心に灯るもの(1)
日が暮れて、街に灯りがともるころ。
俺たちは、駅前のちいさなレストランで飯を済ませて、夜風に吹かれながら帰ってた。
「……今日、楽しかったなー」
ぼそっと俺がつぶやくと、隣を歩く秦がちらりと横目で俺を見た。
「そうだな。……お前が笑ってると、俺も楽しい」
「っ……」
不意打ちみたいに投げられたその言葉に、胸がきゅうっと締め付けられる。
いつもの冗談めかした軽口じゃない。
まっすぐで、あたたかい声だった。
俺は、何て返せばいいかわかんなくて、ただポケットの中で手をぎゅっと握りしめた。
夜の空気は少し冷たくて。
それなのに、心臓のあたりだけ妙に熱かった。
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マンションに戻ると、玄関の鍵を開けながら秦が言った。
「シャワー、先浴びろよ」
「……ん。ありがとな」
いつもの何気ないやりとり。
だけど、胸の奥がふわふわしてた。
湯船につかりながら、今日のことを思い返してた。
おこげに出会ったこと。
秦が、何も言わずに隣にいてくれたこと。
テラス席で、俺の手に自分の手を重ねてきたこと。
(……猫化してなくても、俺、秦のこと……)
そのとき、はっきり気づいた。
俺は、猫化してるときだけじゃない。
普通の、"素の俺"の心でも、秦のことが好きなんだ。
耳も尻尾もない、ただの俺でも。
秦に撫でられると嬉しくて、笑いかけられると、胸が跳ねる。
(ずっと……そうだったんだ)
それを、ようやく素直に認めた。
ふわりと、お湯よりもあったかいものが、胸いっぱいに広がった。




