猫耳と夏の約束(4)
深月の自宅ラボ。
外では虫の声と、時おり吹き抜ける風鈴の音が響く夏の夜。
「なぁミツ……ほんまに今夜これ観るんか?」
白沢は毛布を抱えたまま、明らかに及び腰でソファに腰を下ろしていた。
深月はというと、冷たい缶ジュースを片手にモニターを操作している。
「話題作だぞ?この前も配信サーバーが落ちるくらい盛り上がってたやつ」
「いや、せやけど……よりによってホラーて……!」
「大丈夫。おまえ、うさぎになる以外は元気じゃん」
「それが問題やって言うてんねん!」
始まって数分。
ジリジリと音が響く不穏なBGM。画面に現れる人影。
白沢はすでに毛布にくるまり、ソファの隅で縮こまっていた。
「ちょ……今なんか映ったやんな!?見えたやんな!?ミツ、見えたよな!?」
「見えたね。普通にカメラに向かって手振ってた」
「やめろぉぉぉ!!!!!」
ビクッと飛び上がった拍子に、ぽふっ。
白沢の腰の下から、まんまるのしっぽがぴょこんと生えた。
「……うさぎ出た」
「うぅ……や、やっぱ無理やって……っ」
耳まで出てきて、しゅんと下がっている。
深月は吹き出しそうになるのをこらえつつ、隣に座ってポップコーンを差し出した。
「食べる?」
「今それどころやないって……!ていうか、なんでミツはこんな冷静でいられんねん……」
「科学的に考えて、これは演出だからな」
「科学関係あらへんやろぉぉぉ!!」
その後も、白沢は何度もぴょこぴょこうさ耳を揺らし、
映画のクライマックスでは、思わず深月の腕にしがみついてしまった。
「……ミツ、こわい……」
「はいはい。もうちょいで終わるから我慢しろ。ほら、耳戻して」
「戻らへん……ムリぃ……」
呆れつつも、深月は白沢の頭をぽんぽんと撫でる。
すると耳が少しだけピクピクと揺れて、徐々に引っ込んでいった。
「……ったく、ホラー映画ごときで何うさぎ化してんだよ」
「ミツが……ミツが悪いんや……っ」
映画が終わったあと、白沢はぐったりとソファに沈み、
「一生ホラー観ん」と呟いたのだった。
深月はというと、
そんな白沢のへたれっぷりを見て、心の中で「今度は続編だな」と静かに決意した。




