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第二百九十八話「雑な解決策」


 この天空城の魔力とて無限ではない。その現実を突きつけられ、どうするべきかと悩む一同。それでも普通の戦であれば、過剰な支援なのだが、それでも心許ないと感じるほどに敵軍は多く、強大であった。


「城の魔力の回復方法や、その時間はどれくらいなの。レムリアちゃん?」

「この城は周辺のレイラインに接続し、魔力マナそのものを常時取り込んでいます。この城を維持しなければならない分の魔力を除けば、一晩程は掛かるかと。どうしても急ぐ必要があるのなら、直接皆様の魔力オドを注いで貰う方法も存在します」

「この手の拠点の魔力量って、最高レベルの魔法士複数の魔力オドでも、到底追い付かないレベルだったはず。ちょっとだけ厳しいかしら……?」


 あの【冥王】ネクロ・ノミコンですら、この城の魔力を補いきれないと言う、驚愕の事実に誰もが絶句する。そしてそれは最高の魔法士であるレイも同様だと言うのだ。


「そうね。私とネクロさんの二人がかり、クロトさんやユナを含めても、ちょっと厳しいと思う」

「……あー、その事だけど。少しズルをしようか?」

「ズル?」


 レイの呟きに、クロトが小さく手を挙げ、頷いた。そして誰もが彼に注目する。


「えーと、まあ。境界神がこの城を放置していたのは、自身も別に城を持っているからだ。全領域対応高機動戦闘城塞ヴィマナ。単純なスペックだけなら、この名も無き天空の城を遥か上回る、ギルドバトルに特化したアジトを神々から譲られている」

「……え?」


 なに言いだすんだコイツ。そんな空気が流れる。

 ユウリ達も思わず呆けており、突然のカミングアウトについていけていない。


「一時的にではあるが、境界神が溜め込んでいる余剰魔力を結晶化したものを、こちらの城に融通しよう、と思うのだけれど……。ああ、運ぶのは勿論、境界神の神官である俺がやるよ」


 さらっと出された提案に、流石のネクロやレイですらも、頭を抱える他ない。特に絶対記憶のアビリティによって、過去のゲーム中のデータさえも全て記憶してしまっているレイなどは、当然その城の事を知っているのだ。

 しかも余剰魔力を結晶化して、この城まで持ってくると言われれば、そうですかとしか言いようがない。どうせ出来てしまうのだ。そこに情緒や苦労と言うものが、一切ないだろうと言う事を除けば。


悪魔ディアブロがとんでもない数で攻めてくる以上、地上への被害が拡大するのは間違いない。ならばこのくらいは、融通を利かせても構わないと神々の判断だ。そうでもしないと、魔力不足でこちらが負けてしまう」

「……クロト。少し、質問してもいいかな?」


 困惑する仲間たちを他所に、クロトに向かってベリエスが小さく手を挙げている。それを見て小さく頷き返した。


「魔力の結晶化、と言う事は普通のヒトでも、持ち運べる大きさなのかい?」

「……この城で使用する分は、かなりの大きさと純度になりますね。でもその気になれば、簡単に持ち運びができるサイズにする、と言うこと自体は簡単です。魔晄石なんてのは要するに、魔物が自身の魔力の余剰分を予備として、身体の中に溜め込むために結晶化させたものですし」


 ベリエスの質問に対して、クロトは淀みなく答える。そして魔晄石とほぼ同様の物ならば、それを使用するための応用の幅は非常に広くなる。


「ならば、我がヴォルデス王国の魔銃部隊にも、幾らか融通してもらえないかな? こちらは魔術に使用するための素材が常に不足していて、周囲への十分な支援も出来ない。魔晄石と同じなら、魔銃も魔術も使いやすくなる」

「なるほど。それなら他の部隊にも魔力結晶を回しましょう。それ自体で自身の魔力オドを回復させることは出来なくとも、結晶そのものを媒介に、魔法を使う事は出来るはずですし。爪の先程度の小さな物でも、初級の魔法くらいなら発動できますから」


 ベリエスからの提案を聞いて、クロトはなるほどと頷き返す。どう足掻いても魔法の武具は足りず、また魔法の使い手は希少だ。その魔法を疑似的に再現する魔術を、ある程度自由に使用できるようになれば、その恩恵は多くの兵士を救う事になるだろう。


「ああ、それはいいね。数はどれくらいが見込める?」

「この城への回復分でどれほど必要になるか、まだわかりませんが……まあヴィマナの余剰分自体、既にヴィマナの魔力を数回は満タンに出来る量なので、割と潤沢に使えるだろうと思います」


 高級な魔法の素材を、潤沢に使用できると聞いて、ベリエスは安堵の笑みを浮かべる。世界の危機なので、あちこちから支援物資として、高価な魔法の道具が各王宮から供給されているものの、正直自軍の分すら全てに行き渡らない程度なのだ。

 それを軽く上回る数を供出しているのが、彼らプレイヤーなのである。今回はクロト一人が滅茶苦茶やろうとしているが、他の面々も気軽に買い物する気分でダンジョンアタックして来て、魔法の武具をかき集めているので他人の事は言えない。


 現場に居合わせている各国の王はと言うと、見ないふり、聞かないふりに徹している。境界神のやる事なのだから、自分たちが口を出していいものではないと、自分自身に言い聞かせているのだ。


「えっと、あとやるべき事って、何かありそう?」

「……とりあえず、こんなところだと思うわ。そもそも悪魔ディアブロの相手以外では、私達は前に出ないのだし」

「そうですね。わたくしがもっと皆様のお力になれれば良かったのですけれど……いえ、勿論必要以上に力を揮うのは、良くないと理解しています!」


 当面の問題は解消しそうだと考えたユウリは、他にやっておいた方がいい事が無いかと思案する。それに対してレイやユナも、必要以上に手出しが出来ないのだから、このくらいが限界だろうと頷いていた。


