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悪の一撃!闇乃木四天王登場!!03

 みやびはその鋭い目で怪物を睨みつけ、警戒するように構えを取る。

 その姿からは普段の厳つくも穏やかな彼女は想像出来ない。


 ぎらりと隙なく巨体を観察したみやびは、低い声で呟いた。


「これほどまでに強い負のパワー……!いったいどれほどの苦しみをその身に隠しておったのか……」

「……っ!」


 その台詞に士郎の胸が強く締め付けられる。思い当たることがありすぎた。

 優斗の不安げな眼差しを受けながら、みやびに成り行きを説明すべく口を開いた……時だった。


「ふ、ふふふふふ!よく来たな、桜小路みやびよ!待っていたぞ」


 己の声を遮るように、甲高い哄笑があたりに響き渡る。

 士郎や優斗はびくりと体を跳ねさせ、みやびでさえも怪訝そうに眉間にしわを寄せた。


 声はぐわんぐわんと反響しているようで、何処から聞こえたのか見当がつかない。

 構えを解かずに桜小路流の後継者は、周りの気配を伺いながら叫ぶ。


「何者!?どこにいる!?姿を見せろ!!」

「ふ。どこを見ている。ここだ、ここだよ。桜小路みやび」


 今度の声ははっきりと聞こえた。

 誰よりも先にみやびの目が動き、同時に怪物の足元そばに、黒い影が唐突に現れる。

 まるで瞬間移動でもしたかのような登場の仕方に、士郎は「え?」と間抜けな声をもらした。


 小さなその呟きを聞いたのか、己を嘲笑うかのような声が再び甲高く響き渡る。


「私は闇乃木四天王の一人、魔拳の東海林 (とうかいりん)!桜小路みやび!貴様の命を頂きに来た刺客よ!!」


 ばっと両腕を広げ、存在をアピールするのはまだ年若い長髪の男だった。

 非常に高い背と盛り上がった筋肉。それを包むのは、バトル漫画でよく見るような真っ黒な胴着。


 顔は劇画のように濃く、彫りが深い。

 しかし桜小路みやびと違うのは、その表情が意地悪く凶悪に歪んでいると言うことだった。


 彼……東海林と名乗った、は非常に挑発的な様子でみやびとにらみ合い対峙している。

 二人の間にぴりりとした緊張感が走り、ひゅう……と冷たい風が流れた。


「……え?なに?」


 その奇妙な『間』に、思わず呟いてしまったのは士郎である。

 きょろりきょろりとあたりを見回し、どういう展開なのか飲み込もうとする。


 だが状況を理解していないのは自分だけだったようで、隣で優斗が咎めるように「しっ」と声を上げた。


「士郎さん、静かに。四天王登場です。今はシリアスなシーンですよ」

「え、あ、うん。今危ないってのはわかるけど。猛も助けなきゃだし」

「全てはあの四天王東海林の卑劣な作戦だったというわけです!恐ろしいですね!」

「はあ……?」


 優斗の説明が妙に力強いことはわかったが、やはり全貌が見えず首を傾げる。

 しかし目の前に現れた東海林とやらは、桜小路みやびの敵なのだろう。

 意を決し、士郎は彼を見つめて問いかけた。


「闇乃木流ってことは、これはやっぱり拳法なんですね。猛をこんな姿にしたのは、貴方なんですか?」

「ふっふっふっ。これはこの者が持っていた心の闇の姿、闇の怪物。私はただ力を貸しただけよ」


 凶悪な眼差しを士郎に転じて、四天王東海林は嗤う。

 こちらを嘲るようなその笑みにむっとし、さらに言い募ろうとしたが、それより先にみやびが一歩前に出た。


「我が目的なら彼らは関係ないはず。早々に日比野を解放せよ」

「ふっ、我ら闇乃木流。使える手駒は全て使う!いくら桜小路流の後継者とて私とこの闇の怪物を相手にするのは辛かろう!」


 甲高い声で言い切り、東海林は「やれ!」と隣の怪物に指示を出した。

 彼の登場からじっと動かなかった巨体は、その号令を合図に再び唸り声を上げて腕を振り上げる。


「ぬうんっ!」


 大きく息を吸ったみやびの体が黄金色に輝き始めた。

 太くたくましい腕に気をみなぎらせ、迫りくる拳に拳を突き付ける。


 風を捻りつぶすかのような音が響いた刹那、鉄拳は衝突する。

 耳をつんざく轟音、目の前で閃光が弾けたような気がして瞼を閉じる。


 それは激しい気迫同士が見せた幻覚なのか。それとも本当に火花散るほどの豪拳だったのか。

 目を閉じている間にも重い何かが激突するような音が響き、ふと目を開けるとみやびと怪物は先ほどより遠くの位置で相対していた。


 ぴりりとした緊張感が走る中、みやびが構えを変化させる。


「桜小路流拳法、一の拳……」

「こちらにもいるぞ!桜小路みやび!!」

「!」


 嘲笑う声とともにぶわりと吹く突風。

 士郎たちの目には、東海林が唐突にみやびの真横に現れたように見えた。


