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もう一つの太陽  作者: 朝来夕帰
第一章 Days of the Ultra Utopia
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第五話   口実

 エボニー地区の作戦から翌日、反政府組織は亜沙日らが住むマンションの地下にある、テニスコートほどの大きさの会議室に集合していた。打ちっぱなしのコンクリートの壁にもたれかかった亜沙日ら三名は、先日の作戦を改めて振り返っている。


「結局、開発者の野郎は何を作ってるんだ……?」


「核融合炉だと。嘘みたいだけど」


 スパイは未来の顔を一瞥する。


「うちらも未来が持ってきた情報だから信じてるだけ。ただ、その情報が本当なら……」

「確か……この街って……一度……」


「あー、350年前の……あれか……」


 VR空間でよく遊ぶ海外の友達に教えてもらったこの街の歴史。かつてこの街は、国連による武力制裁を受けており、それを思い出した亜沙日は眉間に手をやり、目を固く閉じる。


「あの人の言うことは、本当だと思う。じゃなきゃ、あそこまで取り乱して泣くわけないもの」


未来の手に自らの手を重ねたスパイは静かにつぶやく。


「……あれから接触はないのか?」


「うん……亜沙日くんみたいな雰囲気で、長髪のキレイな人だったから、探せば見つかると思ったんだけど……」


 彼女の言葉に、亜沙日は何かを思い出した様子だ。


「その人、うちに来た人かも……」

「うちの子を殺しましたかって……もしかして……!?」


 動揺する亜沙日に未来は語り掛ける。


「でも、あの人の見た目はどう見ても私より年下か、同じくらいだよ」


 スパイもまた、訝しげな表情を浮かべた。


「……なんともいえないな……」

「その人の事も気になるけど、まずはどんな手を使ってでも朝来総司の野望は食い止めないと」

「どんな手を使っても……」


 スパイは二つの戦慄した顔を思い出していた。ひとつは、モデルガンを見て戦慄した未来。もう一つは、自分の手を見て怯える老人たち。


(……許せるわけがない……だけど……)


 左手で両目を覆ったスパイは、小さくため息をついた。


(何やってんだ……)



 三人が話し込んでいると、両手に薄く湾曲した白い板を持ったリーダーが現れた。少年はどこか高揚感を隠し切れないのか、唇の端をキュッと締めて、笑顔を押し殺している。


「みんな、発注していた強化骨格が届いた。社長が言うにはフラッグシップモデルの改良版で、未だ公表されていないものだそうだ」

「わかるか? この軽さ。これは全身に装備せずとも身体能力を向上できる、胸筋を中心に筋肉を刺激するタイプだ。かっこいいだろう? まだまだ語りたいが、今後の作戦のためにまずは未来さんにレクチャーしてもらってくれ」


 少年は亜沙日にズイっと近づき、その顔を見上げる。


「は、はい」


 リーダーの早口に圧倒された亜沙日は、胸当てを手に、様々な角度からのぞき込んでいた。




「すぐ慣れるよ」新品の紅のパーカーに身を包んだ未来は、肩をほぐすように回しながら自身の強化骨格を手に取る。


 彼女の背中からひょっこり顔を出したスパイはニヤついた目で亜沙日に、


「これを着た未来はすごいよ」

と自慢する。


 未来は得意げに微笑する。


「……照れるね」


「脱いでも凄いよ」


「……照れ……今なんて?」未来は首を傾げる。


 無意識に溢れ出た己の失言に、スパイは慌てて口を手で塞ぐ。


「は、ははは」


「何でもないですよ」


 亜沙日は苦虫を噛み潰したような顔をスパイに向け、その視線を受けたスパイは申し訳なさそうに肩をすぼめる。


 そんな二人に構わず、未来はレクチャーを開始した。


「じゃ、私のやってる通りに装備してみて……真ん中のくぼみを触って。君の指紋を認証するから」


(いつ登録したんだ)亜沙日は訝しんだ。


「……おおお……! か、体が軽い! まるで若返ったみたいだ!」


「はっ、何歳だよ」


 強化骨格を装着し、子供のように飛び跳ねはしゃぐ亜沙日に、思わず笑うスパイ。


「じゃ! 早速実践で試そうか!」


 自身の武器である伸縮性の槍を構えた未来は、意気込んで亜沙日を見据える。


「お、押忍!! こーみえてMR格ゲーでそこそこ鳴らしてたんで!」


 2人の間に、緊迫した空気が漂う。


「……流派は……?」


「……闘り合えばわかる……」


 亜沙日は脇を閉じ、顎の前に拳を構えた。


「その構え、ボクシング」


「闘り合わなくてもバレてる……」


「君の実力を試したいから手加減なしで行くよ。安心して、怪我はさせない」


「そうそう! 胸を借りるつもりでやんな!」


 スパイの歓声を号令代わりに、亜沙日は静かに踏み込んだ。


「よし! いくぞ!!」


(シャドーステップ……いい速さだ)


 槍による突きを放つ未来


軸足を活かした最小限の動きで躱す亜沙日


(反応速度も……理想的。ゲームとはいえ、VRも侮れないな)

(だけど……!)


