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もう一つの太陽  作者: 朝来夕帰
第一章 Days of the Ultra Utopia
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第六話   手段

 この街の二大地区を繋ぐ、森地区を縦断するように跨ぎ架けられた大橋。

 その中央で、雨の中二つの勢力が睨み合う。

 政府の兵士と反政府組織との、街の存続を賭けた闘いが始まる。

 エボニー地区を背にする政府の目的は総司を守り、計画を断行すること。

 アイボリー地区を背にする反政府の目的は総司を捕らえ、計画を阻止すること。


 そして、この街を周辺諸国の制裁から守ること。


 緊張感に耐えかねたのか、亜沙日はぎこちない笑顔でつぶやいた。


「この戦いが終わったら俺、バイオロジストさんに会いに行くんだ」


「縁起でもない、集中しよう」


「はい」

 未来の柔らかな叱責を受け彼は背筋を伸ばした。



 戦が始まる。

 前線は両陣営が混じりあい、歩行者デッキは戦場と化す。

 が、ものの数秒で一部の兵士はうめき声を上げ始めた。


「リーダー!? これは一体……!?」


 思いもよらぬ戦況に、亜沙日は少年に尋ねる。


「心苦しいが、我々の作戦が彼らの死因の恐怖を逆撫でしている」

「やはり……スパイの情報通り、あのゴーグルは視覚情報に制限をかけている」

「恐怖の世代は表舞台に立つとき、不慮の事故を避けるためにゴーグルをつけるが、あの兵士が付けている物はそれを流用したものとみて間違いない」



 限界を超える出力の強化骨格による俊敏性を活かし、兵士を攪乱。

 死角から兵士のMRゴーグルを取り、手を見せることで戦闘不能にする。


 形勢は、大きく反政府組織に傾いていた。


「要するに、彼らは恐怖の世代の……死因の恐怖を遺伝した人たちだ」

「手段は選んでいられない。限られたリソースで彼らを傷つけず圧倒する、唯一の方法だ……」


 リーダーの弱気な吐露に感化され、亜沙日は俯く。


「恐怖の世代も……彼らも……何とか……直せないかな……」


 亜沙日の何気ない一言に、少年は拳を強く握る。

 その手からは、血が一筋滲んでいた。


「……彼らが……僕らの家族を返してくれるなら」

「……しかし……失われた十年は……!」

「僕の父さんは……! クっ……!」


「脆いものなんだ……! 僕らを支える正義なんて……!」



 亜沙日は、リーダーの険しい顔を見て強い罪悪感を感じた。

 心の底から身に覚えのない自責の念が湧き上がった彼は涙をこらえ、たまらず空を見上げる。


「……あれ、空から何か飛んでくる……?」

「リーダー!! あれ!!! 強化骨格か!?」



 鎧のような装備で全身を包んだ男が上空から現れる。

 戦場の中央で片膝を立て、拳を叩きつけて着地し


地面に大きな亀裂を生んだ男は叫ぶように挑発をした。


「僕が欲しいか! ならばつかまえてみなさい!」


 朝来総司だ。


「……ふっ!」

 彼の死角に潜り込んだ漆黒のボディスーツの女は、強化骨格の隙間を狙うようにスタンロッドを突き出す。


「フン! 遅い!!」

 背後の情報も知覚していた総司は、ボディスーツの女の奇襲をかわし腹に膝蹴りを入れる。


「ぐうゥ……ッ!」


「スパイ!!」


 彼女は腹を抑え、突っ伏してしまった。

 少年は倒れ伏したスパイに駆け寄ろうとするも、強化骨格の男に遮られる。


「次は君だ。神崎理人(かんざきりひと)……君の噂は聞いているよ」

「体に合わない強化骨格を着た、この街で一番チャンバラが上手いガキ」

「評判通りの実力ならば、加減は出来ないぞ?」


 大切な仲間を傷つけ、なおもニヒルに笑う総司の口角。

 男の不遜な態度に、少年の怒りは最高潮に達する。


「これまでの作戦にかけた物資……時間……僕たちの熱意……!」

「その全てがお前を止めるためにある……!」

「無駄だ!! 何もかもリソースがもったいない!!」