 咄嗟に動けなかった彼女は、現れた気配に横っ面と腹部に一撃を入れられ、次いで回し蹴りをその身に受ける。

 小さなうめき声をあげたみやびは、道の反対側まで吹き飛んでいった。


「桜小路さん!」

「あ、ひ、卑怯な……っ!」

「ふ!拳法など勝てば官軍!負けたものは勝者の靴を舐めるのだぁぁああぁっ!!!」


 心底楽し気に東海林は倒れるみやびへと駆け寄る。

 闇の怪物も彼女へ向かい再び拳を振り下ろした。


 が、みやびはすぐに足と腹筋の力を使い跳ね起き、東海林の手刀と怪物の拳をそれぞれ片腕で受け止めた。


 皮膚同士がぶつかり合った激しい音とともに、衝撃波が士郎たちのもとにも届く。

 勢いに優斗とともに僅かにふらついてしまい、みやびの鋭い視線がこちらへ向いた。


「お二人は、遠くへ!ここにいては巻き込まれてしまいます!」

「はいっ!士郎さん、行きましょう」

「……っ!」


 みやびに促され、優斗が歩き出したが、士郎は一瞬たじろいでしまった。


 恐ろしくて足が動かなくなっていたわけではない。

 自分がこの場で完全に足手まといだということはわかっている。


 しかしそれでも士郎は猛をこのまま置き去りにしておくことに抵抗があった。

 はっと深く息を吸い、今一度戦う桜小路たち……闇の怪物へと成り果ててしまった後輩へと視線を転じる。


 怪物はしばらくみやびと力比べをしていたが、やがて飽いたのか残った手を彼女へと伸ばした。

 一瞬早く気づいた東海林が力を受け流して下がり、みやびはその場でたたらを踏む。


 彼女がはっと顔を怪物へ向けたが、時すでに遅し!


「ぬうっ!!!」


 怪物は巨大な手で、みやびを掴むとそのまま持ち上げた。

 あれほど巨大に見えた彼女の体も、怪物に比べると切ないほど小さい。


「ふははは!終わりだ、桜小路流!泣き声を上げながら死んでいけええぇぇえっ!!!」


 東海林が哄笑する。闇の怪物が腕に力を込める。

 みやびの顔が苦痛に歪んだとき、士郎の背がざわりと粟立った。


「士郎さん!」


 なかなか一歩を踏み出さない己の横顔に、優斗の叱責が飛ぶ。


 はっと我に返った士郎は友人の方をちらりと見て……そしてまた再び闇の怪物を見た。

 怪物はいまだみやびを握りつぶそうとしている。


(駄目だ……っ!)


 そう思った瞬間、士郎は訝し気な優斗を置き去りに戦いの場へ向かって走り出していた。

 後ろで友人が己の名を呼ぶのが聞こえる。が、構わずに闇の怪物……否、猛へと駆け寄った。


「猛!」


 名を呼ぶ。

 無論反応は無い。


 しかし士郎は諦めず、今一度「猛!」と呼んだ。


「君の気持ちを聞かせてくれ!僕は君と話し合いたい!」


 叫ぶように訴えると、闇の怪物の足元で哄笑していた東海林がちらりとこちらを向く。


 その目は残虐に歪んでいる。

 けらけらとけたたましい声で笑った彼は、道化めいた態度で腕を広げた。


「無駄無駄ぁっ!お前の声など届くわけない!こいつは既に闇の怪物なのだ!」

「……っ!君が悲しんだことを聞かせてほしい!僕の駄目だったところも指摘してほしい!猛にしかわからないことがあるんだ!」


 一瞬怯みそうになった。が、諦めず士郎は語り掛ける。

 意外そうに目を見開く東海林の顔が、視界の隅に映った。


「僕も猛に言いたいことがたくさんあるっ!伝え合って、分かり合いたいんだ!」

「何を言っている!先に日比野猛を追い詰めたのは貴様だろう!鷹司士郎!!」


 苛立ったような東海林の声が、鼓膜を通って心に突き刺さる。

 耐えるように拳を握る士郎を、鼻で哂って四天王は言った。


「分かり合えるはずがない!日比野猛は貴様を拒絶した!貴様のせいでこいつは闇の怪物となったのだ!こいつは貴様を憎んでいるぞ!ほら近づいてみろ!殺されてしまうぞ!」


 言葉一つ一つが重しをつけた枷のようだった。

 東海林が叫ぶたびに、ずしりと心が重くなっていく。


 みやびと優斗が「聞くな」と言っている気がするが、何処か遠く雑音にかき消されてしまう。

 いつの間にうつむいていたのか、スニーカーに包まれた自分のつま先が見えた。


 ───不甲斐ない。


 そう思ってしかし、それでも士郎は前を向く。


「……そうだ。拒絶されても仕方ない」


 きっぱりと言い切って一歩踏み出した。

 闇を凝縮させたような怪物が、低く恐ろしい獣のうめき声をあげている。


 恐ろしい姿だったが、逃げたいとは思わなかった。


「でもそれなら、もう嫌だと言ってくれ。僕たちの縁が切れて、君の気が済んで……君が元に戻るならそれで構わない」


 明瞭な声で告げる。これでもし猛に見限られても、後悔はなかった。

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