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第二百九十七話「対抗手段」


 南北に分かれていた妖魔帝国軍が再び合流した。その報はすぐに人類側にも伝わり、決戦は近いと多くの者が身構えていた。しかしその予想に反して、本隊の動きは相変わらず鈍い。

 これまでの侵攻速度から不自然なほどだが、既にクロトから周知されている情報により、相手の軍が解放された悪魔ディアブロ達と合流しようと、時間を稼いでいる事は一目瞭然であった。

 多くの実力者たちが警戒を強め、合流前に妖魔帝国軍を倒すべきとの論調の後押しもあり、人類側から妖魔帝国軍に仕掛けること数回。相手の守りは堅固で、なかなか攻めきれずに時間だけが過ぎていった。


「僕らも戦えればあのくらいの守り、すぐに突破できるのになー……」

「……こちらから打って出る、というのは悪くなかったが、あの軍勢に守りに入られると、なかなかに攻めにくいな」


 天空城の玉座の間から、地上の様子を見るユウリとクロト。

 元々魔物の軍勢、それもヒトと同じように指揮官に率いられて、組織的な動きをすると言う敵なのだ。個々の自力はこちらを上回っている相手であり、そんなものを相手に押し勝つこと自体が難しいのも当然なのである。


「……そういえば、レイ姉ちゃんとネクロさんは?」

「二人は各国の王様と会議中だよ。最近、簡易型の転移門を、戦いに参加してる主要の王宮に設置して繋いだだろう? 仮のギルドメンバーとして登録して移動可能になってるから、こちら側から攻めるようになって、頻繁に会議を開いてるんだそうだ」

「えぇ……」

「戦後の事も後々話し合わないといけないし、今はまさに戦時中だし。それぞれの軍の配置だとか、指揮系統のあれこれだとか、軍の再編も行ってたらしいよ。軍略は俺もよく分からないから、向こうに丸投げだけどね」


 ルグト王国を始め、アトラシア帝国、セタジキス王国、ヴォルデス王国、トワイア魔王国の五ヵ国が中心となっている。

 セタジキス以西の国々も何ヵ国か参加しているが、逆に全く協調する気のない北のトレアート都市国家群や、当初こちら側に協力的な態度ではなかった東のフィンダート王国は、会議への参加どころか、天空城への王侯貴族の出入り自体が許可されていない。

 またルグト王国以北の国々は出遅れた事で功を焦ったのか、やはり纏まることはなく、各自で好き勝手に動いていたようで、妖魔帝国と戦おうとして返り討ちになっていたらしい。

 そもそも行軍距離の長さから、妖魔帝国軍にすら到達できず、来た道を退き返す方が多かったようではあるが。


悪魔ディアブロが来たら、僕らも戦えるんだよね?」

「まあ、ね。だから今は、我慢の時だ」

「分かってるよ……でも、僕が戦う事で誰も傷つかないのなら、そっちの方がいいんだけどな……」

「気持ちは分かるけど、それはこの世界の人々から、自分達の力でこの事態を解決しようとする、力や努力を奪う行為でもある。だからプレイヤーの皆には、彼らではどうしようもないイレギュラー、悪魔ディアブロの対処に限定して貰っているんだよ」


 力があるからこそ、その力で誰かを助けたい。それは善性の表れではあるが、同時に他者の努力を否定する行いでもある。

 ユウリの気持ちは尊いものであるからこそ、その使いどころを間違って欲しくはないと、クロトは諭す。少年もそれを理解できるからこそ、異を唱えずに大人しくしているのだ。

 少しだけ沈黙が降りる。それを振り払うように、クロトは話を逸らすように、違う話題へと移った。


「そういえばユウ君は最近、色んな部署の手伝いをしていると聞くよ?」

「うん。よく農作業を手伝ったり、重い荷物を運んだりしてる」


 クロトの意図を察して、ユウリも気持ちを切り替えるように、素直に答えた。

 二人が語るように、現在この城では多くの人々が働いている。それは妖魔帝国軍に侵略された西の国々の避難民だったり、各国から送られてきた有志の職人だったりと、出自は様々。

 ユウリなどは戦場に出られない事もあって、ここ最近は本当に暇を持て余しているのである。そんなユウリの様子を見に、手の空いたプレイヤーや後方支援に回っているステラ達が、頻繁に様子を見にやってきてくれているのだった。

 そんな彼らがユウリを連れ出し、この城で働く人々と交流させることで、無聊を慰めていたのだ。各国の王族が話し合いの中心の役割を担っているが故に、流石にこの城の城主だからと言ってユウリが出る幕はない。

 なので余計にやることが無くなっていたユウリには、丁度いい暇潰しになっていた。実際、人手はどこも必要だったし、何より力仕事を得意としているので、何かと重宝されていたのである。

 文字の読み書きや計算も出来るので、意外とあちこちの雑用で重宝されているのだ。


 誰もが彼をただ少し身なりのいい、難民の少年か、戦いに参加させて貰えない、駆け出しの冒険者くらいにしか見ていない。実際はこの天空城の城主ではあるのだが、それを話したところで信じる者など居ないだろう。

 なので極自然体で人々と話し、触れ合い、寝食を含んだ生活を共にしている。彼の補佐をするレムリアや従者などは非常に不満そうな表情をしているが、何も言わずに彼の好きなようにさせてくれていた。

