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夢に迫る侵入者!闇乃木流の野望!!03

 しかし今はそれ以上に気になることがあり、士郎は次いで訪ねた。


「うろんな愛の王国って何なんだい?」

「まあ、今風に言うなら『逆ハーレム』ってところかな?彼女は男にかしずかれたいのさ」


 『逆ハーレム』。

 その言葉は知っている。士郎が以前調べた少女漫画やネット小説に、その言葉は幾度も登場した。

 言葉が示す通り逆のハーレム、つまり男性が一人の女性を囲む様を言うらしい。


 しかし士郎はいまいち釈然としなかった。

 何より嘲笑うかのような闇乃木里美に少しむっとして、つい語気を強くして告げる。


「桜小路さんは逆ハーレムを作るなんて考えていないと思う。彼女は真面目な人だよ」


 その瞬間、すっと里美の表情が消えた。

 唐突に静まり返った海のように、闇乃木里美は士郎に告げる。


「どうやら君も、桜小路みやびに魅了されかかっているようだね」

「いや、そんなことは無いけど」


 士郎は首を横に振る。申し訳ないが、がっしりした女性は好みではないのだ。


 確かに外見がどうあれ時間をかけて交流を続ければ、恋も芽生えるかもしれない。

 だが今のところ士郎は速水百合香にしか好の感情は傾かない。


 こちらの心情に気付かず里美は、表情を深刻なものに変えて腕を組む。


「いいや、鷹司士郎。君は知らないうちに彼女の魅了にかかっているよ。見ればわかるさ」

「そうなのかなあ?」


 確かに強大な力を持ちながらも謙虚なみやびの姿勢は大変好ましく映るが、恋愛感情とは別だ。

 唸る士郎に里美は肩を竦めて、「気を付けることだ」と忠告する。


「鷹司士郎。光の魔力は強大で、人の心を狂わせる。だから僕は君に最初の夢を見せたんだ」

「……本当にあんなことが起こるのか?」

「君たちが桜小路みやびに骨抜きにされれば、すぐにでもね」


 確信を持って頷く彼女に、士郎は発端となった夢の光景を思い出す。

 桜小路みやび(小)を囲った自分たちが、速水百合香を追い詰める悪夢。


 例え現実でないとはいえ、婚約者の泣き顔を思うたびに胸が締め付けられる。

 絶対にあんな顔はさせてはいけない。それだけはわかったので、納得できないまでも士郎は頷いた。


「……まあ、わかったよ。忠告は受け取った。一応、気を付ける」

「そう言ってくれて嬉しいよ」


 里美の雰囲気が僅かに和らぐ。本当に忠告に来ただけだったのか。

 以前みやびが語った闇乃木流の話は何だか恐ろし気だったが、表情だけ見ればその後継者?は普通の女の子に見える。


 しかし里美が語ったみやびの姿は何処となく悪意があった。

 敵対者と言うことに間違いは無いのかもしれない。


 予知夢のことも含め、この出会いは桜小路みやびに相談した方がいいだろうか?

 それとも余計な心配をかけないよう黙っていた方が得策か?


