表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
芸ノ譚 ー灰に舞う琴音ー  作者: 宮山悠
第一章 布石ノ盤

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/8

第五話 入宮

弦は掲示板に貼られた自分の似顔絵を、ぼんやりと見つめていた。

合格。


……なぜ、合格してしまったのだろう。

落ちるものだとばかり思っていた。

なのに、自分の名前がそこに書いてある。


弦は胸のざわつきを抑えきれず、急いで宿に戻ると、わずかな荷物をまとめ、王都の宮廷門へと向かった。


門は厳重に守られ、黒装束の衛兵たちが無言で立っている。

弦は一度深く息を吸い、ゆっくりと門をくぐった。


宮廷の広間に着くと、すでに他の九人の合格者が揃っていた。

弦が入ると、視線が一斉に集まった。


「遅いっちゃ。早くしなさいよ」


腕を組んだ佳恋が、苛立ったように言った。

彼女は弦を上から下までじろりと見て、鼻を軽く鳴らした。


「顔はええけど、身なりがあかんね。こんな恰好で宮廷に入ったら、すぐに笑い者やで」


弦は小さく頭を下げた。


「……すみません」


競演を仕切る役人が近づいてきて、穏やかに告げた。


「皆さん、お集まりいただきました。これより更衣室へご案内します。本日は初迎宴に参加いただきます。宮廷の皆様と顔合わせです」


更衣室は、想像以上に豪華な部屋だった。

女官たちが待ち構え、弦と佳恋を囲んだ。


佳恋は慣れた様子で女官に身を任せ、深紅の袍を纏った。

金糸で鳳凰が刺繍された裾、長く優雅な袖。

面を外した素顔は、白い肌に切れ長の目、艶やかな赤い唇が際立ち、部屋の中が一瞬静かになった。

佳恋は鏡をちらりと見て、軽く肩をすくめた。


「ま、こんなもんかね」


次に弦の番になった。

女官の一人が優しく声をかけた。


「初めてのお化粧ですね。緊張なさらないでください」


弦は小さく頷いた。

淡い青緑の袍を着せられ、胸元に銀糸で繊細な琴の意匠が刺繍された。

袖は長く動きに合わせて優しく揺れ、腰には薄い金色の帯が結ばれた。

髪はゆるやかに結い上げられ、青い玉の簪が挿される。

軽く白粉をはたき、唇には薄い紅が差された。


鏡に映った自分を見て、弦は静かに息を呑んだ。

――この姿は、私じゃない。

まるで別人のように整えられた姿に、強い違和感が胸に広がった。


女官が背中を軽く叩いて微笑んだ。


「とてもお似合いです。堂々としてくださいね」


佳恋が横から、厳しくも優しい声で言った。


「ぼーっとしてんと、しっかりしなさい。ここは宮廷よ。油断したら一瞬で潰されるからね」


「あ……はい」


初迎宴の会場へ案内されたとき、すでに宮廷の貴人や皇族、文武官たちが着席していた。


弦たちは競演官に導かれ、中央の壇の上へ上がった。

会場中の視線が、一斉に集まる。


弦たちは壇の上で、ただ静かに立っていた。


華やかな灯り、豪華な衣装、ざわめく話し声。

すべてが、自分とは違う世界のように感じられた。


なぜここに立っているのか。

なぜ合格してしまったのか。


弦はそっと目を伏せ、胸のざわつきを抑えた。


これから、何が待っているのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