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竜王に捧げるエルグラス  作者: 深谷 蒼
第1章 花嫁候補編
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12.互いの秘密(レオside)



「おやすみ、ルル。今日はしっかり休むんだぞ。」



 そう言って、俺はルルの頭を撫でた。サラサラとした彼女の淡いライトブルーの髪はとても気持ちいい。しかし目の前で頷くルルの金の瞳はとても空虚だった。きっと、今日のことを考えているのだと思う。氷の魔術師との話のことを。


 上の空状態のルルと後のことをリーザに任せると、俺は自室に戻った。堅苦しくない格好に着替えて、ソファに身を沈める。フッと息を一つつくと、俺はいつもの姿に戻った。夕焼け色とも言える赤茶の髪は夜色である暗い濃紺の髪に変わっていく。瞳は黄昏色と夜色が混じって濃い紫になった。この姿になると、いつもは抑えつけている竜王としての魔力が駄々漏れになってしまう。その魔力が作用しているからなのか、同じ顔に同じ声であるはずなのに、瞳と髪色と、流れ出る魔力の差――まあこれは雰囲気というものに該当するのだろうが――が違うだけで、レオ(おれ)が竜王だとバレたことは一度もない。さすがに親族は誤魔化せないが。


 俺はソファに深く体を預けながら目を閉じる。そして、ルルがこの王都に来てから今までのことを思い出してみた。






* * * * *




 王都に着いた旅馬車からルルが降りてきた時の民の反応はとても分かり易かったと思う。日の光に照らされたルルは、彼女自身の淡い色素のために、全身が美しく煌めいていた。それに見物に来た民の多くが、感嘆の溜息を漏らしていた。


 また、王城に向かうための馬車に乗る前にした彼女の行動も、民を驚かせていた。普通は、身分の高い者すなわち貴族が平民に礼をすることはないからである。俺はテナの村の領主が階級制度嫌いであるという話を何度か聞いていたから、ルルの行動に驚くことはなかったが。おそらく、誰にでも礼を失することのないように躾けられてきたのだろう。グローリア様もその手の御仁であるし。


 そして、俺は旅の間にルルの力についておよそ見当がついていた。最初に力を見たときは、草についていた露しか確認できるものがなかったため、水系かと思っていたのだが、それはどうやら氷が溶けてできた露だったらしい。何度かルルに触れるうちにそれが分かった。彼女は氷雪系なのだと。


 氷を扱う魔術師はこの世に数人しかいないことは知っていた。以前から一度話を聞いてみたいと思っていた俺は、丁度氷の魔術師の居場所を探していたところだった。しかし、王城の自室に着いて早々にその魔術師が王都にいるという情報が飛び込んできたのは完全に予想外のことであり、いくらルルとの約束があるとはいえ、幾らかの警戒をしていた。魔術師を訪問する時期はもう少し後にしようと思っていたのだが、ルルが不安がっているという情報がリーザから上がってきたため、俺はルルとの約束を果たすことを決断する。前日はルルの安全を確保するために、俺は遅くまでかけて当日の計画を練っていた。自室で集中していた俺の耳に、不意に野太い声が届いた。



「なんだなんだ、随分と熱心じゃねえか。」



 聞きなれたその声に顔を上げると、そこには案の定グレルが立っていた。この体格の良い武人は、濃紺と赤茶で彩られた肩までの長めの髪を、いつも低い位置で一つに纏めて背中で揺らしている。


 ただし、奴が今のように自身の翡翠色の目を細めながら俺に話しかけてきた時は、言葉に他の意を含ませていることが多い。グレルもリーザと同じく俺の従兄弟だ。俺の父方の叔父の息子がグレル、母方の伯母の娘がリーザである。グレルもリーザも見かけよりずっと聡く、さらに二人は言外に意を含める時には目を細めるという共通の癖を持っていた。



