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対人恐怖症のメンダーと辺境の騎士   作者: Moonshine
第五章:孤独

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ドルマが休職してからも第6要塞はいつもと変わらない日々だった。


今日も訓練場では、いつもどおりの変わらぬ騎士の訓練が行われている。

それはぱっと見、何も変わらない、いつもの普通の風景だ。

だが、騎士達は、第6に広がる微妙な()()を感じはじめていた。


それは打ち合いの訓練中の出来事だった。


「おい、大丈夫か? 悪かった、まさか入ると思わなかったんだ」

「いててて・・だ、大丈夫だ、だけど、おかしいな、なあ最近なんか・・俺達調子悪くないか?」


打ち合いの訓練中に、相手との間合いがあわずに、額をしたたかに模造剣で一本打ち込められたのだ。

赤く腫れた額をさすって、騎士の一人が言った。


「ああ、それは俺も感じてた。なんか運が悪いというか、間合いが良くないというか、調子が悪いというか。うまく言えないんだけど」


相手の騎士が答えた。


「さっきの攻撃だって、いつもなら寸前で躱せていたものだ。でも、最近こういうギリギリのはきちんと食らうようになったんだ」


 他の騎士達も会話に加わった。


「魔獣を叩き切るのに、いけるかいけないか、可能性がギリギリの場所では今までは大体成功していたのに、今ではだいたい失敗するようになったような気がする」

「遠征の出発前も、忘れ物がある時は今まではなんとなく違和感があってすぐに気がついたのに、もう気がつく事がなくなった」

「細かい怪我も増えたよな。最近になって包帯を追加注文したんだ。一年ぶりの注文だったから、会計部がおどろいてたよ」


小さな幸運が続いていた第6から、まるで幸運がするりと逃げていったかの様子なのだ。


「まるでツキが消えたみたいだ」


だれかがポツリと、そうこぼした。


また、ある日の騎馬での遠征での出来事だ。


ヒヒヒヒーン!!

「うわ、危ない!!」

ドン!!!


馬のいななきと、何かが落下する大きな音がした。

部隊を引率していたダンダップが驚いて後ろを振り向くと、騎士の一人が馬から振り落とされていた。

騎馬部隊で森で渡っていた所に、急に現れたウサギに驚いた馬が、びっくりして立ち上がってしまったのだ。


「うああああ! いてえ!!」

「おい、大丈夫か、しっかりしろ、・・なんてこった、足が折れている」


ダンダップが急いで放り出された騎士に近づくと、足があさっての方向にむかて、グニャリと折れていた。

森での訓練中は時々ある珍しくない事故だが、ここ最近の第6では随分とめずらしい事故だ。

そして足の骨折は、この第6でここ一年発生した怪我で、一番重い怪我の一つだ。

これまでであれば、たとえ騎士が落馬しても、()()()()やわらかい藁の山に落ちたり、地面がふかふかのクローバーの絨毯だったりして、怪我にならなかったのだ。


大慌てで仲間の介抱に忙しい己の部下たちを見ながら、ダンダップの背中には、冷たい汗が伝っていた。

(まるで・・第6にかかっていた魔法が解けたようだ・・)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(今日も・・ない)


毎日山のようにマティアスの執務室に届く様々な郵便物を確かめながら、マティアスが探していたのは、何の変哲もない白い封筒と便箋だった。


ドルマが体調を壊して、急に休職してから、毎日マティアスはドルマの寮に宛てて手紙を書いている。

だが一度も返事が来たことはない。

寮長によると、配達の食事にはほとんど手がつけられておらず、誰が訪ねていっても、息を潜めてじっと暗い部屋にいるだけで、だれの呼びかけにも応えないのだそうだ。


「あの娘は誰にも会いたがらないし、誰とも話さないし、奇妙な噂があるのは知っていますよ。それでもあの娘は本当に優しい子なんですよ。

 休みの日だってずっと部屋にこもりっきりで出身の孤児院の繕い物をしてますし、少ないお給料のほとんどそこに送っています。

 メイドの繕いものだってあの娘の仕事ではないんです。でも、誰かの役に立てたら嬉しいと、いつも喜んで引き受けてくれるような本当にいい子なんですよ。

 一度いつものお礼に、お祭りの日にあの子にも楽しんでほしくて、キャンディを繕いのバスケットに入れてやった事があるんです。そしたら次の日にはきちんとお礼の手紙が入っていて」


自分の娘とさして変わらない年齢だというドルマを心配して、マティアスが事情を聞きに言ったメイド長はほとんど泣き出しそうだった。


「奇妙な噂・・メイド長もやはり聞いているのか」


「ええ、マティアス様。あの娘がメンダーかもしれないという噂は聞いています。 

でも、だからと言ってあの娘が何をしたというのです? いつも皆に親切にしてくれて、息を殺して生きているだけではありませんか。あの娘が繕った服を着ると、何か少し上手くゆく評判だったではないですか」


まただ。どの人間も、ドルマがメンダーかもしれないと怯え、メンダーかもしれないと、一縷の希望をもって彼女の扉を叩く。マティアスはたまりかねて口を開いた。


「メイド長。教えてくれ。メンダーとは一体なんだ」



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