「炉の前に、貴様から稼働を止めてやるぞッ! 朝来総司ッ!!」


 少年の怒号に、戦場は静まり返る。

 二つの影が、睨みあっていた。


「ふん、わざわざ遊びに来てやったんだ。感謝しろよ……」


 男の苦言を合図に、少年は地面を蹴った。

 総司はそれに対応するようにまた地面を蹴り、大橋の亀裂をより大きなものとした。

 二人のすれ違い様に、ワイヤーブレードが大きな弧を描く。

 刹那、双方の武器が砕け散り、倒れたのは、少年だった。


「……! クソッ……!」


 膝をつき、地面に伏す少年。


「リーダー……! そんな……!」


 唸るような声で、スパイが嘆く。


 戦場は一人の開発者による独壇場となった。

 全てを粉砕するように、総司は予備のワイヤーブレードを振り回す。

 彼はその状況を見ることしかできなかった一人の少年、亜沙日に襲い掛かる。

 総司のワイヤーブレードによる横薙ぎは、亜沙日の防御も虚しく骨の軋む音を響かせ、彼の体を吹き飛ばす。


「やあ! 講義の続きを聴きに来たのかい?!」

「この痛み、是非教訓にしてみたまえ!」

「死んでも生き返るから。お金があればね!!」


 倒れ込んだ亜沙日を跨ぎ立ち、今に振り下ろさんと剣を構える総司。

 亜沙日の胸当てに剣先が通る刹那。


 一振りの槍にワイヤーブレードは遮られた。

 前線深くで戦っていた未来が、この異変に駆け付けたのである。

 彼女は、朝来総司を強く睨む。


「この人はもう、二度と死なせない……!」


「また君か! まあいい。遊んでやるよ……」


 自身の強化骨格を上回る総司の力。

 それでも未来は柔軟に攻撃を捌く。


「銃は使わないのか……!」


「折角遊びに来たんだ! まだ楽しませてもらうよ!」


 未来は、持ち前の集中力で総司の手元に集中し、目にも止まらぬ速さで繰り出される彼の剣筋を難なく見切る。


「その油断が仇となる!」


 回避行動を織り交ぜながら、四方八方から槍による攻撃を次々と叩き込む未来。突き、薙ぎ払い。二つのシンプルな攻撃は総司の全ての防御手段をあざ笑うかのように、かわいがるかのように叩き潰し、


男の纏う強化骨格は頭部のみを残し全て破壊された。


「……小賢しい!!」

「ちょこまかと……!! 何度も何度も僕の前で……!!」

「この分を弁えぬ愚鈍なネズミが!!」

「僕の世界に紛れ込んだだと!?」

「到底無視できない!! 即刻ご退場願おう!!」


 総司はままならない怒りからワイシャツを捲り上げ、腰に装備した銃を見せつける。

 自身の死因である銃が目に入った未来。

 不意を突かれた彼女は、大雨のような汗を流し、戦慄していた。


 目の前の男に、これ以上屈服するわけにはいかない。何も恐れることはない。銃なんて、見てから避ければいい。彼女は、自身の防衛本能が必要以上に警報を鳴らしていることを自覚する。武器を構え直し、朝来総司を睨む未来。悪天候の陰鬱な暗さを考慮してもなお、大きく、大きく開かれたその瞳孔はまるで、宇宙空間を思い起こさせるドス黒さに支配されているようだった。


 しかし、抵抗もむなしく、彼女の手から槍はするりと落ちる。



(……何も怖くない。なのに……)


 自身の精神状態に困惑しうつむいた彼女の首をつかみ強引に持ち上げる総司。



「君が現れたのは……! 思えばあの女が現れた後だ。奴がどうしてか僕の炉を暴き……! 僕の邪魔をした……! 何故だ……! 何故……!」


「あいつはいったい何故ェェェッッ!!」



 男の手に青い血管が浮かび上がった時、彼の掌に小さな衝撃が伝わる。


「おっと……しまった……」


 未来は、一切の抵抗を見せることなく、硬い地面に堕ちた。


 横殴りの雨が勢いを増した。アイボリー地区とエボニー地区を結ぶ大橋を激しい雨風が包みこみながら、戦場を漂うのは沈黙。



 誰もが目の前で起きた惨劇を信じようとはしなかったが、その場を去ろうとする総司の前に亜沙日が立ち塞がり、




 その手は、段々と震えていった。



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