 従者たちも自分たちの仕事があるので、それを疎かにも出来ずに指摘できなかった、と言う点も無いわけではない。レムリアも全体の管理や、この城に居る各国の王族への応対など、専門性のある仕事を任されているので、つきっきりでいる訳にもいかないからだ。


「そいつは良かった。俺は立場上、あんまり他の手伝いはさせて貰えないからね……」

「クロくんはちゃんと仕事があるから、それでもいいじゃないか」

「そう言われると弱いな」


 そう言ってクロトは苦笑する。彼は立場上、周囲との関わりは薄い方に分類される。第一に境界神の最高司祭と言う立場が、人々から自然と距離を取られている要因になっているのだ。

 彼は神官でもあるが故に、希少な癒し手であり、その力を揮う事を求められやすい。ユナも同様に神官としては破格の存在なので、仕方がない事なのだ。農作業の手伝いなども、彼自身の従者が応援で従事していることもあり、やんわりと断られてしまっている。

 そんな話をしていると、レムリアが玉座の間へと急いで入ってくるのが見えた。


 雌雄を決する、運命の日は近い。妖魔帝国軍の本隊が再び集結し始めたという報告が、ネクロから齎されたのだ。

 レムリアはそれをユウリに報せるべく現れ、彼女に続くように各国の王もこの玉座の間へと集まってきて、話し合いは再会する。


「二人とも。いよいよ悪魔ディアブロらしき存在が、こっちに近づいて来てるわよ」

「……思ったよりも早かったな。少し戦いが苦しくなるが……」


 ネクロの言葉に、クロトが少しだけ険しい表情を見せる。何故なら彼らプレイヤーが空を舞う悪魔の対処に追われると言う事は、地上の兵士たちへの援護が出来なくなると言う事だ。

 特にネクロとレイの二人は前線に補助魔法をかけて回っていただけに、それが無くなるのは非常に不味い。兵の死活問題に直結しているだけに、かなり深刻だ。

 プレイヤーにとってどれだけ相手が弱かろうと、数は力である。彼らで対処できる範囲を超え、地上へも攻撃を仕掛けてくるだろう。それにより多くの兵を失う事は、容易に想像できる。


「何かいい手は無い? こういう時に魔法の使い手が少ないってのは、とてももどかしいわね」

「うーん……あっ」

「ユウ君? 何か思いついた?」


 歯噛みするレイを見て、ユウリも何か手が無いか考えようとした時、ふと思い出したことがあった。

 それはゲーム中のギルド対ギルド用の、戦闘補助システムについてである。


「えっと、レムリアさん。この城のギルドバトル用の部隊強化システムって、今も使えそう?」


 そう言ってレムリアの方を見ると、彼女はしっかりと頷き返した。


「現在、この城の殆どの機能が、初期状態へと移行しています。様々な生産活動などにより、機能は徐々に回復しておりますが、それでも全盛期には遠く及びません。部隊強化システムによる魔法付与や能力拡大も、初歩的なものに限定されるでしょう」

「初歩的っていうと、どれくらい?」

「具体的には、付与ならば『エンチャント・マジックウェポン』と『リインフォース』、『カウンター・マジック』辺りとなります。拡大ならば『フィジカルエンハンス・ローポテンシャル』、『ストライキング』、『クイックネス』辺りでしょう」


 何やらとんでもない事を言い始め、各国の王は絶句している。魔法を、城の機能として兵に掛けられると言われて、意味が分からなくなるのも当然なのだ。そしてやはりこれは神の城なのだと、遠い目をしてしまうのも仕方がない。


「レムリア。部隊強化は一度に、どれくらいの規模をカバーできる?」

「……あくまでもギルドメンバーとその援軍の方用なので、そう多くはないと思いますが、範囲を指定しての行使は可能だったと記憶しております。ただし一度の使用では、どれほど多くとも数百人程度が限界かと」


 クロトの質問に、レムリアが一瞬考えるような仕草を見せながら、しかしすぐに淀みなく答えが返ってきた。


「数百人でも、かなり有難いわね。順々に掛けていけるなら、なんとかなりそう。それで、効果時間はどれくらい?」

「この城に蓄えられている魔力を使用しているので、今現在の地上の兵、全てに行き渡らせた上での維持となりますと、城の機能を現在のまま、更に負荷を増やすのならば……数時間が限界かと」

「それでも数時間もつのか……」


 一般的に強化の魔法などは数分から、どれほど長くとも一時間も持たない程度の持続時間である。それと言うのも個人から、個人に掛ける魔法だからだ。

 ネクロやレイのような存在は潤沢な魔力と回復アイテムにものを言わせ、対象人数を拡大して纏めて掛けると言う荒業をしているからこそ出来ているのであって、普通の魔法士ではまず魔力が持たないのである。

 それでも前衛にのみ掛けるのが精一杯なので、この城で全兵力にそんな補助を掛けようと言う方がおかしいのだが。だからこそ王達の表情は、気付かれない程度ではあるが、僅かに引き攣っているのだ。何もかもが規格外過ぎるがために。


 そして同時にそれだけの城をこの冒険者に神々が与えたと言う事実に、この戦いの困難さを改めて理解させられるのだった。





ティアキンやりたいの我慢して、なんとか……。次も間に合うといい、な……。

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