 しばらく悩んでいると、薄く笑った里美がくるりと踵を返した。


「それじゃあ僕は行くよ。くれぐれも光の魔力には気を付けることだ」

「あ、ちょっと待ってくれ!」


 これで話が終わりそうだったので、士郎は慌てて呼び止める。

 訝し気に振り返った里美に、「ごめん」と謝罪して告げた。


「いいかな?もう一つ聞きたいことがあるんだけど」

「ん?何だい?」

「君の見せた夢の登場人物たちは、現実でも同じような行動を取るのか?彼らは心の中まで現実の人物と同じなのか?」


 里美の眉が、「どうしてそんなことを?」とでも言いたげに跳ね上がる。

 しかしその問いを投げかけることが、士郎が中央橋にやってきた最大の理由だった。


 今日の夢で見た光景……己のためになら「人生を差し出せる」と啖呵を切った日比野猛が脳裏にこびりついたように残っている。


 己の妄想が作り上げた馬鹿げた夢なら放っておいたが、これは里美のかけた術。

 もし現実の猛も夢で見たように人生の全てを捨てても己に尽くしたいと思っていたら、そう思うと気が気でない。


 奇妙な質問に首を傾けながらも里美は、「そうだね」と頷いた。


「僕の見せる夢は現実とリンクしているよ。おおむね外れは無いんじゃないかな?」

「そうか、やっぱり……」


 静かに言って、士郎は奥歯を噛み締める。


 ある程度覚悟はしていたが、改めて言われるとショックが大きかった。

 呆然としながら俯いて、後輩の顔を思い浮かべる。無意識のうちに拳を握りしめていた。


(僕の存在は、猛の生き方を狭めているんじゃないか……?)


 ここ数日間の彼の行動、そして今日の夢に、士郎はそう思わずにはいられない。

 士郎が、そして『鷹司』の肩書きがあると、猛は満足に将来の夢も見れないのではないだろうか?


 今のところ彼はその生き方に不満を持っている様子は無いが、それは士郎以外が目に入らないからでは?

 自分さえいなければ猛はもっと自由な人生を歩めたのではないだろうか?


 ぐるぐると深く暗い思考の森の中に入る士郎に、里美は不思議そうな顔をしたままだった。


「何か思うことがあるのかい?」

「まあね……。でも桜小路さんには関係ないことだから安心してくれ」


 声をかけられて、彼女が勘違いしないように慌てて弁明する。

 里美は少し目を細めてしばしこちらを見つめていたが、「まあいいか」と頷いた。


「僕も桜小路みやびが世界を壊さぬように注意しているよ。再三言うが、君も気を付けるんだ」

「ああ、わざわざありがとう」


 実のところ彼女の言ったことの半分以上がいまいちわからなかったが、一応こちらを案じてくれている。

 丁寧に礼を言って、最後にふと気になることがあって士郎は三度(みたび)問いかけた。


「どうして君はそんなに桜小路さんを危険視しているんだ?やっぱり流派が違うからか?」

「……言っただろう。僕は叛逆者(リベリオン)だと」


 あ、その名前まだ名乗るんだ。と思ったが、彼女を傷つけそうだったので口には出さない。

 里美は先ほど見せた左手で左目を隠すポーズを取って見せ、皮肉気な笑みを浮かべた。


「人の心を操り、他人を貶めてまで欲望を叶えようとする転生者が許せない。あいつの目的を阻止してやりたいのさ。……まあ善行はがらじゃないがね」

「はあ……」

「今はまだわからないかもしれない。だがいずれ君も理解するときが来るだろう。光と闇の魔力のことを」


 ぼんやりした返答をする士郎に、黄昏の叛逆者(トワイライトリベリオン)は悲し気に目を閉じてそう言った。


(……理解することがあるだろうか?)


 みやびの話を聞いた時でさえ頭がパンクしそうだったのに、これ以上新たな展開を覚えられる気もしない。

 化学の授業のほうが、よっぽどわかりやすかった。


 順序を整理して考えようとしても何から手をつけていいかわからず、結局放棄する。

 そしてさきほど最後だと思ったが、唐突にふと閃いて「もう一ついいかな?」と彼女に訊ねた。


「あの、多分これが最後になると思うんだけど……」

「何だい?」

「どうして最初に偽名を……黄昏の叛逆者(トワイライトリベリオン)って名乗ったの?」


 少なくとも闇乃木里美の方が、いきなり聞いて驚かない名前だと思う。

 そう士郎が言うと、里美は口をへの字に曲げて下を向いた。


 変なことを聞いてしまっただろうか、と一瞬慌てたが、彼女はぽつりぽつりと小さな声で呟き始める。


「実は闇乃木って苗字は好きなんだけど、里美はあんまり好みじゃないんだ」

「……」

「お父さんとお母さんがつけてくれたものだから、嫌いになりたくは無いんだけど」

「そっか……」


 ───あんまり悪い子じゃないのかな?

 どことなくしょんぼりする里美に、士郎は心のすみでそんなことを考えた。

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