選んだ未来に、君がいるなら(7)
ソファに寄り添ったまま、ふたりはしばらく何も話さなかった。
ただ、体温だけが確かにそこにあって、ようやく元に戻った鼓動が、お互いの胸の奥でゆっくりと重なっていた。
「……来てくれると思ってた」
不意に、白沢がぽつりと言った。
深月は顔を上げる。
「……え?」
「今日じゃなくても、明日でも、一ヶ月後でも、あんたは、きっと戻ってくるって思ってた。……せやから、ずっとソファは空けてた。あんたが帰ってきたら、座れるようにって」
深月の喉がきゅっと締まる。
そんな細やかで、ささやかで、誰にも気づかれないような「待つ姿勢」を、白沢はずっと崩さずにいてくれたのだ。
「……ずるいよ、お前、そういうとこ……」
深月はふっと笑って、白沢の額にそっと自分の額を寄せた。
「そんなの聞いたら、もう一生そば離れられないだろ」
「ええよ? 望むところや」
白沢はいたずらっぽく笑ったが、その瞳には滲むような光があった。
ふたりの間に流れる空気は、かつてのものと同じで、でもたしかに、少しだけやわらかくなっていた。
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数日後――深月と白沢は、以前と同じように深月の自宅ラボで作業に取り組んでいた。
白沢が淹れたコーヒーを片手に、深月はタブレットの画面をスクロールしている。机の上には、来人から返されたデータチップと、白猫・ユキの近影が貼られたメモ。
「これ、来人が送ってきた。“俺の一部、今はのんびり寝てる”ってさ」
「ふふ、幸せそうでなによりや」
白沢はモニターを覗き込むと、自然に深月の椅子の背に手を添えた。
肩越しの距離が近い。
だが、深月はもう何も言わない。ただその温もりを受け入れる。
「おれも、ここが一番落ち着くわ。あんたが何かに夢中になってる顔、昔から好きやったし」
「……集中できなくなるって意味では、若干問題だな」
「でも、悪くないやろ?」
「……まあな」
ふたりの視線が重なって、わずかに笑い合う。
やわらかい朝の日差しがラボの窓から差し込んで、壁にふたりの影を落とす。その輪郭は、ぴたりと寄り添っていた。
新しい日々は、特別なものではない。静かで、些細で、淡々とした日常。
けれどそこに、互いの存在があるという事実だけで、世界は驚くほどやさしくなっていた。
深月はそっと、白沢の手に指を絡めた。
「……もう、どこにも行くなよ」
「そっちこそな」
ふたりは互いに誓うように目を見て、そして何も言わずに微笑み合った。
選んだ未来に、君がいる。
それだけで、すべてが満たされていた。