「言いたいことがあるなら言え。」



 その癖を知っていた俺は、素直にグレルにそう言った。類推しても良いが、あの時は類推する時間さえ惜しいと思っていた。今になってみれば、ルルという花嫁候補がいて、さらに俺がいる時点で、護衛その他の観点から行動計画のパターンなどほとんど絞り込まれているというのに、護衛に穴はないか、絶対の安全が保障されているかをどうしてあれほど何度も確認していたのだろうか。我ながら苦笑するしかない。


 グレルもそう思ったのだろう。応える声は少し呆れを含んでいたように思う。



「いや、なんつーかなぁ……。ま、やっぱなんでもねえよ。そういえば新しく来た姫さんはお前が護衛してきたんだろ? 田舎の姫さんだそうだが、今頃どうだ、王城にきてはしゃいでんのかね。ここじゃ視界に入るもの全てが一級品だからなあ。」



 そう言われて、俺は自室に案内された時のルルを思い出した。彼女は割り当てられた自室を見て驚いていた様子だった。あの様子ははしゃぐという部類のものではなく、気後れという部類のものだと言えるだろう。


 ちなみにルルにリーザをつけたのはもちろん俺の人事だ。他の花嫁候補との間で話がややこしくなるとかなんとかレヴィーがぼやいていたが、俺はルルには後ろ盾がないからと押し切った。ルルは知らないだろうが、この城内においてリーザの出自を知る者は多い。そしてリーザのその出自は有力な後ろ盾になり得る。リーザの出自に関しては、リーザ自身が適切な時期に自分で話すだろうと考えているから、俺から明かす予定は今の所一切ない。実は俺の素性も近いうちに、ルルに教えようと思っていたのだが、彼女に敬遠されるかもしれないと考えた途端、その決心が鈍ってしまった。



「なんにせよ、どっか行くならきちんと俺を通してくれよ。また馬鹿みたいな量の反省文を書かされるのは御免だからな。」


「ああ、分かっている。悪かったな。」



 俺はグレルの声で我に返った。そのままグレルを見上げようとしたが、奴にとってはそれが捨て台詞の一つだったようで、グレルはもう俺の自室から姿を消していた。


 軽く息をつくと、純金で出来た師団長のバッジが目に入り、この話をすることを忘れていたことに気づく。奴を呼び戻そうかとも思ったが、俺の護衛はどの道奴にしか務まらないため、次に会った時でいいという結論に達した。次に会った時がルルがいる時で、しかもあれほど彼女に絡むとは思っていなかったが。ルルに奴が絡んだ時、心底この時呼び戻せば良かったと思ったものだ。


 そして迎えた翌日。部屋までルルを迎えに行ったが、ルルの顔色はこの時から少し悪いように思った。と言っても彼女の色素は全体的に薄く、元々肌も雪のように真白いため、顔色が悪いというのは実はよく分からない。纏う雰囲気がいつもより暗かった、という方が合っているかもしれない。


 少し街中を歩くと研究棟に着いた。そこからさらに受付を済ませてからエレベーターで氷の魔術師の部屋に向かう。さすがにまさかこんなところでいきなり攻撃魔法を発動したりはしないと思うが、相手は500年生きているという噂の凍れる道化師ウィル・ボナードだ。油断はできなかった。俺はルルより先に進み出て、ノックしようと手を掲げる。


 しかし、その時ルルが明確な意思を持って俺を制したため、俺は大人しく引き下がった。彼女はあまり自分の"したいこと"を表に出さないように思う。だから彼女が自分で望んだことは、できる限り叶えてあげたいと思っていた。


 ルルのノックの後、扉は魔力によって開かれた。俺たちが軽く挨拶をすると、凍れる道化師のウィル・ボナードは



「ん〜? 残念だけど、キミに話すコトはないなァ。強いて言うコトがあるとしたら、ルル=アレクスファーをキチンと守ってやるンだねェ。」



 と言った。今でも、彼の言葉の真意は分からない。しかし彼の言葉は軽視できないのも事実だ。俺よりもずっと長く生き、歴史を見てきた彼の言葉は重い。どういうことだ、と聞いてもはぐらかされてしまった以上、彼の言葉を尊重し、俺にできることを最大限するしかない。