 彼の動きを頭から見切っていた未来は、


攻撃を仕掛ける亜沙日の前に穂先を置いた。


「うお!! み、見えんかった……参りました……」


 驚いた亜沙日は尻もちをつく。


 構えを解いた未来は、満足げに笑う。


「ううん! これなら次の作戦は楽勝だよ! 少なくとも死ぬことはないね」


「ははは……強化骨格様々だあ……」


 亜沙日は真っ白な胸当てに手を当て、ため息を付いた。



 装備を手入れしながら彼らの様子を見ていたリーダーは、亜沙日について考えていた。


(亜沙日さん、スパイから聞いた通り、随分乗り気でいてくれている)

(ありがたいことだ……だからこそ、僕らの因縁で彼を傷つけさせるわけにはいかない)



 眉間にしわを寄せる少年。

 彼の緊張した様子を察したのか、少年の横にスパイが座る。


「リーダー。調子はどう?」


「ああ、心身ともに、落ち着いている。このワイヤーブレードも、大事をとって新調した」


 彼が手に持っているワイヤーブレードと呼ばれる武器は、剣身がワイヤーになっている非殺傷武器であり、街の防衛システムに感知されない装備として警察機関に採用されている。

 ギターの弦を交換するようにワイヤーを差し替えるだけで強度を保てる仕組みだが、少年は本体となる部分ごと刷新していた。


「物持ちいいリーダーが珍しいね……うちもバッチリ。場所が場所だから、カモフラはまだ迷ってるけどね」


「そうか、だが問題ない。今回の作戦は人海戦術、奴の介入がない限りはこちらに勝算がある。スパイも……協力してくれる亜沙日さんも僕が守ってみせる」


「へへっ、頼りにしてます」


 コンクリートに包まれた講堂に次々と人が入ってくる。

 少年から壮年の男性まで、幅広い層の構成員が一堂に会した。

 全ての人員が揃ったことを確認したリーダーは、自身の姿を天井のプロジェクターから壁一面にミラーリングし、号令をかける。



「さて、みんな! ブリーフィングをするから、静粛に聞いてくれ!」

「今回の作戦のため、我々はあらゆるリソースを注いできた!」

「明後日、僕らは歩行者デッキを正面から突破し、エボニー地区に対し反政府組織として名乗りを上げるわけだが」


「必ず市長の抱える兵士と衝突を起こすことになるだろう!」


「皆! 作戦は把握しているな?!」


 地下施設にハッ!という声が響く。



 リーダーのそばで大勢の掛け声を浴びた亜沙日の頭に小さな疑念が浮かぶ。

 彼は、静寂の隙間をすり抜け、その疑問を少年にぶつけた。


「リーダー。そろそろなぜあんたらが反政府組織とされているのか、教えてもらっていいか?」


 不意の質問に少年は一瞬考えこみ、亜沙日のために語り始める。


「奴らは……」

「僕らの両親を、十年も幽閉している」

「奴らの暴政に反発した官僚。それが僕らの家族、友人、同僚だ」

「ならば、僕らも反発するのが筋だろう?」

「君にも手伝ってもらう、僕らの家族の解放を」


 腰の位置でこぶしを握った少年。

 その様子を見て、亜沙日は茫然ながら賛同した。


「そりゃまあ、家族は大事」


 静まりかえる講堂に再び熱を注ぐように、少年は声を張り上げた。


「……みんな! 改めて思い出して欲しいのは、この案件は街の存続にも関わるという事だ!」


「開発者が政府の実権を笠に! 秘密裏に核融合炉の開発をしている事実が明るみになるならば! この街は忌まわしき350年前の歴史を繰り返すことになる!」


「必ず奴を捕らえ! 奴らの暴政を終わらせるぞ!」


「「「「「オオーッ!!」」」」」


 一同の声が反響する。



 彼等の決戦は、確かにここから始まった。



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