第六話 初迎宴ー上ー
初迎宴の会場である大殿は、宮廷の中心にふさわしい荘厳さだった。
天井高く金箔の龍が舞い、朱塗りの柱が立ち並び、壁面には四季の花鳥風月を描いた巨大な壁画が広がっている。
中央の壇では楽師たちが静かに琴と笛を奏で、優雅な調べが殿内に満ちていた。
長テーブルには珍味が並び、黄金の器が燭台の炎に照らされて輝いている。
すでに宮廷の要人たちが着席していた。
玉座の近くでは、数人の宦官たちが静かに控えていた。
彼らは一様にひげのないつるりとした顔をし、声は高く細い。
動きは素早く、しかし足を小さく揃えて小股で滑るように歩くため、まるで人形が糸で操られているかのようだった。
年嵩の者は肉が落ち、深い皺が刻まれた顔が、薄暗い灯りの下で老婆のようにも、異形のようにも見えた。
彼らは声高く叫ぶこともなく、足音をほとんど立てず、酒器や扇を捧げ持ち、皇帝や皇后のわずかな仕草に即座に
反応する。
影のように大殿に溶け込みながらも、どこか異様な存在感を放っていた。
弦は一瞬、その集団を目で追ってしまった。
人間でありながら、人間らしくない——そんな奇妙な印象が胸に残った。
最上段の玉座の隣に座る皇后・詠華は、穏やかな微笑みを浮かべ、優雅に扇を傾けている。
その横に公主・優那。茶の芸を持つ彼女の視線は静かだが、どこか冷たかった。
皇太子は席の端で酒を傾け、遊び人らしい軽やかな笑みを浮かべているが、その目は鋭く会場を観察していた。
宰相席には現四芸が並んでいた。
厳格な顔立ちの琴の透真、無表情に書物をめくる書の凛寧、全身に墨の刺青を入れた画の澄江、そして魔性の微笑みを浮かべる棋の智月。
弦の視線が、文武官席の端にふと止まった。
そこに、斎いつきがいた。
あの宿で会った男が、穏やかに酒を飲みながらこちらを見ている。
弦と目が合うと、斎は小さく唇の端を上げ、杯を軽く傾けてみせた。
まるで「ようこそ、王都へ」と言っているかのような、余裕のある笑みだった。
弦はすぐに目を逸らした。
あそこにいるな——と思った瞬間、胸の奥がわずかにざわついた。
そのとき、弦の視線は自然と宰相席の一人へ移った。
厳格な顔立ちをした男——透真。
一瞬で分かった。
あれが、自分の父だ。
透真はこちらを静かに見つめていた。
厳しい表情の中に、ほのかに温かみのある眼差しが混じっているように感じられた。
弦の胸が、ちくりと痛んだ。
(……会いたくなかったのに)
弦は慌てて目を逸らした。
父の視線が、まだ自分に向けられている気がして、背中が熱くなった。
突然、殿の奥から低い鐘の音が響いた。
扉がゆっくり開き、皇帝が姿を現した。
黒と金の袍を纏い、髭を蓄えた威厳ある姿。
一歩踏み出すごとに、空気が重く、圧倒的に変わっていく。
近くに控えていた宦官の一人が、素早く扇を広げて風を送り、もう一人が玉座の脇に跪いて待機した。その動きは滑らかで、ほとんど音を立てない。
誰もが息を呑み、視線を伏せた。
皇帝が玉座に着くと、全員が立ち上がり、深く頭を下げた。
静寂が大殿を支配する。
競演官が壇に上がり、声を張り上げた。
「本日は競演合格者の顔合わせを兼ねた初迎宴でございます。合格者十名をご紹介いたします」




