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魔女と呼ばれて

 モーリーンの葬式は学園の誰にも知らせることなく、彼女の死から三日後に執り行われた。

 ソーンが調べた事によれば、モーリーンが私に語った事は全て真実で、二十七歳である彼女は十年前の十七歳の時に家族を全員亡くしていた。

 そして、短くて一年、長い時には四年と、七つの寄宿舎を転々と渡り歩いていた経歴が彼女の財産管理の書類から確認された。


 彼女が語った秘密。

 十代の若さを保つためには、親友となった少女を殺して心臓を食べる。


 それも真実であるならば、彼女が滞在した最初と誰も殺せなかった今回の学園を抜いても、五人の少女の命を奪っていることになる。

 いえ、十代の姿を保てなくなったと彼女が気が付いた頃からでしょうから、被害者はもっと少ないかしら?


「女王蜂でも狩人蜂の方だったとは。」


 自分で調べた結果にソーンは妹の復讐を忘れるぐらいに頭を抱え、ダニエルは親友を慰める事よりも機械的に事態の処理をする事を選んだ。

 つまり、聖バンシショレイト女子学院では何も起こってはおらず、モーリーン・ハーパーは家の都合によって自宅に戻った、そうなるようにダニエルが彼女の埋葬から財産処理から全てを担当したのである。


 私は勿論、彼女の親友として葬儀に参列した。

 彼女が殺して来た少女達には申し訳が無いが、私はどうしてもモーリーンを憎むことも人殺しと見下げる事も出来ないのだ。


 ただただ、初めてできた友人の死が悲しいだけである。


 そして、女王蜂が消えたということで、カイルは首都の自宅に戻った。

 いえ、とうとう私達の両親がカイルを自宅に連れ帰ったが正しい。

 その結果として、カイルが扮したジェニファーと、私に唯一仲良くしてくれたモーリーンが一時に学園から消えてしまったということになった。


 それなのに、私はまだ学園に残っている。

 そこで学園では、私が魔女だと囁かれるようになった。


 プルーデンス・クーデリカに近づくな。

 近づけば彼女によって存在を消される。


 私は完全にいないものとして遠巻きにされ、しかしながら一挙手一投足を監視され、彼女達の気に障るか何かでくすくす笑われるという状況である。


 辛いならば学校を退学すればいいだけだ。

 でも、私はここにいる。

 それはなぜかと聞かれれば、私にも答えられない。


「では俺が答えてやる。自分に罰を与えるのは止めるんだ。君がここにいなければモーリーンは生きていただろう。その場合、ケイトが彼女に喰われていた。」


「やっぱり、あなたは全部見ていたのね。」


「俺には女を断罪できない。ミゼットやソーンにヒントを与えるぐらいしか出来なかった。そして君には真実こそ隠したかった。そのせいで君はモーリーンに傾倒し、今はこんなに傷ついている。」


 私は私の笑顔が好きだと言ったデュラハンの言葉を思い出した。

 彼は私を笑わせていたかった?

 ええ、私はモーリーンと一緒に笑えて楽しかったわ。


「お話してもいいかしら。」


 私は自分に掛けられた言葉に驚き、その声を掛けてくれた人を見上げた。

 図書館の隅で本を開いていただけの私の前に、厚みのある本を抱えたヘザー・グレイが立っていた。


 ガラス窓から入る陽光で、ヘザーのアッシュブロンドの髪はキラキラと輝き、カツラを被ってティナに扮していたあの日のケイトの姿を思い出させた。

 だが、ヘザーの瞳は、ケイトの菫色とは違う金色や緑に輝くヘイゼルだった。


「クーデリカ様?」


「え、ええ。よろしくてよ。グレイ様が話しかけて下さったことに驚いてしまって。いえ、こんな言い方は失礼ですわね。」


「いいえ。あなたの状況を考えますと、それが普通の反応だと思いますわよ。」


 ヘザーは私の向かいに腰を下ろし、私と同じように読む気は無いのに本の適当なページを開いた。


「あら、まあ。適当に選んだ本を失敗してしまいましたわ。」


 ヘザーはクスクス笑いながら、開いたページにあった小さな封筒、それを取り上げると私に手渡した。

 私は訝しく思いながらその小さな封筒、薄ピンク色をしたものを受け取った。


「あの。」


「中はご覧にならないで。でも、その宛先に届けて下さらないかしら?それを書いた人はきっと悲しく思っているわ。置き去りにされた自分の境遇にね。」


「ええと。」


「ああ、そうだ。エリカはどんな荒野(ヒース)にも根を張る花だってご存じ?その宛先の方にも教えてさし上げてね。」


 ヘザーは言うだけ言って立ち上がり、彼女が持って来た本も置いたまま私の前から立ち去ってしまった。

 私は何だったんだろうと思いながら封筒を見返した。


「あ。」


 封筒の宛先はソーンだった。

 そして、差出人は、ええと、Hとサインしてある。


「ヘザーは情報通です。」


 弟の言葉が思い出された。

 弟がヘザーに纏わりついていたのは、どうして?


 ついでに、荒野(ヒース)に生える花としてエリカはヒースと呼ばれ、ヘザーの花だって荒野(ヒース)に生える花の為、同じ花(ヒース)と思われていることも思い出した。


 彼女が言ったエリカをヘザーに直すと?


「あら、まあ!ええ。何が書かれているかわかりませんけれど、ぜったいにソーンに渡しますわ。」


 学園の情報を手に入れるためにソーンがヘザーを誘惑していたのならば、消えてお終いなんて絶対にさせてならないもの。

 私はヘザーが残した本を引き寄せて、自分の本に重ねた。

 それから席を立ちあがった。


「本を棚に戻したら私は学校を出て行きましょう。私だって荒野にだって咲ける花ですわ。でも、花の命は短いの。愛する人を手にれるために動いて行かなきゃ。」


 私の後ろで軽やかな男性の笑い声が弾けた。

 私はそれだけで幸福感に包まれたが、ここで満足してはいけないと思い直した。


 私の目的であり、一番の夢。

 デュラハンの首を手に入れて、彼からキスを奪う事よ。


 十数分後、学長室で退学を告げる私に対し、ミゼットは簡単に受け入れた。

 そして、私の方に書類束を差し出した。


「先生?これは?」


「カイルが寄宿舎のお姉さまが可哀想だって嘆いていました。男装してまで学校に通っていたお姉さまにはこの学校のお勉強は易しすぎですって。ですから、私はカイルの望みを叶えてみました。」


「はい?」


「試験的に今度開校される女学校よ。平民の女子にも高度な教育を授けるための講師を養成する学校。いかがかしら?」


 私は書類束を受け取り、だが、ミゼットに真実は告げた。


「私は首なし騎士様以外は興味が無いんですの。でも、女の子が男装しなくても学校に通える世界になるお手伝いはしたいですわ。」


「ええ。私が発案者ですから、あなたのお手伝いは願ったりよ。男の子だけじゃなく、女の子も素晴らしき悪魔に育てましょうね。」


 私はミゼットにも魔女だと思われているようだ。

 また、戦友とも。


「あなたが前に進むのならば、私達は以前に話し合った計画を実行に移しましょう。決行日はあなたが首都に戻られてからお伝えします。」


「ありがとうございます。」

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