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願いが叶うかもの日

 私が首都に戻った一週間後、ミゼットから王城行きの連絡を貰った。

 結局はダニエルの伝手を頼ることになったが、私がダニエルに頼んだのではなくミゼットがダニエルに頼んだので、私の罪悪感は少しだけ軽かった。


 だが、家族に対する私の罪悪感は重くなるばかりだった。


 王城の、それも、病弱なアシュリー殿下の話し相手に抜擢された、その名誉に泥を塗ってはならないと、両親が有頂天になりながら大騒ぎをしているのだ。

 嬉々として訪問用ドレスのデザイン帳を吟味する母と、殿下への贈り物を何にするかと商会中を駆け回る父。


 死体の首探しに行くのが目的なんて、一生言えない雰囲気である。


 そして、ミゼットの知らせから彼女が指定した二週間後、私は侯爵家の日常使いでない豪勢な馬車の中にいた。

 ダニエルが普段使っていた馬車も豪勢だが、王城に向かう時に使用するさらに豪勢な馬車があるなんて知らなかった。

 白塗りにところどころ金銀の飾りがついている、絵本の中の王子様が使うような、派手で恥ずかしいぐらいに目立つ馬車であった。


 白い巻き毛のカツラを被ったお仕着せが、馬車の後部に立っているのよ!


 お姫様が舞踏会に乗って行くだろう、派手派手しい事この上ないものに乗って王城に向かう事になるなんて。

 私は死体の首探しが目的なのに。


「久しぶりに君に会えて嬉しいよ。それで今日は張り切ってしまった。」


 私の王城行きの相談を父にしに、三日前にも我が家に来ていなかったかしら?

 そう思い出しながらも、私の口は勝手にダニエルに答えていた。


「まあ嬉しいわ。」


 そして、ダニエルを見つめているうちに、私は彼と一生分かり合えないとダニエルの服装から確信もしてしまった。


 親戚の少女にお見舞いに行くお兄さんの格好ではなく、一族の長に結婚の報告に行く青年、そんな風にしか思えない正式なお召し物でいらっしゃるのだ。


 いいえ、これから結婚式をしてもおかしくはない格好だわ。

 同じ馬車に乗っている私とミゼットの訪問用ドレスが霞むぐらい、なんてあなたは華々しいお姿をしているの?


「クーデリカ嬢。先日渡してくださりました手紙、その差出人は、本当にそのような事をおっしゃっていたので?荒野でも自分は大丈夫だと?」


 ダニエルの華美と反対にいつでも戦闘できる恰好をしている人が、珍しく言い辛そうに口を開いた。

 私はヘザーがどんな手紙を書いたのかと思い返しながら、思いっ切り首を上下して肯定を知らせる頷きをソーンに知らせた。


「参ったな。」


「どうしたんだ?ソーン?」


「いいえ、なんでもありません。」


「わが校の生徒に手を出して、結婚を迫られて慌てているだけの話よ。」


 私は何でも知っているミゼットを驚きを込めて見返したが、彼女はくすくす笑いながら、ジョックよ、と私に種明かしをした。


「あの子は生徒達のよき相談相手になっているわ。本当は秘密話はあの子の胸に秘めるべきでしょうけれど、私に相談した方が良い事は教えてくれるの。学園から抜け出して駆け落ちに行きそうな生徒の情報は、特にね。」


 ソーンが咽始め、ダニエルは珍しく親友を見下げ果てた目で見下した。


「何をやっているんだ。」


「いえ。俺は何もしていませんよ。学園内にいるところを見咎められ、二度三度会話しただけです。こ、恋、をちらつかせるような会話など一つも!」


「でも、文通はなさっていたんですよね。」


 私は思わず口を挟んでしまった。

 何となくだが、私はあの日のヘザーに恩義を感じている。

 すると、ソーンは頬をしっかりと赤らめて、なおかつ私に言い返して来たのだ。


「せ、セリーナの事を教えてくれると彼女が、い、一方的に、です。」


 ソーンは今や痩せすぎな外見をしていない。

 しかし痩せすぎのガイコツみたいな顔立ちの時だって、ソーンはとってもハンサムな人でもあったのだ。

 そんな人と秘密の文通を繰り返していたのならば、女の子はソーンに恋に落ちてしまうのでは無いのかしら?


「若い女の子は男を見る目が無いものですから、このまま煽らないでくださいね。ヘタに拒絶なんかは絶対にしてはいけませんよ。女の子は傷ついた時にこそ思い切った行動をしてしまいます。」


「ハハハ。あなたこそ経験ありのようですね。男爵。」


「私もそれなりな年ですから、恋の一つや二つは経験していてよ、侯爵。」


「ですが、男を見る目が無いってひどいですよ。男爵。男の目からすればソーンは良い男だと思いますから。」


「まあ!あなたこそ夢見がちですものね。恋は叶ってお終いでは無いのですのよ。寄り添って欲しい時にいない男、信念を貫く事ばかりで回りを顧みない男、それでは振り回されるだけで辛いだけでしょう。いいえ、辛いからこそ恋心をさらに駆り立てられてしまうのかしら。大人になれば辛いとわかった恋から逃げてしまいますけれど、恋を知ったばかりの人は無鉄砲ですものね。」


「ああ。私も恋する人を攫ってしまいたい衝動に時々かられますから、会えなくて辛い気持は誰よりもわかります。無鉄砲になる気持ちも。」


「も、申し訳ありません。あなたの学園で好き勝手に振舞った事をお許しください。はい、善処いたしますから!これ以上は!」


 ソーンはダニエルとミゼットのやり取りに割って入り、それどころか自分の行動を決して変えない人なのに、謝った上に自分を見直すなんて言っている。

 私は尊敬した眼差しでミゼットを見つめたが、ミゼットはダニエルと意味ありそうな視線を交わしていた所だった。

 ダニエルは声に出さずにミゼットにありがとうと呟くと、自分の隣に座る親友の肩を軽く叩いた。


「それじゃあ、もうしばらくは我が家に滞在するしかないな。」


「そうですね。あなたの差し出してくれた職、あなたやあなたの持ち物について警備警護する主任の仕事をこのまま続けるか考えてみます。」


「そうしてくれ。君が軍に戻ってしまうのは、私が辛いからな。」


 私は再びミゼットを見つめ返した。

 素晴らしい人だと尊敬しながら。

 彼女は華々しい笑顔を私に向けると、開戦よ、と嬉しそうに言い放った。


「さあ、着いた。あなたの研究の成果を手にできるといいわね。」


「はい。絶対に手に入れるつもりですわ。」


 私は馬車の窓から聳え立つ王城を見上げた。

 少女の誰もが夢見るお城の中のどこかに、私の幸せが埋まっている。

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