ふたりだけの秘密(6)
やっと迎えた、久しぶりの休み。
俺と秦は、朝から街に出かけてた。
ショッピングモールをふらふら歩いて、気になった店を冷やかして、ちょっとした軽食をつまむ。
ただそれだけのことが、やたらと楽しい。
「……なあ、秦。あそこのカフェ、ちょっと良くね?」
「お、いいな。行くか」
俺が指差したのは、こじんまりした路地裏のカフェ。
テラス席もあって、天気のいい今日にはぴったりだ。
並んで歩きながら、ふと、路地の隅でうずくまる小さな影に気づいた。
「……ん?」
俺は立ち止まる。
よく見ると、それは一匹の野良猫だった。
白と茶のまだら模様。ガリガリに痩せてて、ちょっとだけ傷も見える。
「おい、大丈夫か?」
自然に、しゃがみ込んで声をかけてた。
猫は、ぱちりと大きな目を瞬かせて、俺をじっと見つめる。
「……びっくりしたか。悪い、怖がらせるつもりじゃなかった」
そっと手を伸ばすと、猫は警戒しながらも、逃げようとはしなかった。
ほんの少しだけ、体を震わせながら、俺の指先に鼻を寄せる。
「……頑張ったな。ひとりでここまで来たんだな」
ぽつりと、自然に言葉が出た。
「腹、減ってんだろ。……オレの分けてやるか」
そう言いながら、ポケットの紙袋から、さっき買ったベーグルをちぎって差し出す。
「来人」
秦が後ろから声をかけた。
振り返ると、手には猫用のおやつが握られていた。
「店で売ってた。これ、やれ」
「……ありがと」
そっと、おやつを猫の前に置くと、警戒しながらも猫は一口かじった。
その様子に、心底ほっとする。
「ちゃんと食ってる。……良かった」
秦が俺の隣にしゃがみ、無言で肩をぽん、と叩いた。
「なあ、オレ、コイツ……『おこげ』って呼びたい」
思わず笑いながら、俺は言った。
茶色い毛並みが、一番に目に入ったから。
「いい名前だな」
秦もくくっと笑う。
「おこげ、またな。……元気でいろよ」
そう優しく声をかけて、俺たちは立ち上がった。
振り返ると、おこげが小さな声で「ニャッ」と鳴いた。
まるで、バイバイって言ってるみたいに。
***
カフェのテラス席に座った俺たちは、ゆっくりコーヒーを飲みながら街を眺めた。
「……なあ、秦」
「ん?」
「俺、やっぱ猫と話せるっぽいわ」
「……知ってる」
即答されて、思わず吹き出す。
「バレバレだったか」
「お前が話しかけてんの、ずっと見てた」
「……恥ずっ」
顔が熱くなる。秦は笑いながら、俺の頭をくしゃっと撫でた。
「優しいとこ、オレは好きだけどな」
低く、優しい声。
それだけで、胸がぎゅうっと熱くなった。
俺はそっと、秦の手に自分の手を重ねた。
おこげみたいに、また誰かに出会ったら、きっと今度も手を差し伸べたい。
そんなふうに思った、春の休日だった。




