表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
299/346

第二百九十九話「宣戦布告」


 広大な平野。遥か西側に敷かれた妖魔帝国の陣。その最前列には整然と並ぶ人間や亜人、その後ろには魔物に騎乗した妖魔の列、空にはワイバーンを始めとする空を飛ぶ魔物に乗った妖魔と、無数の悪魔ディアブロがいた。

 邪悪な軍勢が、今にも襲い掛かってきそうだと言うのに、あくまでもヒトの戦の体で、わざわざこちらに「合わせて」いる。それは余裕であり、傲慢であり、負けることが無いと言う自信の表れでもあった。


 その軍勢に相対するのは、ヒト。セタジキス王国を中心に、冒険者、傭兵、あらゆる種族を問わず、この戦いに参戦している。

 彼らの表情には恐怖と緊張、しかし確かな希望があった。それは彼らが今まさに見上げている、存在によるところが大きいと言えるだろう。

 遥か空の上に浮かぶ、幾つもの島々。巨大な岩塊と、その上に聳え立つ荘厳な建物。神の城とも呼ばれる、天空城がそこにはあった。

 天空城の存在が、世界創世の前から存在していたという、神々の住まう城が自分たちを見守っている。


「今、我らは滅びの淵に立たされている。されど絶望する必要などないのだ。我らは、必ず勝利する!」


 人々が見上げる天空城には、甲冑を着込んだ巨大な半透明のヒト、アレハンドロ・カサノバス・セタジキス四世をはじめ、近隣の王の姿が空中に投影され、そしてこの戦いに挑むすべての人々に語りかけている。

 するとその姿の隣に、新たな人物が現れた。それは同じように鎧を身に纏ったルグト王国の女王である、マルガレータ・セーデルホルム・ルンドクヴィスト・レクス・ルグトであった。


「神々は決して、我らをお見捨てにはならない。今まさに我らを見守り、支え、そしてこの試練を乗り越える事こそを、望まれているのだ。我が王家に伝わる聖剣プレシューズが、其方らを導く光となろう!」


 そう言って【鋼の女王】の異名を持つマルガレータは腰の剣を抜き放つと、そのまま剣を掲げ、聖なる輝きが人々に降り注いでいく。そして更に空に浮かび上がるヒトが増える。

 アトラシア帝国皇帝、バルドゥル・イルミンスール・アトラシアもまた腰の剣を抜き、その刃に聖なる光を湛えながら口を開いた。


「聖剣は一つではない。この戦いには、あらゆる聖剣が集い、それを振るう者達がいる。どれほど悪しき存在が居ようとも、その力を結集し、打ち払うのだ。我が帝国の至宝、聖剣ベリサルダもまた、この地に集った一振りである!」


 女王の聖剣に重ねるように、皇帝の聖剣が加わる。聖なる光は更に強くなり、人々はその光から目を離すことが出来なくなっていた。


「勇敢なる我が臣民、我がヴォルデス王国の勇士たちよ。我らは彼の悪鬼、妖魔帝国の猛攻を退けた実績がある。我が国の危機に際し、神々はこのクラウス・ビレンコーフェン・シェーファー・ヴォルデス四世に、聖剣ソーヴォジーンを与えたもうた。故に正義は我らにある。迷うな、進め!」


 ヴォルデス王が加わり、増々輝きは強くなる。しかし決して強過ぎず、まるで人々に力を与えるかのように、降り注いでいくのだ。


「聞け、人間ども。我はトワイア魔王国が魔王バルバシム。貴様ら亜人を虐げる者、全ての敵である! だが今はひと時の間、過去の遺恨を忘れ、その力を結集しなければならない時が来てしまった。故に見せつけよ。人間どもが誰を虐げてきたのかを。その力が決して人間どもには劣らず、この戦いを勝利に導くことが出来るのだと!」


 その言葉と共に、地上の人々の間では細波のように、小さな動揺が広がっていく。しかしそれを打ち払うように、二振りの聖剣が掲げられた。この戦いに参加する全ての亜人が、怒号のように鬨の声を上げる。


「我がバルバシムの名を、その魂に刻め。余は遠き過去、盟友である勇者ローヴィスと共に妖魔王を打ち倒した。そして今代の勇者よ。今こそ、その責務を果たすのだ。神々の導き、その声に耳を澄ませよ。聖剣カーテナ、死剣ミュルグレスと共に、今再び妖魔王を討ち取らん!」


 聖なる輝きは更に力を増し、人々へと降り注いでいく。


「我らはこの危機を乗り越え、人間も亜人も関係なく、後の世の為にも互いに手を携えなければならない。……森の民の誇りを示せ。貴くも清らかなる地を穢そうとする、邪なる神の企みを挫くのだ。今こそ木々と、精霊の怒りを見せつけよ!」


 更にはレイメシア国女王レイの姿が浮かび上がり、周囲には高位の精霊が現れて彼女だけでなく、各王族をも守るように舞い降りてくる。


 その光景はあらゆる吟遊詩人が、言葉を尽くして謡う英雄譚サーガすら霞むほどに、幻想的な光景が広がっている。

 それと同時に、血と死の臭いが満ちる戦いはもうすぐそこなのだと、人々は改めて実感させられていた。王達の姿が消えた後、それでも負けはしないのだと、人々の声は遥か空にあるこの城にまで届くほどに、大きなものとなるのだった。



「……うん、意外といい演出じゃないかな?」

「そうね。本当は王様たち以外の聖剣使いの人たちにも出て欲しかったけど、すぐ戦う事になるんだから、そこだけは仕方がないわよねぇ。エメリアちゃんも自分も戦うって、勇者ちゃんたちと一緒にいるくらいだし」