 その上、ウィル・ボナードは俺の秘密に気が付いている。昼の俺を仮の姿だと分かっているらしく、彼の言葉は俺が以前から思っていたことの核心を突いた。



「ボクは本音しか話さない。なのに本音で話す者に偽りで応えるのは失礼だと思わないかい? それじゃあWinWin(ウィンウィン)にならないもんねェ。だから誠意がないなら話す必要なんてないと思っても仕方ないデショ?」


「……。」


「ああ、違うか、偽りとはまた違うよねェ、これは失礼! まぁ要は、本音には誠意をってコトだよ。ささ、無駄話はこの位にして、キミはサッサとこの部屋から出てってくれるカナ? ダイジョウブ、誓って彼女に危害は加えないからさ。もちろん、何か不測の事態が起こったとしても、ボクの命よりも彼女を優先して守ることを約束するよ。」



 俺には偽りで応えたというつもりはない。しかし、他者はそう思うかもしれない。いや、そう思う者がいて当然だろう。明かす情報量を公平(フェア)にしてお互いの利益を守るWinWin(ウィンウィン)云々の話ではなく、本音の話はお互いに隠し事のない、相手との関係そのものが公平(フェア)であることが必要だとウィル・ボナードは言っているのだ。


 俺はフッと息を吐いた。あの場で突然、いつもの姿に戻るわけにもいかなかったのだ。話の方は諦めるしかない。ルルの貴重な時間をこれ以上この問答に費やすわけにもいかないだろう。


 ルルの頭に手を乗せて、壊れ物に触れるように優しく撫でた。俺は彼女に観念した旨と安全は保障されている旨を伝えて、俺は部屋を後にした。


 ウィル・ボナードの部屋を後にして廊下へと戻ってくると、どこからともなく、俺よりもずっと体格の良い武人が音もなく現れる。翡翠の瞳に、類稀なる色彩の地毛、どれもこれもが人間離れしているほどよくできていた。そのグレルは瞳に訝しげな色を滲ませながら俺を見下ろしている。



「……お前、何か変わったな。」


「そうか?」



 変わった、と突然言われた俺は、思わず疑問符をつけて返した。今もそうだが、俺には全く自覚がないし、変わったつもりもない。けれどグレルから見た俺は、変わってしまったらしかった。グレルは俺の疑問符を拾い、頷きながら話を続ける。



「ああ。旅したからかもしれんが、人間臭くなった。別に悪いことじゃないと思うが、あまり情に流されるなよ。俺らは血を流す選択を、これから先何度もする羽目になるだろう。だがその度にいちいち人間らしく悩んでたらやってらんねーぞ。物事の好機を逃しちまうかも知れねえしな。」


「そういう、つもりはないんだがな。お前の方こそ、今日はやけに饒舌だな。普段は俺のすることに口を出さないのに。」


「いつものお前らしくないから心配してやってんだろーが、ったく。……で、あの姫さんをどうするつもりだ?」


「ルルのことか? ……気になるか?」


「惚けんな。どうしてあの子を王都に連れてきた? お前だって、王城がどれだけ下劣な場所に成り下がってるか知ってるだろ。ここは田舎しか知らないあの子には酷すぎる。そしていつものお前なら、それを考慮して適当な娘を選んできたはずだ。あの王城に放り込んでも比較的問題のない娘を。」


「……。」



 俺は顔をしかめながら、グレルの横を通り過ぎて歩き出す。行き先はこの研究棟の設備の一つである中庭だ。


 分かっている。いくらテナの大災害を経験したとはいえ、ルルはまだ幼く、そして王城について何も知らない。ルルを王都に連れていくことを説得していたあの夜、俺はそれを確信した。



『この国の人みんなが、竜王様を大切に思っているわ。』



 その言葉を聞いた時、彼女は必ず連れて行かなければと思うのと同時に、彼女は何も知らないのだと思った。彼女の言ったことは、もう随分と過去の話になってしまったのだ。むしろこの言葉を聞けたことに、まだ竜王を大切に思ってくれている者がいたのだと知ったことに、ひどく驚いたのを覚えている。そしてそれが当然だと言うかのような彼女にもひどく驚かされた。


