猫耳と夏の約束(2)
蒸し暑い夏の夜。
エアコンの効いたリビングに、来人と秦は並んで座っていた。
ソファにだらりと凭れながら、来人はパジャマの裾からのぞく秦の素足を見つめていた。
一日の終わりに、こうして一緒に過ごせるのが、何よりの癒しだ。
「涼一~、なんか甘いもの食べたい」
「……それ、30分前にアイス食ったやつのセリフ?」
「アイスは飲み物。今は別腹の甘いやつがいい」
「わかった、あとでなんか用意するから、まず俺にくっつくの禁止な」
「えぇ、なんで?」
「ほら……耳、出てきてんぞ」
来人は思わず自分の頭に手をやり、ぴくりと反応した猫耳を確認してしまう。
いつの間にか、動物的反応抑制薬を飲み忘れていたらしい。
「……また薬忘れた。しかも、よりによって今日はずっと家にいるのに……」
「でもまあ、外に出ないなら平気だろ」
「そうだけど……俺、最近すぐ猫化するし……」
「そりゃ、好きな人と一緒に暮らしてて、スキンシップ多めの生活してたらな?」
秦がそうからかうように囁くと、来人の耳と尻尾がぶるんっと反応する。
「や、やめろって……!」
そのときだった――
焦った拍子に手を振り上げた来人の指先が、秦の二の腕をかすめた。
「……っ」
「涼一っ!?」
ぴたりと時間が止まった。
秦の腕には、うっすらと赤いひっかき傷が――
さっきの動作で、無意識に出た猫爪が当たってしまったのだ。
「ご、ごめんっ!!俺……!痛かった? 大丈夫!?」
来人は半泣きで秦の腕に手を伸ばすが、秦は傷を見もせずに落ち着いた声で言った。
「平気。血もほとんど出てないし」
「でもっ……」
「なあ、来人。引っかかれたことより――お前が泣きそうになってる方が、俺はつらいんだが?」
秦はゆっくりと来人を抱きしめた。
猫耳が秦の胸元にふにゃっと押し当てられる。
「……俺、お前が猫になっても、引っかいても、毛がついても好きだよ」
「毛が……それはちょっとイヤかも……」
「そこかよ」
「でも……ありがと、涼一……」
来人はそっと顔を上げて、秦の肩に小さくキスを落とした。
「次はちゃんと薬、忘れないようにする」
「そう言って昨日も忘れてたけどな」
「……もうちょっと構ってくれたら、落ち着くかもしんない」
「お、つまり甘えてくれるってこと?」
「バカ……」
照れくさそうに猫耳を伏せながら、来人はそっと秦の膝に頭をのせる。
しっぽをぴたりと巻きつけながら、甘えたような喉鳴りが、微かに響いていた。
秦は優しくその耳の後ろを撫でながら、穏やかに笑う。




