表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
芸ノ譚 ー灰に舞う琴音ー  作者: 宮山悠
第一章 布石ノ盤

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/8

第六話 初迎宴ー上ー

初迎宴の会場である大殿は、宮廷の中心にふさわしい荘厳さだった。

天井高く金箔の龍が舞い、朱塗りの柱が立ち並び、壁面には四季の花鳥風月を描いた巨大な壁画が広がっている。

中央の壇では楽師たちが静かに琴と笛を奏で、優雅な調べが殿内に満ちていた。

長テーブルには珍味が並び、黄金の器が燭台の炎に照らされて輝いている。

すでに宮廷の要人たちが着席していた。


玉座の近くでは、数人の宦官たちが静かに控えていた。

彼らは一様にひげのないつるりとした顔をし、声は高く細い。

動きは素早く、しかし足を小さく揃えて小股で滑るように歩くため、まるで人形が糸で操られているかのようだった。

年嵩の者は肉が落ち、深い皺が刻まれた顔が、薄暗い灯りの下で老婆のようにも、異形のようにも見えた。

彼らは声高く叫ぶこともなく、足音をほとんど立てず、酒器や扇を捧げ持ち、皇帝や皇后のわずかな仕草に即座に

反応する。

影のように大殿に溶け込みながらも、どこか異様な存在感を放っていた。


弦は一瞬、その集団を目で追ってしまった。

人間でありながら、人間らしくない——そんな奇妙な印象が胸に残った。


最上段の玉座の隣に座る皇后・詠華は、穏やかな微笑みを浮かべ、優雅に扇を傾けている。

その横に公主・優那。茶の芸を持つ彼女の視線は静かだが、どこか冷たかった。

皇太子は席の端で酒を傾け、遊び人らしい軽やかな笑みを浮かべているが、その目は鋭く会場を観察していた。


宰相席には現四芸が並んでいた。

厳格な顔立ちの琴の透真、無表情に書物をめくる書の凛寧、全身に墨の刺青を入れた画の澄江、そして魔性の微笑みを浮かべる棋の智月。


弦の視線が、文武官席の端にふと止まった。

そこに、斎いつきがいた。

あの宿で会った男が、穏やかに酒を飲みながらこちらを見ている。

弦と目が合うと、斎は小さく唇の端を上げ、杯を軽く傾けてみせた。

まるで「ようこそ、王都へ」と言っているかのような、余裕のある笑みだった。

弦はすぐに目を逸らした。

あそこにいるな——と思った瞬間、胸の奥がわずかにざわついた。


そのとき、弦の視線は自然と宰相席の一人へ移った。

厳格な顔立ちをした男——透真。

一瞬で分かった。

あれが、自分の父だ。


透真はこちらを静かに見つめていた。

厳しい表情の中に、ほのかに温かみのある眼差しが混じっているように感じられた。

弦の胸が、ちくりと痛んだ。

(……会いたくなかったのに)

弦は慌てて目を逸らした。

父の視線が、まだ自分に向けられている気がして、背中が熱くなった。


突然、殿の奥から低い鐘の音が響いた。

扉がゆっくり開き、皇帝が姿を現した。

黒と金の袍を纏い、髭を蓄えた威厳ある姿。

一歩踏み出すごとに、空気が重く、圧倒的に変わっていく。

近くに控えていた宦官の一人が、素早く扇を広げて風を送り、もう一人が玉座の脇に跪いて待機した。その動きは滑らかで、ほとんど音を立てない。

誰もが息を呑み、視線を伏せた。


皇帝が玉座に着くと、全員が立ち上がり、深く頭を下げた。

静寂が大殿を支配する。

競演官が壇に上がり、声を張り上げた。


「本日は競演合格者の顔合わせを兼ねた初迎宴でございます。合格者十名をご紹介いたします」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