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熱き思い!!友情の猛と士郎!!03

 連絡からすぐに駆け付けた警察に、闇乃木四天王、魔拳の東海林は逮捕、病院に運ばれた。

 事情聴取に応じた際、士郎は「不審者に襲われました」でごり押した。


 何一つ嘘は言っていない。

 警察官はいつまでも首を傾げていたが、それ以上士郎自身どう言っていいかわからなかったのだ。


 以前みやびが急襲されたとき教師陣には説明はしていたので、彼らには一応は納得されたらしい。

 が、皆何だか青い顔をしており、「あれ本当だったのか……」と誰かがぽつりと呟いていたのが印象的であった。


 これから桜小路みやびを、一教師として闇乃木流から守らなければならない彼らの気苦労はいかばかりか。

 でも先生たちが怪我をするのは嫌なので、どうぞ出来る範囲でよろしくお願いしたい。


 彼らの苦労を他人事のように考えながら、士郎は月城学園生徒会室で一人、学校行事のポスターを制作している。

 5月半ばに予定されている体育祭のものだ。この時期は学園全体が、その準備や練習に忙しいのである。


 今もどこかで応援団の声援練習が行われており、遠くから快活な声が聞こえていた。

 テンポのいい応援歌を心の中でともに歌っていると、歌声に混じりこちらに近づく足音が聞こえてくる。


 ふと手を止めて視線を転じたと同時に、扉ががらりと開いた。


「士郎様!お疲れ様です!!お手伝いに参りました!!!」


 恐らく応援団よりも大きなその声の主は、やはり日比野猛であった。

 空気が振動するほどの大声をたしなめようと思ったが、今は自分と彼以外にいない。


 まあいいか、と考えつつ、士郎は猛に「おつかれ」と声をかけた。


「じゃあもう一枚ポスターの作製をお願いしたいけど……猛、もう体は大丈夫なのか?」


 四天王東海林襲撃からまだ一日しか経っていない。

 外傷は無かったとはいえ闇の怪物と変化していた猛は、精神面にも疲労があるだろうと思った。


 しかし今日元気に登校していたことが意外で、もう少し休んでいてもいいのにと士郎は思う。

 案じる己に猛は気恥ずかしそうに笑い、向かい側の椅子に腰かける。


「はい、桜小路から治療は受けましたが、日常生活を送っても問題ないそうです。ご心配をおかけしました」


 ぺこりと頭を下げる彼は、想像よりもすっきりした顔をしていた。

 まだ少し不安は残ってる。

 しかしとりあえず大丈夫ならよかったと胸を撫でおろし、「それじゃあこっちを頼もうかな」と笑った。


 後輩にポスターカラーと画用紙を渡し、二人でポスター作製に勤しむことしばらく。

 にわかに猛が「士郎様」と名を呼んだ。


 珍しく静かに落ち着いた声を発した彼に視線を転じると、真摯で真っ直ぐな目がこちらを見ていたことに気が付いた。


「重ね重ねこの度は、本当に士郎様にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。何もかも俺の失態です」


 そして机に手をつき、深々と頭を下げる。

 改めて謝られて……いや、そう言えば謝罪云々はうやむやになっていたかもしれない……と考え直した。

 生真面目な猛のことだから、きちんと詫びをしなければと考えてそのタイミングを伺っていたのだろう。


 そういうところが好ましいのだと、士郎は微笑んで首を横に振る。 


「いや、僕は別に迷惑はかけられていないよ。それに今回の件は僕にも責任が……」

「いいえ、謝らないでください。俺の暴走ですから」


 きっぱり言う猛に、士郎は口を開きかけて……やめる。

 恐らくここで言い合っても謝罪の堂々巡りになるだけだ。


 それでも彼に何か言いたくて考え、心の中で言葉を整理しながら、改めて彼の目を見つめる。


「なあ、猛。お前はあの時自分が決めたこと、と言ったけれど、やっぱり僕はお前の将来の道を狭めてるんじゃないかって気になるんだ」

「……!士郎様、それはっ!」

「うん。色々考えて猛が決めたことは僕も尊重したいし、するべきだと思う。でも将来、鷹司コーポレーションに入社する以外で夢が出来たら、迷わずに進んで欲しいとも思うんだ」


