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第二百九十六話「邪神の一手」


 天を覆う禍々しい無数の影。されど今はまだ遠く。自分たちの欲望の為、それらは一斉に東へと動き始める。


 暗く静かな海。最早牢獄としての力を持たぬ大穴だけが、そこに残されていた。

 この意味を知る者が見れば、世界の終わりを予感しただろう。

 それは如何なる理由によるものか。静かに、蠢くように、滅びの時は近付いている。



「……やってくれたな、あの邪神」


 そう言ってクロトは、片手で軽く額を押さえる。邪神ジユムバークが何かしてくるだろうとは思っていたが、もっと迂遠な手を使ってくると踏んでいたのだ。

 しかし最も効果的で、最も直接的な手を使って来た。

 今の邪神の力では新たな仮初の身体も、別側面アルターエゴも作り出せないだろう事は知っていたのだ。だから妖魔の軍勢に多少の力を与える程度、周囲の魔物を活発化させる程度だろうと踏んでいたのである。

 だがその読みは完全に外れた。まさかこの世界に自身にさえも反逆した悪魔ディアブロを、虚無の大穴から解き放ったのだ。流石に不味いと、神々も様々な手を講じてはいるものの、虚無の大穴とその近海は今も力場が荒れ狂っており、上手く手が出せない。

 そのお陰もあって悪魔どもの動きはまだ鈍いものの、すぐにでも何らかの手を打つ必要があった。


「境界神としての力は……駄目だな。妖魔帝国軍の進路を封鎖する為に使った時とは、今回は規模が違い過ぎる。流石に境界神そのものの影響が、大きくなり過ぎてしまう」


 それほどの広範囲に、強大な力をこの世界に発現させようとすると、この世界の本来の神々の影響力が薄れる危険性が高くなる。そうなるとこの世界は境界神クロトが主神として書き変わってしまい、どんな影響が出てくるか全く予想が出来なくなるのだ。

 そして今の境界神にはこの世界の主神となるだけの力はあれど、そのまま世界を維持するだけの余裕はない。これがもう何百年か経った後ならば何も問題はないが、それとて境界神自身が望むところではないのである。

 そもそもこの世界の神々もそれを良しとはせず、無駄に軋轢が生まれるだけだろう。そうなると神として若い境界神と、この世界全ての神々との争いにまで発展しかねず、本末転倒になりかねないのである。


「そもそも悪魔が虚無の大穴から出てくるのを防ごうにも、こうも周囲が荒れ狂ってちゃ、絶対に力加減を間違える自信しかない」


 他の経験豊富な神々ですら手を出せない状態の海域である以上、慣れない事をすると事態を悪化させかねない。


「とにかく、今は情報を共有するべきだな」




 現状、天空城の内部は安全地帯として扱われている。空の上にあるので安易に魔物が近づけず、更に各種生産設備の恩恵によって兵站の補給も可能と来ている。

 クロトの従者であるセシルとエミルのお陰もあって、特に食料関係の調理と生産が加速度的に早く、そして美味しくなったのは大きいとの報告をユウリは聞かされている。

 特にユウリの従者であるヴァンパイアの少年クオンもその恩恵のお陰か、彼の農業アビリティも目覚ましい成長を見せていると言う。

 また【冥王】ネクロ・ノミコンの戦闘用ドール・サーバントである、キース・パーカーも調理のアビリティを持っていることもあり、更に食の品質が向上したとも。

 因みに料理好きでもあるネクロとユナの二人は、他の役割が忙しくて腕が揮えない事を、非常に残念がっていたが。


 武具の修復や強化も、ルグト王国から来たドワーフの職人たちのお陰で、かなり作業速度が上がったと言う。他にもセタジキス王国から有志の職人が力を貸してくれ、中にはユウリ達が世話になった鍛冶屋である獅子獣人のレガントの姿もあった。

 素材に関してもルグト王国とアトラシア帝国から送られてきた魔物の素材のお陰もあり、職人たちが嬉々として腕を振るっている。これによりユウリの従者であるドワーフの少年ラフトも、鍛冶の腕をメキメキと伸ばしているのだとか。

 また一部ではユウリ達プレイヤーが所持していた、ドラゴン等の強力な魔物の素材も提供されており、一部が狂喜乱舞しているらしい。徐々にではあるがこれらの装備も各国の兵士を中心に配布され始め、確実に戦力が強化されて行っている。

 セシルは調理だけでなく裁縫のアビリティも得意としており、天空城での裁縫関連を担うフェアリー少年のペーターに指導もしているらしく、こちらも順調に装備の生産や補修が進んでいるのだそうだ。


 薬品関係もヒールポーションとマジックポーションのような、即座に回復可能な魔法の治療薬の増産も進んでいると言う。

 また魔物との戦いで傷ついた重傷者は、優先的に天空城へと移送され、聖女ユナを始めとした治癒魔法を使える神官たちによって治療して貰えるのだ。

 それは死んでさえいなければ、例え手足を失っても短期間で戦線に復帰可能になると言う、戦場の常識を根底から覆すほどのものであった。このせいもあってか、ユナに再び注目が集まり始めているが、今は仕方が無いと各方面が諦めている。