 王達の姿を空中に映し出し、その声を人々に届けていたのは、クロトとネクロの仕業である。

 本来ならもう少し西の国々の王達にも、当事者である人々に激励して欲しかったところではあるが、長くなり過ぎる事と彼らの方が強く遠慮した事もあって、セタジキス側が代表する形となってしまったのだ。

 単に境界神に強制参加させられた王以外が、畏れ多いと全力で拒否したともいうが。


 そもそも西の国々も生き残っているとはいえ、それぞれの国はこの戦いでかなり疲弊しており、ヒトも物資も多くを戦いに出せる状態ではなくなってきてしまっている。大半が天空城の世話になっており、裏方に徹するしかない程に弱体化しているのだ。

 これは妖魔帝国が一度、南北の二手に別れて行動してしまった事で、戦いが長期化してしまった弊害でもあったと言えよう。


「そういう意味では、ローヴィス教の破壊はこの戦いの後……になりそうですね。何とか生き残って欲しいんですけど」


 そんな風にぼやくクロトだが、仮に死んでも最悪、自身かユナによって強引に蘇生してしまえばいいと考えている辺り、非常識極まりない上に、ある意味で非常に悪辣である。


「そう言えばユナちゃんってば、特に重傷だった兵士の治療を担当してたでしょう? 一部の兵士からは物凄く人気が出ちゃったとかで、こっちじゃ知られてないはずなのに、また聖女とかに持ち上げられているそうよ」


 ネクロの言うように、実際に今も地上の兵からは何故王族ばかりで、自分たちを癒した聖女が現れないのかと、不満そうな者達がいる。

 同時にその奥ゆかしさ、謙虚さこそが聖女に相応しいのだと信仰を深める者も居るようで、ユナ自身だけでなくクロトとしても頭が痛い話である。それでも些細な事だと切り捨てられる程度には、彼女の集めた敬意と信仰は狭いものではあった。ただ深い。とても。


「……彼女のはもう、そういう運命だとか業だとかと、思うしかないでしょう。ローヴィス教を破壊するべき教主エメリア……いや、聖女リアが霞むのって、今後どう作用するのか、後が怖くて仕方ないんですけど……」


 クロトが思わず現実から目を逸らしていると、不意に彼らの懐から着信音が小さく響いた。


「クロくん、ネクロさん。そろそろかも?」


 通信魔法具を通じて、二人にそんな声が届く。天空城の玉座の間にいる、ユウリの声であった。彼は今天空城を操作し、周囲の状況把握に努めている。敵の軍勢は目の前であり、無数の悪魔ディアブロもいるのだ。

 不意を突かれた奇襲を許さぬようにと、補佐をしているレムリアと共に目を光らせていたのである。


「あっちも同じような事、するみたいだ」


 そう言って彼らが妖魔帝国の陣地へと視線を向けると、こちらと同じように魔法で浮かび上がらせたのは、四体の妖魔王の姿と、何体かの悪魔。

 向こうの言う内容は、降伏勧告と取れるものではあるが、結局はこちらに死ねと宣言しているに等しい。

 そしてこちら側はその要求を呑むつもりは微塵もない。寧ろ人々が動揺しないよう、クロトが境界神の力で干渉し、投影された像を即座に霧散させ、声を打ち消したのである。


 それは何よりも明確な、宣戦布告となった。

 怒りが、驕りが、憎悪が、土煙を上げながらこちらに向かってくるのが見える。


「あらら、もう時間みたいね? それじゃあそろそろ、ちょっとだけ派手にいっちゃいましょうか?」

「ま、空を飛んでる魔物も多少消えるでしょうが、誤差ですしね。遠慮なく滅ぼしましょう」


 そんな事を話していると、待っていたと言わんばかりに、何人かが二人に近づいてくる。


「二人とも、ユウ君からの連絡は聞いた? ……ああ、もう始まったのね」

「いよいよですね……直接、地上の人々と一緒に戦えないのは残念ですけれど、頑張りましょう」

「今回は、私もこっち側での参加だからね。……ううん、職務放棄に当たらないだろうか?」


 各国の王との合同演説を終えたレイと共に、ユナとベリエスが集まってきていた。彼らのプレイヤーの役目は、悪魔への対処。すぐにユウリも合流する事だろう。


「お待たせ。お城の方は、レムリアさんに任せてきたよ」

「ああ。じゃあまずは移動だ。ネクロさん、頼む」

「お任せあれ」


 転移で現れたユウリを確認すると、プレイヤー一同は浮遊群島の最も先端、戦場が見渡せる場所まで魔法で瞬時に移動する。


「じゃあ始める前に、こっちの号令をユウ君にお願いしようかな」

「えぇ!?」


 突然の無茶振りに、ユウリは思わず目を丸くする。しかし他の仲間たちは面白がるように、それはいいと笑うのだ。


「ほら、この天空城の主として、な?」

「それはいいわね。ここはしっかりと盛り上げなきゃ」

「うん、悪くない。ユウ君、よろしく」

「そうですね。お願いします」

「敵は動き出した。迷ってる時間は無いぞ、ユウリ」


 各々が口々に好き勝手に言い、しかも時間がない。ユウリは諦めたように息を吐き、そして大きく息を吸った。


「皆の為に、世界樹を護るために、悪魔を倒そう!」


 少年の言葉に、同じプレイヤーの仲間たちが「応!」と力強く返す。そして彼らはそれぞれが得意とする武器を手に取り、構えた。


「地上に被害が出ないように……応えろ、アンサラー!」


 ユウリが光神輝剣フラガラッハを抜き放ち、真っ直ぐに振り下ろす。山々をも容易に断ち切る光の奔流が、悪魔の群れの一部を飲み込む。


 開戦を告げる理不尽な一撃が、眩い光が空を覆うのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