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第三百三話「戦況」


 血で血を洗い、敵味方を問わず、屍の山が積み上がる。数としてだけなら、魔物や妖魔の方が倍は多いのだろう。それでも人類側の被害も決して軽くはない。

 怪我を負い、戦線離脱を出来た者は幸運だ。例え四肢がもげて瀕死の重傷であろうとも、生きてさえいれば必ず助かる。失った部位を取り戻し、早ければ即日、遅くても二、三日程度で戦線に復帰できるのだ。

 戦場を駆けまわるのは、何も戦う者だけではない。多くの従軍神官を始めとした癒しの魔法の使い手が、戦いながらも仲間の傷を癒し、撤退を支援する役を担っている。

 人類が勝利するためには、命を捨てて妖魔帝国軍に打ち勝つのではなく、自らの命を繋ぎ止め、少しでも戦力が低下しないように立ち回る必要があるのだ。

 だからこそ戦況は硬直しやすい。仲間を守るために立ち回る必要があり、その為には突出して孤立するような事態は、極力避けなければならないのである。


「ここは私とボレアースが引き受ける! 竜騎士団は負傷者の撤退支援を!」


 ドラゴンを駆る【竜皇子】テオドールも、この戦場においては一騎当千の戦力としてみなされている。それでもやる事の多くはドラゴンブレスによる敵後続の分断や、ワイバーンやグリフォンに乗った妖魔たちの対処が中心。

 それは【竜爪の旅団】を束ねる、【黒の聖剣士】のラルドも同様であった。

 例えドラゴンがどれほど強力であろうとも、これほどの数に囲まれては、乗り手が無事で済むとは限らない。何よりも自分たちが成すべき事は、聖剣使いとして妖魔王の一角を打ち倒す事。

 その為には敵将を引きずり出すために、敵軍の数を減らすしかないのである。その為にも自軍を守り、また自らの消耗も抑えなければならないと言う、消極的な戦法を取るしかないのであった。


「こっちの方はいいとしても……やっぱあっちは押されてるか」


 相棒であるゼファーに跨るラルドが、南側へと視線を向けた。アトラシア帝国からの援軍である彼らは、一番北側を担当している。そこはトレアート都市国家群に最も近く、また妖魔帝国軍が北側からも攻めてきた時に、最大戦力で抑え込むためでもあった。

 故に全体的な練度が高く、また用いられる武具も数、質ともに非常に高いレベルで纏まっているのが特徴だ。敵軍と同様に複数の亜竜種を従えているだけでなく、最強無比とされるドラゴンを二匹も投入しているだけあって、戦局はかなり優勢であり、安定もしている。

 しかしそれはこの戦場全体にとって、ごく一部の状況でしかない。



 最も南側のデムルの森に近い場所は、レイメシア国の援軍である、エルフたちが中心に受け持つ戦場。こちらは強力な魔法士が数多く揃っており、この地域が最も敵陣に食い込んでいると言ってよい状況であろう。

 魔物の中にはトロールも多く混ざっており、非常に厄介な敵ではある。だがエルフたちの魔法による攻撃の前には、自慢の生命力や再生能力も酸や炎と言う弱点を突かれてしまうので、相手は近付くことすら困難を極めているようだった。


「おい、ちょっと飛ばし過ぎじゃないか?」

「……ったく、仕方がないか。少しペースを落として、味方が追いつくのを待つか、少し下がる。そっちもいいかい?」


 敵陣に食い込むエルフたちの中でも、更に突出しているパーティがあった。そのパーティメンバーであるクレストの言葉に、ヘルガは少しだけ面白くなさそうに、しかしすぐに状況を見て下がる事を了承する。


「そうだな、後ろの者達が着いてこれていない。レイメシア国のエルフたちは非常に優秀なのだろうが、魔法や弓で戦うのが主体なこともあって、乱戦を避けるあまり我々だけが突出する形になるのも仕方がないのだろう」

「魔法も弓の腕も素晴らしいけれど、魔物に近寄られたら、ひとたまりもないって感じだものねぇ」


 二人の提案に、ウィロウとイリスが同意する。自分たちが突出しすぎれば、万が一の時には味方からの救援が絶望的になるからだ。味方側の得意分野を理解した上で、余力を残しつつ程々に立ち回らなければならない。

 このパーティの役目は前線を切り開くことではなく、妖魔王の一角を討ち取る事なのだ。ここで無茶をしても意味がないのである。まだ暴れたりなそうにしている女性陣に、男性陣は小さく息を吐くのだった。



 次に安定している南北に挟まれた戦場はどうかと言うと、少々状況は良くない。

 中央のやや北側の戦場は主にセタジキス王国側の者達が多く、個々の実力も高く決して他とは引けを取らない。またトワイア魔王国の亜人達も奮戦してはいるのだが、勇者アルベルトや魔王バルバシムと言う聖剣使いを温存する為に、少しばかり無理を強いられている。

 そのせいもあって、押され気味なのは間違いない。

 何より彼らが戦いにくそうにしているのは、その中に明らかに人間や亜人の者達が含まれていたからだ。

 ここの戦場にはガリオン王国と、聖庁の部隊も加わっている。セタジキス王国側はトワイア魔王国の者達も混ざっているため、かなり亜人が多い。

 しかしエルフのような魔法による攻撃や支援が少ない為、脅威ではないという点が一つ。そしてもう一点は魔王討伐と言うお題目で、この場所を選んだと言う理由があった。


「……フンッ、腐りきった聖庁の下僕どもめ。余自らが切り捨ててやろうか」

「あの鎧と剣は……ああ、シャルロッテと同じものなのか。彼女のような者を、増やしたというのか……!」


 敵陣の掲げる旗の中に、仇敵の姿を見つけた二人。その行い、無理矢理戦わされる者達への哀れみに、控えているべきだと言うのに、今にも飛び出して行きそうな雰囲気を纏った。

