にゃんとも騒がしいヒーローたち!?(4)
深月のラボを出た頃には、空はほんのり夕焼けに染まり始めていた。
畑中は、来人の猫耳に名残惜しげな視線を残しつつ、ドア前で足を止めた。
「じゃあ、僕はこれで」
「……うん。今日はありがと」
来人がそっと頭を下げると、畑中はその花紫の髪に手を伸ばしかけて、途中でやめた。
「……触れたいところだけど、これ以上は怒られそうだ」
「正解だと思うけど」
即答した秦に、畑中はくすっと笑う。
「いや、ほんとに。さっきから思ってたけど――君、思ったより不器用だよね。でも、そういうところも……まあ、来人くんにとっては、悪くないのかもしれない」
秦が一瞬、目を細める。
畑中はふと視線を落とし、少し寂しげな表情でつぶやいた。
「来人くんは、僕にとってずっと“あの頃の小さな王子”だった。でも今日、剣を握って前に立った彼を見て、気づかされたんだ」
「……?」
「彼は、もう自分で歩ける人になった。だから、僕の出番は、もうないのかもしれないって」
そう言いながらも、畑中はにっこりと笑い、ジャケットを翻して軽やかに振り返る。
「――でも、諦めるとは言ってない」
「は?」
「人生、いつどこで大逆転があるかわからない。僕はまだ、来人くんの“いちばん”を諦めたわけじゃない。……そのうち、また遊びに来てもいいかな?」
深月が肩をすくめた。
「勝手にしろ。データ取りにはちょうどいいしな」
「えらい余裕やなぁ、ほんま」
白沢が笑うと、来人がちょっとだけ不安げに秦を見上げる。
「……平気?」
「平気だ。お前が俺を選んでくれたなら、それだけでいい」
ぽつりと、でも確かに。
その言葉に来人の頬が真っ赤に染まり、猫耳がぶわっと立ち上がった。
「な、なんでそういう恥ずかしいこと急に言うかな!!」
「言っとかないと、また誰か変なのが来るからな」
「……だれが“変なの”だい?」
振り返りざまの畑中の声が、夕焼け空に軽やかに響いた。
来人の心にほんの少しのざわめきを残して、畑中司は颯爽と街へと消えていった。
「深月、あのゲームさ、リトライできるようにしといて」
「ん、理由は?」
「……来人が、もうちょっと強くなるところ、ちゃんと見届けたいからさ」
夕暮れの空に目をやりながら、秦は柔らかな声で呟いた。




