耳出しデートと観覧車(1)
土曜日の朝、深月の愛車にぎゅうぎゅうに乗り込みながら、来人は何度目かのため息をついた。
「まさか、町内会のくじでテーマパーク当たるとはな……」
「しかもファミリーチケットて、俺たちそんなに家族感ある?」
「ふふっ、でも楽しみやな。動物いっぱいおるんやろ?」
助手席の白沢はパンフレットを抱えて、目をきらきらと輝かせていた。
後部座席の来人と秦がちらりと視線を交わす。
「……大知さん、めっちゃやる気満々」
「そりゃそうやろ。こんなん、子供のころ以来やもん」
「ま、俺は付き合いだけどな」
運転席の深月は小さくあくびをしながら、バックミラー越しに白沢をちらと見る。
けれど、白沢が無邪気に笑っているのを見ると、口元がゆるむのを止められなかった。
「……まあ、おまえがそんなに楽しそうなら、悪くねぇか」
「なにそれ、もうちょいテンション上げていこやー」
「はいはい」
深月の声は気だるげなままだったが、その手はアクセルをゆるやかに踏み込んでいた。
こうして、ドキドキのダブルデートが静かに始まったのだった。
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「あら!そちらのカチューシャすごくリアルですね! もしかして常連さんですか?」
エントランスのスタッフが、来人と白沢ににこやかに声をかけた。
「えっ、あ、い、いえ……初めてで……」
来人があたふたしながら耳を押さえると、スタッフは目を輝かせた。
「そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ〜。すっごくお似合いです!」
来人は目線を逸らしながら、そっと白沢のうさ耳と自分の猫耳を確認する。
(……これ、完全にバレてへん……)
「作戦成功、だな」と深月がぼそっとつぶやいた。
その横で、白沢が少し誇らしげににこっと笑う。
今回のために深月が調合した“短時間だけケモ化状態を安定させる薬”のおかげで、2人は自然な状態のまま耳を隠さずに園内を歩けているのだった。
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「っっっあああああかんっ!! ムリムリムリムリ無理やぁ!!」
お化け屋敷の出口から飛び出してきた白沢が、思いきり深月にしがみついた。
その耳はピーンと立ち、しっぽは逆立っている。
「……大知、うるせぇ」
「びっくりしすぎて心臓止まるかと思ったぁぁ……! あかん、ホンマ無理……」
「大丈夫だった? 俺ら、ちょっと笑いすぎたかな……」
来人が笑いをこらえながら背中をさするのを、秦が横で微笑ましそうに見ていた。
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「観覧車、乗る?」
と来人が指さした先、大きなカラフルなゴンドラがゆっくりと空を登っていく。
「……あー……俺、あれは……パスで……」
秦がめずらしく視線をそらして答えたのを、来人はぴたりと見つめた。
「えっ、まさか、高いの苦手?」
「……得意じゃない」
「うわ、秦にも弱点あったんやな……」
白沢がケラケラ笑うと、深月も「珍しいな」と肩をすくめる。
秦は少し頬を赤くしながら「……誰にも言うなよ」と小声でつぶやいた。
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「ここ、来たことある」
ふと、来人が立ち止まり、小さな芝生広場を見つめた。
「たしか、母親が弁当作ってくれてさ……あのベンチ、まだあるんだな」
「……懐かしいな。俺、アトラクションよりあのポップコーンに興奮してた記憶ある」
深月も隣に立ち、目を細めた。
「ここ、また来れてよかったな」
「今度は……この4人でね」
来人の言葉に、深月が小さく頷いた。
そのすぐ後ろで、秦とうさ耳状態の白沢が並んでいるのを見た深月は、ふっと目を細めて小さく笑う。
「……悪くない一日だな」