 今にも言い返しそうな猛に真っ直ぐに伝えると、彼はぐっと唇を噛み締めて黙った。


 これは自分のわがままなのだろうなとも思う。

 押し付けられた将来じゃなく彼の自由に生きたらいい……それだって、猛にしてみれば押し付けに過ぎないのだ。


 だが伝えずにもやもや考え込み、しこりになって残るくらいなら今意見がぶつかった方がマシだとも思った。


「今も僕の手伝いを優先してくれる気持ちは嬉しいけど、もし他にやりたいことがあるなら、挑戦してみて欲しい。もちろん、無理に作れとは言わないけど」


 心の中で練り上げた言葉を全て言い切り、士郎は一度目を閉じ、一息ついてまた開ける。


 開けた視界の中で、猛は机の上で拳を握り熱心な顔で考え込んでいた。

 士郎の言葉に怒っている……という雰囲気ではない。彼なりに言われた言葉をかみ砕き、飲み込もうとしてくれているのだろう。


 しばらくじっくりとした時間が過ぎ、やがて後輩はこくりと重々しく首を縦に振り「わかりました」と呟いた。


「将来がどういうものになるのかはわかりませんが、士郎様が原因で諦めるということがないようにします」


 真っ直ぐに届いたその答えがじわりと心の中に染みわたる。

 猛自身も己と同じように言葉を選んでくれたのか、至極真剣な表情をしていた。

 そのことが嬉しい。


 微笑んで頷いた士郎は、「考えてくれてありがとう」と告げた。

 猛も頷き返し、さてポスター制作を再開しようとしたとき……もう一つ気になることがあって顔を上げる。


「なあ、お前が料理部に入ったのって、生徒会の仕事のためか?時間が多く取れるから?」


 調理部は週に何度かミーティングや実習があるだけで、大きな大会や発表はない。

 委員会や勉学のために入部する幽霊部員も多いと聞いている。


 だから猛自身も己を手伝うために料理部を選んだのでは?そんな疑問をしかし彼は、きょとんとした顔で受け止めた。


「いいえ、違いますよ」


 首を横に振った猛は、僅かに頬を朱に染めてはにかむ。


「俺は料理するのが好きなんです。だから開いている時間はどうしても包丁が握りたくて……料理部に」


 珍しい彼の表情は、心から料理が好きなのだと語っていた。


 その言葉と表情に、士郎は体の芯からほっと安心したことを感じる。

 どうやら最初から己が心配する必要はなかったらしい。


 猛は自分の目標と好きなことを両立し、しっかりと日々を楽しんでいたのだ。

 きっとこれからも彼は自らの人生を楽しんで歩んで行ってくれる。

 希望でなくそう確信できて、士郎は会話を終えポスターへと顔を向けた。 


「だから次こそは桜小路に勝つんです……」

「……え?」


 ───しかし。

 彼が呟いた名前に、士郎は動かしかけていたポスターカラーをぴたりと止める。


 動くことを拒否するように妙にゆっくりと首を持ち上げ、猛の顔を見つめた。

 後輩は感慨深そうにまぶたを閉じ、何かを決意しているのかぐっと右拳を握っている。


 スポコン漫画の一ページのようなポーズに、士郎が「あの」と声をかけた瞬間、その目がかっと開いた。


「鍛え上げたこの俺の料理の腕をはるかに凌駕するあの包丁使い!そして神の領域に入っていると言ってもいい味付け!!あの全てに勝ちたい!!雪辱を晴らしたい!!!」

「え?あの、あれ?猛?」

「今こそ認めましょう!!桜小路みやびこそ我がライバル!!ともに切磋琢磨し、泣き、笑い、いずれ頂点を極めたい!!!彼女とともになら前人未踏の味へとたどり着ける気がするのです!!!!!」


 「友情パワー!!!」と暑苦しく叫ぶ猛の目には、めらめらと炎が燃えている……ような気がする。


 その炎は誰かに止められそうな勢いではなく、士郎はかけようと思っていた声を飲み込んだ。

 取り合えず猛が満足そうなのでいいか、とも思ったし……何よりどんな言葉をかければいいのかわからなかったのである。


 だから先ほどよりも長考して言葉を選び、そして表情の消えた顔を猛に向けて士郎はぽつりと言った。


「……早速猛が夢中になれるものを見つけてくれてウレシイヨー」


 棒読みの自分の声がやたら虚しく部屋の中に響いたが、あまり気にしないことにする。

 あとで、また彼が料理部の皆さんに迷惑をかけないように釘を刺しておこう……思考が宇宙に飛んでいきそうになる士郎はそれだけ決めてポスター作製に戻った。

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