表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/26

深まる謎!!桜小路みやびの誓い!!01

 ポスター作製を終えた士郎は、さっそく猛と手分けをして校内に貼りに出ることにした。

 貼るなら目立つところがいいねと生徒会長から助言があったので、人の目につきやすい場所を捜索中である。


 やはり教室前の柱か、窓がいいだろうか?

 どうせ作ったのだから、たくさんの人の目に触れさせたい。

 下駄箱前の掲示板にも貼ってもいいとお許しが出ているので、そこには一番の力作を設置するつもりだった。


(……中庭に面した窓には、このポスターがいいかな?)


 士郎作ポスターと学園で一等綺麗な景色が覗ける窓を見比べ、あれこれと悩み続ける。


 しばらくして少々いびつな猫が玉転がししているものを選んで柱に貼り、士郎は満足した。

 次は体育館側へ回ってみようか……そう考え踵を返したとき、中庭から応援歌が聞こえて立ち止まる。


(あれは応援団かな……?)


 休み時間は生徒たちの憩いの場となっている中庭。その片隅に、体育着を着込んで整列している生徒たちがいた。


 張り裂けんばかりの声で応援歌を歌う彼らの指揮をとっているのは、今年の紅組応援団長。

 彼の隣で、一際背が高い生徒が一致団結と太い字で書かれた応援旗を持って立っている。


 一際背が高いと言うか、恐らく2メートル弱はありそうな身長と強靭な体躯のその人物に、士郎は目を瞬かせた。


(……いや、あれって桜小路さんだよな。どっからどうみても)


 すっかり見慣れた栗色のボブカットとはち切れんばかりの筋肉を、誰が見間違おうか。

 月城学園では応援団の中で一番体力のあるものが旗を振ることとなっているのだが、どうやら彼女が今年はその役を賜ったらしい。


 ───桜小路さん、応援団に入ったのか、似合うなあ。

 ───それに桜小路さんが持つと旗も小さく見えるなあ。

 ───僕は白組だけど、今年は負けるかもなあ。


 などなど様々な考えを巡らせながら再び歩き始めると、ふと廊下の向こうに誰かが立っていることに気が付いた。


 艶やかにウエーブのかかった黒髪、切れ長でつり上がっている目も涼し気な美少女……彼女のことも、決して士郎が見間違うはずがない。

 愛しの婚約者の姿に士郎はさっと髪の毛を整え、胸をときめかせながら歩み寄った。


「百合香!」

「え?あ、ああ、士郎様。ごきげんよう」


 歩み寄る士郎に気が付いた百合香は、今しがた夢から現に帰ってきたかのようにはっとこちらを見た。


 「どうしたの?」と問いかけると、彼女は少し眉をたれ下げ、口元に手を当て取り繕うように笑う。

 しかしその頬は僅かに朱に染まっていた。


 この場所にも中庭を覗ける窓があり、先ほどまで彼女が何を見ていたのかを如実に語っている。

 心の中にどんよりした雨雲がかかった気がしたが、表面上は微笑んで百合香の隣に並んで外を見た。


「応援団か。今年も気合が入っているね」

「ええ、そうですね。皆さん、気合の入れ方が違いますわ」


 彼女の隣に立ってわかったのは、この位置からは桜小路みやびがよく見えると言うことだった。

 予想はしていたがやはりショックは大きい。それでも士郎は彼女と会話を続けようと頑張った。


「桜小路さん、応援旗振るんだね。目立つしかっこいいな」

「え、ええ。本当に。……本当に、はぁ、素敵な三角筋と上腕二頭筋……」


 三角筋と上腕二頭筋?

 洗練された彼女が口にするには少々汗臭い単語だった気がして、士郎はぎょっと目を見張る。


 しかしうっとりと頬に手をあてる百合香は、己の驚愕に気が付かぬようだった。

 束の間言葉を失ったが、何とか取り繕って話し続ける。


「た、確かにすごい筋肉だ。桜小路さんはすごく鍛えているよね。流石拳法の継承者」

「ええ、素敵……。あ、そう言えば士郎様は昨日桜小路さんが戦ったのをご覧になったとか?」


 輝く彼女の瞳がくるりとこちらを振り返り、心臓が高鳴った。が、冷静さを保ち「ああ」と頷く。


「前に言っていた闇乃木流が桜小路さんを狙ってきたんだ。それに猛たちとちょっと巻き込まれてね」

「まあ。士郎様も皆さんも、お怪我はありませんでしたの?」


 心配してもらえた。嬉しい。

 それをおくびにも出さず、優しく紳士な鷹司士郎を演じて「平気だよ」と答えた。


「桜小路さんが戦ってくれたからね。凄く迫力があったよ」

「まあ、やっぱり素敵……、桜小路さん……。わたくしもあの方の戦いを一目見てみたかったわ」


 しまった、敵に塩を送ってしまっただろうか?