「後は出来れば、兵の士気を上げる何かがあると良い。みんな頑張ってはいるけれど、決して負担が軽くなるわけじゃない」


 クロトの提案は、長期化している戦いに兵が少なからず疲れとストレスを、溜め込んでしまっている事を懸念してだ。

 順番に、交代制ではあるが、可能な限りこの城の施設で息抜きが出来るよう、ユウリが取り計らってくれている。主に入浴施設等の、極健全なものばかりではあるが。

 それ以外だと浮遊群島の一つに、娼館モドキが存在している。ちゃんとした建物ではなく、天幕の類なのは仕方がない。セタジキス王国などを中心に、その手の仕事をしている人々が参加してくれており、兵士たちのストレス発散の場として機能している。

 揉め事が極力無いようにと、ユウリの従者であるリザードマンのルドラ他、主に戦いに向かない後衛の冒険者などが中心となって、有志の面々が警備を担当してくれているそうだ。


「そうねぇ。そういうのがあると、良いかもしれないわね」

「例えば……演説とか、かい?」


 同意するネクロに、この手の士気高揚を促すものと聞いて、ベリエスがとりあえず思いついたことを口にする。するとクロトが部屋にいる全員を見渡しながら、意味深に笑うのだった。


「なるほど。丁度ここには、各国の王が集まっているな。更に言えば聖剣持ちも」


 満足そうに笑うクロトを見て、それぞれの国の指導者たちは呆れたような、当然だと言うような表情で頷き返すのであった。




「妖魔帝国軍が、いよいよ本格的に動き出すらしいな」

「やっと、って感じだね」

「全くだぜ」


 【竜爪の旅団】の団長であるラルドと、彼の相棒でもある女剣士アルナが、それぞれ思い思いの酒と料理を手に、しみじみと語り合っていた。

 周囲を見渡せば戦場には似つかわしくない、酒と料理が各所で山と積まれている。周囲はもう陽は出ていないと言うのに、煌々と篝火を燃やすのではなく、贅沢にも魔法の明かりが昼間のように自陣を照らしていた。

 妖魔帝国軍は、散発的ではあるものの、襲撃に昼夜の区別は存在していない。なので夜の間も常に魔法で、自陣や戦場を照らしている。そのお陰で夜に上手く眠れない等の弊害はあるものの、しかしそれは仕方が無い物だとして諦めるしかなかった。

 それでも今この一時は、交代でとはいえ前線で戦う者にとって、丁度いい息抜きになるだろうと彼らも考えている。



「それで決戦が近いから、この宴会ってわけか」 

「いいじゃないですか。どれも美味しいですよ。いつもの事になりつつありますが、本当に戦場での食事とは思えません」

「全くだ。依頼中だって、こんなにまともな飯を食える機会は、滅多にないもんな」


 この戦いの後、元の生活に戻れるのかと考えながら、しかし料理に舌鼓を打つのをやめる気が無い、ダグとその仲間たち。今日は一際豪勢なのは、いよいよ決戦が近いからこその景気付けと言うヤツであった。

 お偉い方々は天空城での晩餐会だ、神官たちを搔き集めて戦勝祈願の祈祷をしているのだとか、様々な噂が飛び交っている。



「……いよいよ、か。皆、これまで以上に気を引き締めていこう」

「ええ、勿論です。勇者アルベルト、我ら人類に勝利を」

「当然、ちゃんと支えるわ。今度こそ、あの妖魔王って化物を倒しましょう」

「アルベルトはすぐ無茶をするから、あたしがちゃんと見ててあげるし、傷も治してあげる」


 勇者アルベルトを中心に、彼の仲間たちは集っている。元ローヴィス教の教主であるエメリア、女魔法士のディディエ、そして猫獣人の女神官キッシュの三人は自然と、そして彼を囲むように陣取って彼の世話を焼いていた。

 それは一度は死した勇者へ心配する気持ちの表れでもあり、恋愛的な意味合いかどうかはともかく、それぞれの好意の表れでもある。


「おーい、姉ちゃんたちー。オレたちもいるんだけどー?」

「……ま、まあアルベルトの事は彼女たちに任せよう。それより皆、ちゃんと食べてるか?」

「は、はい。とっても美味しいです!」

「バートお兄さんも、ちゃんと食べてくださいね」


 女性陣に囲まれる勇者を遠巻きに見ながら、フィルは微妙な表情をしながら肉を頬張る。そんな彼らに苦笑しながら、神官のバートは元王族の少年オリバーや、弟分のレーヴィの為に料理を運んでいた。

 彼ら勇者一行もずっと戦場に立ってはいるものの、途中からクロトからの要請もあり、戦う事を控えていたのである。それと言うのも、勇者アルベルトの存在を出来るだけ隠しつつ、戦力としても温存したいと言う理由からであった。

 既に意味は無さそうな気はしているものの、しかし他にも聖剣使いがいるお陰で、上手く誤魔化せている可能性もあるのだと言う。少なくとも、妖魔帝国に吸収されたガリオン王国側や、聖庁側には気付かれていないのだと聞かされている。


 自分たちの故郷が、所属していた組織が、敵として人類に牙を剥いている。この事実に重たい気持ちを抱えつつも、彼らの戦い抗うと言う意思は、少しも揺らぐことは無かった。





あのゲームは怖いですね。時間が一瞬で溶ける……。

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