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対人恐怖症のメンダーと辺境の騎士   作者: Moonshine
第4章:遠雷

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17/27


制服管理室は、別館の3階の奥にあり、その階は倉庫として使われている階と言う事もあって人の行き来は滅多にない。

時折在庫のチェックに入る役人と、在庫を取りにくるメイド、そして繕い物を置いて行ったり取りに来たりする騎士以外の出入りは人通りはなく、普段はとても静かな場所だ。


今日はそんな静かな廊下を歩く大きな男の影があった。カイルだ。


(それにしてもすごく静かな場所だな。こんな静かな場所で、若い娘が一人っきりで繕いをして日がな過ごしているなんて)


第6で唯一繕われた制服を纏っていなかったカイルは、その後散々皆に勧められてドルマに一着繕ってもらったのだ。

それ以来、もうドルマの繕いをしてもらう前のシャツに戻れなくなってしまった。

もとより騎士と言う生き物は、ゲン担ぎを好むものである。

それがカイルほどの手練れの騎士になると、よりその傾向が強くなる。戦闘中の細かな風向きの変化、流れ。全てに置いて、ドルマの繕いのある制服をきている時は、今まで感じなかったほどに感触が良いのだ。


(そろそろ繕いできてるかな。本当に俺もマティアスじゃないが、もう繕いのない制服で戦闘になんかいく気がしない。むしろ今までよくぞドルマちゃんの繕いのない、裸のような状態で戦っていたものだ)


カイルがドルマの制服管理課まで、繕いを依頼していた自分のシャツをとりにいくと、静かな人気のない廊下に、見知った第六の騎士の顔があった。

騎士は扉の前で拝むような仕草をして、そっと見慣れぬ何かをバスケットに入れていた。


「おい」

「うわああ!!!」


カイルが後ろか声をかけると、騎士は驚いて飛び上がった。

騎士は振り返って、声の主がカイルであることを知ると、明らかにホッとした顔になって言った。


「な、なんだカイル様か、ああびっくりした、脅かさないでくださいよ」

「別に何も脅かしてないよ、何だそれ? 子供の寝巻きか? おい、ドルマちゃんは騎士団の繕い係だと知っているだろう、自分の家の繕いをさせるのは誉められた事ではないな」


不審そうなカイルの声に、気まずい所を見られてしまった、と騎士は頭を掻いた。

バスケットに入っていたのは、騎士団とはなんの関係もなさそう子供の寝巻きだったのだ。


ドルマの仕事は要塞の騎士団の制服の繕い係であって、何でも繕い屋ではない。

自分の子供の寝巻きなど繕い物をドルマに繕わせるのは、明らかに越権行為だ。


「いや、カイル様。ドルマちゃんの仕事でないのは知っていますけれど、おっ母に泣いて頼まれて断れなくて・・見逃してくださいよ、この寝巻きだけだって約束しますから」


この男は気のよい男だし、ドルマに自分の家の小間使いをさせるようなタイプではない。それに小さな寝間着は丁寧に畳まれていて、ドルマ宛にお菓子と手紙まで添えられている。カイルは話しを聞く気持ちになった。


「何か事情があるのか?」


「ええ。これはうちの子の寝巻きではないんです。うちの子はもう成人してますからね。うちの隣の家に、まだ小さい病気の子供が住んでいましてね。その子のものなんです」


 謎掛けのような答えに、カイルは困惑した。


「詳しく説明してくれないか、ちょっと話が見えてこない」


「はい。その病気の子供は気の毒に、もう命のろうそくが燃え尽きる所でしてね。ここの所意識も朦朧として、母親の呼びかけにも反応しないんです。

この前ついにもう医者にも匙を投げられて、残った時間は後ひと月だと宣告されたそうです。

 母親は毎日毎日泣いていてね。うちのおっ母は酷く胸を痛めて、どんな小さなことでも力になってやりたいって、そう俺に泣くんですよ。

 それで、おっ母は俺の所属している騎士団の制服管理室の噂を思い出して、どうにか俺に、この子の寝巻きを繕ってくれるようにお願いしてくれないか、って。そう言うんです」


「そうか・・気の毒な話だな」


 事情を聞くと、確かに業務外の依頼ではあるが、同情できる話だ。せめて隣人の気休めに何かしてやりたいというこの男の妻の気持ちも、そんな妻の気持ちを尊重したいというこの騎士の気持ちも痛いほどよくわかる。


「もしもドルマちゃんが親切で繕ってくれたら良いけれど、断られたら無理にお願いするなよ、それから業務外の依頼はこれっきりと約束してくれ。あの娘の繕いが今どんどん評判になって、見てみろ、このバスケットの中の制服の山」


ドルマの「仕上がり」のバスケットの中には、継ぎのあたった騎士の制服が所狭しと丁寧に積まれてあり、その隣にはメイド達の制服や、厨房のエプロンまである。優しいドルマが親切で引き受けているのだろう。


「うへえ、すごい量だ。・・あの娘の親切心を利用するようで、本当に悪いなとは思っているんです、これっきりにします。引き受けてくれたらいいんですけどね。それで少しでもあのかわいそうな子供の母親の気が休まるなら、本当に」


そしてズビッと鼻を啜った。


「さあ、俺は何も見なかったから、早く訓練に戻れ。今日はお前が訓練所の整備の当番だろう」

「ああ、いけね、忘れてた」



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