 再び頬を染め、恍惚の視線を中庭に送る百合香を目の当たりにし、士郎の心には雨が降る。


 ───こんな表情僕といるときは見せたことがないなあ。

 そう心の中で呟いたと同時に、聞こえるか聞こえないかの声で百合香が何事か呟いた。


「はぁ、凄い。なんて素敵なハムストリング……」


 ハムストリングとは?

 耳馴染みのない単語に士郎が首を傾げた瞬間、中庭から「ありがとうございました!」と一際大きな声が響く。


 どうやら応援団の練習が終了したらしい。

 団長に深々と礼をした生徒たちは、汗をぬぐいばらばらと別方向へと移動していった。


 旗を担いだ桜小路みやびも帰還するべく踵を返しかけ……ふとこちらに視線を寄せて、目を瞬かせる。


 どうやら士郎と百合香に気づいたらしい。

 手を振ると、肩に応援旗を担いだまま筋肉を揺らし窓へと駆け寄ってきた。


「鷹司先輩、速水先輩。お疲れ様です」

「桜小路さんもお疲れ様。応援団に入ったんだね」

「ええ、赤軍団長にどうしてもと頼まれまして。応援団位なら力を見せずとも良いかと」


 窓越しに見えても見上げるほど大きい彼女は、汗一つかいていない。

 他の応援団は皆一様に疲れた表情をしていたのに、やはりみやびの体力は拳法家のそれなのだろう。


 素直に感心する士郎の隣で、百合香は先ほどまでの恍惚とした表情を隠し微笑んでいた。

 そして淑女らしく優雅に小首を傾げ、「頑張ってくださいね」とみやびを激励する。


「応援旗を振るお姿、とても素敵ですわ。桜小路さんの応援、楽しみにしておりますわね」

「ありがとうございます。不束者ながら、精いっぱい務めさせて頂きます」


 粛々と賛辞を受け取り、みやびは百合香に一礼する。

 まるで姫君に忠義を誓う武士の如き場面だが、ふいにみやびの首元を見た百合香が目を輝かせた気がした。


 え?と思い婚約者の横顔を見つめると、その桜色の唇が震えるように動く。


「ああ、なんて、麗しい僧帽筋なの……」


 感極まったとも思える微かな声は、確かに百合香のもの。

 そうぼうきん?とやはり聞き覚えのない単語に、士郎が一瞬首を傾げた時だった。


 ───ふと雷に打たれたように、頭の中に衝撃が走る。


(そうだ、ハムストリングは筋肉の名称!太ももの筋肉のことだ!!)


 士郎は視線を窓の外に立つみやびへと転じる。

 体育着の彼女はハーフパンツを着用していた。が、やはりぴっちりとしているので、太ももの筋肉の形がはっきりとわかる。


 先ほど百合香はこれを見てうっとりしていたのか。

 そして次いで呟いた僧帽筋ももちろん筋肉の名称。首を囲む筋肉のことだ。


(筋肉!?君は筋肉が好きなのか百合香!!!)


 ばっと百合香を見、そしてみやびの筋肉を交互に見つめる。

 士郎の予想通り、愛しの婚約者の目線は真っ直ぐ……大胸筋に向かっていた。


 どれほど研がれた剣だとて貫けないだろう厚くたくましい大胸筋……それをみて百合香は頬を染めている。

 まるで恋をする乙女のようだ。それを見て士郎は愕然とする。


(筋肉……やはり僕には無いものだ……)


 桜小路みやびの筋肉に比べれば、己のなんとひ弱で情けないことだろう。

 こんな枯れ木のような腕では百合香を守れない、支えられない。


 彼女にうっとりとした眼差しを向けて貰えることも、一生無い。


 生まれて初めて抱く類の劣等感に、士郎はうつむき拳を握る。

 ───ヒロインに嫉妬する悪役令嬢はもしかしたらこんな気持ちだったのでは、と心の隅で思った。


「鷹司先輩?どうかなさったのですか?」


 黙り込んでしまった己に、みやびが声をかけ心配そうに顔を覗きこむ。

 隣で百合香もどうしたのかしら?と言った様子でこちらを見つめていた。


 視線だけで彼女らの様子を見、士郎は小さくため息をつく。

 自分の不甲斐なさに涙が出そうだ。

 だがしかし、それでも士郎は顔を上げる。


「桜小路さん」


 真っ直ぐに、挑むようにみやびを見つめた。

 彼女の鋭い目は士郎の眼差しを真正面から受け止め、言葉を待っている。


「もし良かったら……僕を、僕の筋肉を鍛えてくれないだろうか?」


 士郎にないものに愛しい人が憧れるなら、作るまで。

 今まで読んだ転生ヒロインや悪役令嬢だってそうしていたじゃないか。


 その意気込みで伝えれば、普段は隙の無いみやびが虚を突かれたように目を瞬かせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