 片や聖庁に暗殺されかけ、以降は袂を分かって敵対する道を選んだ、魔王バルバシム。

 戦に負け、国が生き残るために妖魔帝国の軍門に降るしか、生き残る道が無かったとはいえ、信じていた聖庁に裏切られ、自身や仲間の命を失う事になった勇者アルベルト。

 それらが自分たちの前に現れ、敵として襲い掛かってくる。その姿に怒りを覚えない理由など、今の二人にはない。


「落ち着いてください、魔王陛下。それにアルベルトも。お二人は自分が切り札だと言う事を、どうかお忘れなく」


 少し慌てたように、バートが二人を抑える。他の仲間たちも苦笑しつつ、しかし目の前の敵に飛び掛からぬよう、全力で自制しているのだ。

 こちら側はやや押され気味ではあるが、それでも天空城からの部隊強化による支援のお陰もあり、一進一退を繰り返している。今はまだ耐えるべき時なのだと静かに、しかし視線は鋭く戦場を見つめているのだった。



 そして中央やや南側はルグト王国とヴォルデス王国、そしてセタジキス王国よりも以西の国家群と、東のフィンダート王国から半ば無理矢理連れてこられた者達が担当しているのだが、こちらが最も厳しい状況となってしまっていた。

 ゴブリンやオークはより北側に多く、こちら側は徐々にオーガが多くなってきている。より強大な妖魔であるオーガが相手となれば、こちら側の被害も増す一方なのも当然であった。

 魔銃部隊による厚い支援を受け、鋼壁騎士団の守りと鉄剣騎士団の攻撃力が合わさり、一見して安定してはいるように見える。だがそれ以外の国が主力である以上、決して数の多くない彼らではフォローできる範囲が限られてしまうのだ。

 それぞれ聖剣と聖槍を持つカーチス卿とウルツ卿も、戦力としての自分たちを温存しなければならない関係上、指揮官として奮戦してはいるものの、これほど大規模な戦いで指揮系統の違う人々を纏めなければならない苦労はかなりのもの。


 ヴォルデス王太子であるヴィクターも魔銃部隊を指揮しつつ、急ごしらえとなった魔術部隊への指示をしなければならず、周囲に目を向ける余裕がないのだ。

 ヴォルデス王直属の天馬騎士団もいるにはいるが、彼らには空の魔物と正面から戦えるほどの力はなく、基本的に空中からの射撃と撤退支援が主であり、アトラシア帝国の竜騎士団程の出鱈目な戦力とはならない。


「魔術部隊は攻撃用の魔術は使わず、味方の支援に集中するのだ! 魔銃部隊は後退しつつ、再度敵陣に射撃。一人とて欠けるな! ……くっ、これなら多少無理をしてでも、国からギュンター卿を引っ張ってくればよかったか」


 そんな言葉を漏らす程度には、忙しく、そして気が抜けない状況が続く。そんなヴィクターの頭上に不意に影が降りる。慌てて見上げれば、そこには黄金の鬣を持つ、巨大な馬が宙に浮かんでいた。

 その威容に誰もが一瞬驚き、見惚れ、しかしすぐに我に返る。自分たちが何と戦っているのか、誰を相手にしているのかを理解しているからこそ、気を抜くことなど許されないのだから。


「……遅れてすみません、殿下。急造の魔術部隊の指揮は、私の方で引き受けましょう」

「随分と遅いじゃないか、ベリエス卿。悪いがこちらは手一杯だ。存分に卿の腕を揮ってくれたまえ」

「魔銃騎士団の団長である殿下ほどではございませんが、副団長を務めるこのベリエス・ヴィンケルマンが、必ずや殿下をお支えします」

「ああ、頼んだぞ」


 地上に降りると同時に、迫りくる魔物を手にした槍と、愛馬が難なく蹴散らし、味方が後退出来るだけの時間を、難なく稼ぐベリエス。そのまま愛馬が大きく跳躍し、再び空を駆けると同時に、ヴィクターの号令で魔銃部隊による一斉射撃が行われた。


「敵の勢いは厄介だが、我らに倒せぬ敵ではない。焦らずに動け!」


 自分たちには超常の騎士が付いている。ヴィクターがそう叱咤を飛ばせば、ベリエスを知る魔銃部隊の面々は気炎を吐いて応えた。その勢いに釣られるように、ベリエスが指揮を執ることになった魔術部隊も気勢を上げる。


「いやいや、君たち魔術部隊は難しい事などしなくていいんだ。冷静に、着実に術を行使して味方を支援すること。まずはそこに集中して欲しいな」


 時折馬の上から自身の魔銃を撃ちつつ、ベリエスは苦笑する。とりあえずは各自のモチベーションも上がったので、良しとするしかないだろう。それでも妖魔や魔物の数は多い。


「やれやれ。流石にオーガの上位個体などが出てきたら、私が倒す方がいいかもしれないな。クロトには少し悪いけど」


 そんな事を小さく呟きながらもベリエスは戦場を見渡し、この戦いの過酷さに少しだけ眉を寄せるのだった。


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