 このように妖魔帝国の侵攻が本格化していない現状は、慌ただしくも比較的平穏であると言えるのであった。

 無論各国の経済活動には少なくない影響が出始めてはいるものの、物資の多くはこの天空城で賄っているお陰で、混乱は比較的小さい。しかし戦いが長期化すればするほど、状況が悪くなっていくのは間違いないだろう。



「暇だねー……」

「ユウリ様の手を煩わせずに済んでいる現状は、非常に喜ばしい事では?」

「……そうだね」


 玉座の間。ぽつりと呟いた言葉に、ドール・サーバントのレムリアが身も蓋もない答えを返す。

 この天空城の主である、ユウリは基本的に城から動けない。と言うよりも動くことを、禁じられていると言う状況に近い。最初の頃はスキルの訓練など、手伝えることはそれなりにあった。

 だが徐々に戦闘が本格化している現状では、その役割もやっている余裕がなくなってしまい、皆戦いに出てしまっている。

 他のプレイヤーたちは自分たちの立場や可能な仕事と言うものがあるので、物理アタッカーとして突出、特化しているユウリには何も担える仕事が存在しないのである。

 従者であるリザードマン男性のルドラも、今はこの城の警備を担っているので、訓練ばかりしている訳にはいかない。お陰で更に暇を持て余すだけになっていくのだ。


「でも、暇だよ……暇過ぎるー! 僕も戦場に出て戦いたーい!」


 玉座に座っているだけなど、ユウリにとっては耐え難い苦痛だ。

 今現在、プレイヤーは直接的な戦闘を禁じられている。ネクロやレイの二人は魔法による支援を、クロトとユナは治療を、ベリエスは所属しているヴォルデス王国での立場上、指揮官としてそれぞれの戦場に立っている。

 その中でユウリだけが、何も出来ないのだ。


 無論そんなことはなく、この天空城の存在もそこで働く従者たちも、全てユウリのお陰でもあるので、周囲からの評価は決して低くはない。それで納得できるようなユウリではないから、今こうして動けない状況にストレスを溜める事になっているわけだが。


「ユウ君。悪いけど、プレイヤーの皆を集めてくれるか? それと、各国の代表者も」


 突然玉座の間へとやって来たクロトが、少しだけ焦った様子でユウリにそう告げるのだった。


 クロトからの呼び出しを受け、それぞれが会議室へと集う。誰もが何事かと緊張を見せる中、ユウリだけは自分が動けるかもと少しだけ、期待を寄せているのであった。


「急な招集に応じて貰い、まずは感謝を。そして単刀直入に言います。邪神ジユムバークが、虚無の大穴の封印を自ら解いた」


 挨拶もそこそこに、クロトは即座に本題に入る。そこで告げられた内容に、多くの者達が困惑した様子を見せていた。


「クロトちゃん。それって何か不味いのよね? 具体的には?」


 周囲の困惑する様子を見て、ネクロが率直に問う。それを受けてクロトは頷き返した。


「知らない人の為に説明しますが、虚無の大穴とは神話の時代、邪神ジユムバーク自身が生み出し、反逆してきた悪魔ディアブロを永遠に封じる為に作り上げた牢獄です。その封印が解かれたと言う事は、無数の悪魔が世に解き放たれたのだと理解してください」

「なんだって!?」


 無数の悪魔が解き放たれた。しかも邪神ジユムバークの指示に従い、悪魔達は現在、大壁樹海の世界樹を目指してこの大陸に向かってきているのだと言う。


「もうじき、他の神々からも各神官へ神託が下る可能性は高い。そして多数の悪魔ディアブロが現れた以上、こちらも相応の手段で対抗しなければならないでしょう」

「それってつまり……?」


 誰もが表情を険しくする中、どこか期待するように、一人だけ場違いに瞳を輝かせるユウリ。

 そんな彼の様子を見て見ぬふりをしつつ、クロトは続ける。


「……戦いがより過酷になる。空から迫る悪魔の群れに対しては、一部の強者を中心に対処していくほかないだろう。……ユウリ殿。この天空城の管理で忙しい中、非常に申し訳ないが貴方も戦いに参加して貰う事になります」

「ううん! 全然ヘーキ! 僕、頑張るから!!」


 一応クロトとしても建前としては、申し訳なさそうにしている。のだが喜色を全く隠せていないユウリの返事に、各国の代表者が信じられないような視線を向けていた。


「残念ながらこの天空城には、戦闘設備が無い。なので敵を食い止めるためにも、空の敵へ対処できる者は、極力そちらの対処に回ってもらいたい」

「つまりアタシやレイ女王陛下も、地上の兵たちへの魔法の支援を打ち切って、この天空城から悪魔を迎撃しろって事でいいのかしら?」

「……残念ながら、そうなります」


 現在、前線の兵が比較的安全に戦えているのは、ネクロやレイのような強力な魔法士が、その魔法によって広範囲に魔法による強化を施しているお陰でもあった。それを打ち切ると言う事は、今まで紙一重で生き残れた者が、生き残れなくなると言う事。


 これまで以上に被害が増える事が予想され、いよいよ決戦は近いのだと、誰もが予感せざるを得なくなるのだった。


いよいよユウリ達も本格参戦なるか……?



もしも次回更新が無かったら、噂のティアキンに嵌っていると思ってください……。

出来るだけ早く、戻るので……。

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