 もうその考えを持つ者は、王城に誰一人としていない。この大陸が竜王の名の下に統治されてから千年以上の時が流れ、民は竜王が与える恩恵を当たり前の物として受け取るようになってしまった。政を執り行う議会には、長く安寧をもたらされたことによって、腐敗してしまった者が大勢いる。


 俺は、彼らは牙を削がれてしまったのだと思っている。議会の者は皆、名家の出身だ。高潔さで有名だった家、賢さで有名だった家、勇敢さで有名だった家……と様々だが、腐敗した者たちの家が元から腐敗していたわけではなかった。千年以上前の話になってしまうが、昔の彼らは安寧を求めて、気高く牙を振るっていたのだ。


 俺は歩きながら肩越しに目線を投げて、グレルが後ろからついてきているのを確認してまた前を見据えた。


 とにかく、そういった王城のややこしい事情はともかくとして、千年の間に腐ってしまったのはその議会の者たちだけではないということを、グレルは言いたいのだと思う。そして彼は、その腐敗の元である王城にルルのような純粋な娘を置いておくことに反対なのだろう。


 そこまで考えた時、ようやく中庭に着いた。魔力による電灯ではなく、空から降り注ぐ太陽の光が辺りを照らしている。眩しいな、と俺は素直に思った。



「……グレル、今の竜王には、側に一人でも多くの信頼できる者が必要だ。王城では俺が必ず守ってみせるさ。」



 俺は強くそう言うと、中庭に備え付けられた椅子に座り、隣に座るようグレルに目線で指示する。中庭は庭師によく手入れされているらしく、美しかった。ただ棟の魔術師らは、この時間帯は研究に勤しんでいるのか、中庭には俺とグレル以外の気配はない。


 グレルはその巨体をドスンと椅子に落ち着かせると、どこか遠くを見るような目をしながら、虚空を見つめて言った。



「賛同はできるが、分からねえな。お前が彼女を振り回して傷つける可能性だってなくはないじゃねーか。まだあのこと言ってないんだろ?」


「ああ。だが明日言うつもりだ。」


「まあその後彼女がどうするかはお前の対応次第ってとこだな。言っとくが簡単じゃねえぞ。何しろ俺は今までの花嫁候補は、この王城に放り込んでも問題のないような欲深い女を選んできたんだからな。」


「分かってる。対策はするさ。もし話を聞いた彼女が心底帰りたいと願うなら、俺は帰してやるつもりだ。」



 そこでふと会話が途切れる。ルルのことを考えると胸が痛んだ。帰る、と彼女が俺を拒絶するのが怖い。黙っていた俺も俺で悪かったが、外で身分を明かすわけにはいかなかった。今となってはただの言い訳でしかないが。


 彼女が帰ると言わなくても、万が一に、俺の側にとどまってくれると仮定しても、俺はきっと彼女にこれからたくさんの無理を強いるだろう。けれど、一度とどまると決めたなら、彼女は文句一つ言わずに、その無理を耐えるのだろう。そして、明日俺の身分を明かしたら、彼女はきっと俺との距離を変えるだろうとも思う。そのことがとても痛い。


 結局、ルルが選択することそのものを俺は怖れている。せめて王城にいる間は好きにさせてやれればいいのだが、あそこはもう安全な場所ではないのだ。腐敗の根源というだけあって。


 俺は眩しいと感じた空を見上げた。青い空に、細く白い雲が流れている。100年、竜王がこの世に生を受けてからもう100年だ。それだけの時間を消費しても、竜王たる俺はまだ迷っている。



