猫耳と夏の約束(3)
来人は、秦の腕に残るひっかき傷を見つめていた。
「やっぱり……ちゃんと手当てする」
そう言って、そっと秦の腕を引き寄せる。
猫耳はすっかり消えていたけど、しっぽの先だけがまだ名残惜しそうに動いている。
来人は救急箱を引っ張り出し、消毒液と絆創膏を取り出した。
いつもは秦が自分にやってくれることを、今日は自分が返したいと思った。
「沁みるかも。……ごめん」
「大丈夫。来人がやってくれるなら、どんなのでも平気」
そんな言葉に、また心臓がばくばくする。
消毒液を含ませたコットンで、傷口を優しくなぞる。
秦は微かに息を呑んだが、すぐに笑みを浮かべて来人の手を見つめた。
「来人って、器用だよな。手つき、優しい」
「うるさい……集中してんの」
頬を赤くしながらも、来人は丁寧に絆創膏を取り出した。
小さめのサイズを選んで、そっと貼り付ける。
「……これでよし」
「ありがとな」
「うん」
静かな時間が流れる。
貼ったばかりの絆創膏の上に、来人はそっと唇を押し当てた。
「これで……もう痛くない、でしょ?」
その行動があまりにも甘くて、秦の胸の奥が熱くなる。
「……反則だって、そういうの」
「さっきのお返し。いっつも優しくしてくれるから」
「……好きだぞ、来人」
「……俺も」
ふたりは、そのままソファに寄り添って座り直し、
まだ熱を残した夜に、静かに身を委ねていった。




