エピローグ
春の気配が、ようやく街に根を下ろしはじめた午後。
いつものカフェのテラス席では、いつもの4人がいつも通りの顔をして笑っていた。
「……で、ほんとに出なくなったの?耳とか尻尾とか」
来人がストローをくわえたまま、白沢をじっと見つめる。
「出ぇへんよ。てか、確認のためにいちいち聞くなや」
「でもさ、前は兄貴の前に立っただけでピョコンってなってたじゃん?」
「やめろ。言い方が恥ずかしい」
白沢は少しだけ顔を赤くして目を逸らした。
その隣で、深月が紅茶を口に運びながら、小さく笑う。
「……でも、確かに静かになったな。あれ以来」
「……ああ」
白沢がその言葉に頷く。もう耳も、尻尾も、生えてこない。
日常がようやく、普通の形に戻った。
「つーか、俺の猫耳もマジで幻だったのかな。最近ぜんぜん出ないし」
「そもそも、お前のは出たり出なかったりだったろ」
「それな!テンションでケモ度が変動する男・冬崎来人!」
「うるせえよ涼一!」
来人の叫びに、コーヒーを吹きそうになった秦がむせる。
「まじで“感情が猫耳に出る男”だったからな」
「うるせー!俺だって望んで出してたわけじゃねーし!」
来人が抗議するも、秦と白沢にニヤニヤされるだけ。
あの日々は、なんだったんだろう。
でも、きっと――無駄じゃなかった。
ふと、白沢が深月の方を見た。
目が合った瞬間、お互い少しだけ視線を逸らす。
けれど、その手はテーブルの下でそっと触れ合っていた。
以前とは違う、でも確かな距離。
「……てか、お前ら」
来人がじと目で睨む。
「手、つないでんの見えてんだけど?」
「え?なにが?」と深月。
「惚気か!?惚気ってことか!?」
「わあ、うさぎが人前でイチャついてる……!」
「元ウサギや!今は普通のイケメンです!」
カフェのテラスに、いつもと変わらぬ――でも少しだけ前よりやさしい空気が流れる。
笑い声と春の風が、あたたかく吹き抜けていった。