「……なあグレル、俺らは一体何のために人に手を貸すんだろうな。腐敗していくやつらのために、いやそもそも彼らの牙を削ぐために、力を貸したわけじゃなかったはずだ。」


「そうだなあ。お前の爺さんにも、思うところがあったんだろうさ。まあお前にもそのうち話してやるよ。」



 おや、と俺は思ってグレルを見た。虚空を見つめるグレルの顔は、冗談を言っているようには見えない。本当に理由を知っているようだった。そしてそれを今話す気はないということも分かった。しかし、分かっていても大人しく引き下がることは出来ず、俺は返答を知りながらもグレルに向かって呟く。



「……今話せばいいじゃないか。」



 少し拗ねた調子になってしまったのは、自分でも自覚した。小さい頃から従兄(にいさん)として長く付き合ってきたが、こういうところは昔のままだ。脳筋に見えて実は頭の回転がはやく、効果的な手札を最も効果的な場面で使ってくる。


 一応、頭の回転に関してはもちろんレヴィーの方が上ではあるが、やつは回転がはやすぎてそもそもまともに話ができないから、やはりこういった込み入った話をするのはグレルの方が多い。



「がっはっはっは。これはな、とっておきの切り札なんだ。というか単純に、今のお前に話すのは時期尚早ってこった。言ってもまだ理解できねえよ。俺から見たらお前なんてまだガキもガキだからな。」


「グレル、口が過ぎるぞ。」



 しかし、このようにグレルの場合ははぐらかされることもしばしばある。そこが難点といえば難点だ。レヴィーと違って、意図的にはぐらかされているというのが分かってしまうから。


 俺は追求することを諦め、仕返しとばかりにグレルを睨みつけながら厳しいことを言ってみたが、奴は虚空に置いていた視線をこちらに戻し、先ほどの豪快な笑いの時と同じ笑顔で、俺が辟易するような言葉を口にする。



「可愛い従弟(おとうと)に凄まれても、全然怖くねえや!」


「……はあ。」



 俺は思わずため息をついた。そしてそのまま会話が途切れ、風が吹く。俺らはそのまま、ルルを迎えに行く時間になるまで、お互いに考え事をしながら過ごした。


 時間になってルルを迎えに行くと、あの凍れる道化師と随分打ち解けていたようで驚いた。彼女にとって、頼れる人物が増えたのは喜ばしいことだが、少しの嫉妬とも取れる感情が俺の中に芽生えた。しかしこの嫉妬は彼女のためにならないと、大急ぎで胸の内に押し込める。


 ルルに城へ帰ろうと促すと、素直に俺に従った。しかし、彼女は考える事が多くあったのか、帰りの馬車の中ではずっと外の景色に視線を投げていた。その金の瞳は黄昏の光を受け止めるわけではなく、ただ反射していると取れるほど空虚で、俺には掛ける言葉がなかった。明日、真実を告げるということ、つまり今まで隠し事をしていたという負い目が、俺の口を閉ざしていたのだった。






* * * * *




「……明日、か。」



 俺は小さくため息を零した。ぼんやりとした蝋燭(ろうそく)の灯りが、俺の濃紺の髪を照らす。周りがとても静かなのは、消音の魔法を掛けているからだ。俺は生まれ持った魔力のお陰で、氷の魔法のような特殊なものでなければ、大体の魔法は使いこなせる。それ故に、魔力を嗅ぎ分けるのも得意だ。


 俺はそっと目を閉じて、自分の扱えない魔力の出所を探った。ある一室で、寝ているせいか静かに鼓動する魔力。俺がほんの少しですら扱えない魔力は氷の魔力だけだ。だからその魔力の出所はルルのものということになる。


 ルルの魔力の鼓動を感じながら、俺はまた呟いた。



「明日……。」



 俺は卑怯だと思った。次から次へと、ルルの気持ちを押し切って彼女を説得する案ばかりが湧いてくる。俺は己の姑息さに眉を顰めながら、自分の意識を闇へ落とした。


 だが、ルルには知ってほしいと思った。汚い手を使う気は更々ないが、そんな気を起こしそうになってしまうほどに、俺は彼女を必要としているのだということを。そしてそれを悟ってしまった俺も、もう腹をくくることしか出来なかった。




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