竜――ナイトホークが、その巨躯を揺らしてこちらを覗き込んでいる。心強い提案ではあったが、オーエンが首を振って制した。


「ナイトホーク、貴公は過剰戦力だ。王宮側が警戒しすぎて、話し合いどころではなくなる。今回はここで待機していてくれ。ただし……」 「ただし?」 「万が一、エリに危険が及んだ場合は、遠慮なく乗り込んできてくれ。我々の合図を待たずにな」


「心得た。我があるじに指一本触れさせはせん。……エリよ、気をつけて行くがよい」


「ありがとう、ナイトホーク。行ってくるわね」


 馬車がゆっくりと動き出す。 窓の外に広がる王都の景色を眺めながら、エリは「女神の眷属」としての仮面を深く被り直した。これから始まるのは、武力ではなく言葉と威信を武器にした、もう一つの戦いだ。


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