にゃんとも騒がしいヒーローたち!?(1)
週末の昼下がり。深月の自宅ラボには、珍しく訪問者の足音が響いていた。
「やあ、深月くん。今日は突然押しかけてしまって申し訳ないね」
ジャケットをきっちりと着こなし、黒縁の眼鏡をかけた青年が、品のある声で微笑んだ。彼の名は、畑中司。深月と白沢と同じ医大の同期であり、かつては学生ながら研究論文で医学誌に名を連ねたほどの才媛──いや、才男である。
深月は椅子を回転させ、畑中の顔を見てため息をついた。
「……なに? 今日は何の視察? うち、開業してないけど?」
「視察? とんでもない。ただ、来人くんのことを白沢くんから聞いてね……どうにも、居ても立ってもいられなかったんだよ」
にこりと笑うその裏に、何かを見透かすような光が宿っていた。
「君の弟、最近同居人がいるんだって?名前は……確か、秦くん?」
「おー、そこに引っかかった? さっすが畑中」
白沢が深月の後ろからひょっこり顔を出して、肩をすくめる。
「すまん、ミツ。おれ司に余計なこと喋ってもうたかもしれんわ」
「いいんだ、白沢くん。僕は来人くんを、学生のころから可愛がっていたんだから」
深月は黙ったまま畑中の顔を見つめた。そして、ほんの数秒後、いつものように気だるげな笑みを浮かべた。
「……んじゃ、行ってみる?来人んとこ。案内してやるよ」
「本当に? ありがたいね。やっぱり君は話が早い」
「でも言っとくけど、後悔しても知らないからね」
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ピンポーン。
来人と秦が住むマンションの玄関チャイムが鳴った。モニターに映る深月の顔に、来人はホッと息をつく。
「兄貴か……なーんだ。びっくりした……」
秦はソファに腰かけたまま、ちらりと玄関を見やった。
「また急だな。何か用か?」
「いや、何も言ってなかったけど……とりあえず開ける」
玄関ドアが開いた瞬間だった。
「やあ、来人くん。元気そうだね?」
そこにいたのは、見覚えのある人物──畑中 司。
「……えっ……つ、司さん!?」
来人が慌てて耳を押さえるが、時すでに遅し。見事な三角の猫耳が、頭の上でぴくりと揺れていた。
「……ふふっ。これはこれは……なんてチャーミングな変化だろう。驚いたよ、いや、眼福というべきかな」
来人の顔が見る見るうちに赤くなっていく。
「み、見ないでくださいよ……!」
「隠すなんて、もったいないことをするなよ。こんなに可愛らしいのに……ああ、まさか来人くんが、こんなに成長していたとは」
畑中の目がきらりと光る。秦はその様子を見て、眉をひそめた。
「……誰だよ、あんた」
「ああ、失礼。畑中 司と申します。来人くんの高校時代の……まあ、兄のような存在だったと言っていいかな」
「兄ってのは深月一人で十分なんだが?」
「へえ、それはそれは。ずいぶん近しい関係のようだ。君こそ、どういう立場なんだい?」
空気がピリッと凍る。秦と畑中がじりじりと視線をぶつけ合う中、来人はたじたじと後ろに下がった。
「ちょ、ちょっと……ケンカしないでよ……!」
そこへ、深月が肩をすくめて言った。
「……じゃあさ。勝手に来人を取り合ってもらっても面倒だから、ゲームで決めるってのはどう?」
「ゲーム?」秦が眉をひそめる。
「俺が開発中のやつ。バーチャル世界で、プレイヤーがヒロイン──つまり来人を救うアクションRPG。ストーリーもけっこう凝ってるぜ?」
畑中は眼鏡のブリッジを押し上げた。
「……面白そうだ。やってやろうじゃないか」
「望むところだ」
睨み合うふたりの間で、来人の耳がぴこぴこと動いていた。




